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盗賊狩り

 学業、青春、友情、努力、どれも前世の僕には馴染みのない言葉だった。

 

 でも、生まれ変わりその頃合いを迎えた今、この時こそがその夢を実現する最大のチャンスなのだが……

 ここで僕はある一つの大きな課題にぶち当たっていた。


 学校に通うには、保護者の同意、それと同時にもしも僕が問題を起こしたときに責任を引き受ける責任者が必要なのだが……


 言わずもがな僕は孤児だ。


 それに加えて孤児院を抜け出してきてしまったので保護者などいない……


 僕は考えた。


 考えに考え抜いた末にたどり着いた結論は……


「あれ? これ詰んでね?」



――――――



 僕の野望は儚く、僕を捨てた心無い両親のせいで潰えてしまったのだった。


 そんなこの世の不条理に愚痴を漏らしながら、今日も今日とて盗賊狩りだ。


「夢は潰えど腹は鳴る……どれだけ不条理な世界なんだ。なあ君もそう思うだろ?」


「て、てめえ!! 何者だ!?」


 そう、怯えた声色で僕に怒鳴るのは、ここ数日ここらで商人に盗賊行為を働いて金品や商品を奪いまくっていた悪い盗賊団の頭領だ。

 14歳が合法的、かつ誰にも(善人)迷惑を掛けずに生きていくための銭を稼ぐには、そこら辺にたむろしている野党を狩るのが一番手っ取り早い。

 そして今回のような中規模の盗賊団となると、魔導書が一二冊手に入るほどの大金が手に入るため、今日はこうやってウキウキワクワクしながら盗賊狩りをしているわけだ。


 というわけで、なんだかんだと聞かれたら答えてあげるが世の情け、ってことで名乗ってあげるとしよう。


「う~ん……見た目は子供、頭脳は合計三十路、そして見てくれ通りの盗賊ハンター……ってとこかな?」


「クソガキがふざけやがって!! 死ねぇ!!」


 そう叫びながら鬼の形相で切りかかってくる男。仲間を奇襲で全滅させられて怒り心頭なのだろう。

 怒りに任せた攻撃ではあるが一応剣筋はいい、だが魔力の使い方もなってないし、直線的に突っ込んでくるあたり判断力も低い、そして何より……


「ここは盗賊らしく”逃げる”のが最適解だ」


 そう、実力差の開いた僕に挑んできたのが端から間違いだったのだ。


 この世界に生まれて、数々の修羅場を乗り越えてきた僕は、そこら辺の魔法騎士なんかよりも強くなっていた。


「なにいっ!?」


 魔力を込めた右脚で地面を蹴り、彼との間合いを一気に詰める。


 ガィン!!


 彼と僕の剣が交差し、鈍い金属音が鳴り、そして彼の剣が吹き飛ばされる。

 武器を失った彼は10メートルほど後ろに飛び退き、腰に差していたもう一本の短刀を構えなおした。 


(こいつ本当に何なんだ!? 俺は元王都近衛騎士団の一員だぞ!?)


「よく反応するね。ならこれはどうかな?」


 僕はそう言って剣を鞘に納め、魔力で風の剣を成型する。

 「見えない」というのは対人戦において非常に有効であり、派手に炎やら氷やらをぶっ放すよりも遥かに効率的で性能が高い。


 だが、通常の自然現象に則っていては『風の刃』などという現象は起こりえない。そこで僕は『気体を固体化する魔法』に焦点を当てた。


 この魔法は元来気体を固体化して『無機物を自身を0とした任意の座標上に固定する魔法』と併用することで空中歩行を可能にしたり、障壁を張ったりする魔法であり、そこまで細かいものを生成することはできないのだが『魔力で物体の型を取る魔法』で剣の『型』を作ることによって気体で剣を作り出すことに成功したのだ。


「見えない剣!? 古代遺物(アーティファクト)か!!」


「残念これは魔法だよ」


 そして僕は彼に切りかかる。 早速この『風の剣』の便利機能を紹介しよう。

 

 その一、軽い


(なんて速さの斬撃だ、魔力感知スキルがなけりゃ即死だった)


 見えない刃、しかも重さはほとんどないに等しい。

 最初は扱いづらさを感じはしたものの、慣れてしまえば普通の剣より扱いやすい。


 その二、魔法解除で爆風発生。


 風の剣は魔法によって生み出しているので、戦闘中に量産が可能だ。

 それに風の剣は見えないので、そこら辺に突き刺していても魔力感知持ちじゃなければ認識は困難だ。

 たとえ認識できていたとしても、地面に空気が突き刺さっているだけというのと、激し戦闘中というので相手は気にも留めない。

 そして、風の剣は生成時空気を大量に圧縮するため、解除すれば言わずもがな空気が発散してそこそこの爆風が起こる。

 なので、敵が地面に突き刺した風の剣に近づいたときに魔法を解除すれば


「うわっ!」


 こういう風に体勢を崩せるってわけだ。


 その三、非殺傷武器。


 風の剣は所詮風。

 肉は切り裂けど圧倒的な質量の無さから殺傷能力はそれほど高くない。

 

 だからこういうことが出来る。


「な…にを……した……」

 

 風の剣に施されている魔法に競合しないように『相手を眠らせる魔法』を魔法付与エンチャントすることによって切りつけた相手を眠らせ、殺さずに無力化することが出来るのだ。


 僕だってもとは現代生まれで義務教育を受けた(中学まで)日本人だったわけだし、人を殺すということには大きな抵抗がある。

 これまで人を殺したことなんて数度しかないし、これからもできる限り人殺しは避けようと思っている。

 

 そのせいか巷では誰も殺さず盗賊から宝だけ奪って消える様から『化け猫』なんて呼ばれてたりするらしい。


 まあそんなことはどうでもいい。

 

 今はお宝だお宝。


「うっひょー大漁だー!!」


 戦利品はできれば元の持ち主に返してやりたいところなのだが、生憎誰からとられたものなのかもわからないし、こちとら生活が懸かっているため、みすみす目の前にある宝の山を手放すわけにはいかない。


 漁った結果、獲得したお宝は現金が5万シード、金や宝石、美術品や香辛料は今までの経験から10万くらいにはなるから〆て15万、運が良ければ20万くらいにはなるだろう。


 日本円換算で1シード=10~12円くらいの価値だから大体これで200万円程度。


 これでも魔導書を買おうと思ったら2~3冊程度しか買えないので、いやはや本と知識の価値というというのは恐ろしい。


 王都とかの都会では活版印刷が普及し始めているようだが、こんな辺境のド田舎の町だとまだまだそんな最先端技術は普及のふの字も無い。


「いつか王都にもいってみたいな」


 だが、王都の周りは人口が多いからか腕の立つ盗賊狩りや騎士多く、さすがに盗賊が少ない。

 その代わりに人攫いが多いらしいので、むやみやたらに近づけないというのが現状だ。


 それと王都近郊の町には学校もあるらしく、それらのダブルパンチで僕は日々精神的にひもじい日々を送っているのだった。


「お金が溜まって、それともう少し成長したら王都に遠征してみるのもいいかな」


 そんな想像をしながら、あらかたお宝を回収し終えた僕が荷物をまとめた後、眠らせた盗賊たちの記憶処理を魔法で行っていたところ、近くの崖の方から何か大きなものが落ちたような音が響いた。


「なんだ?」


 割と近くで音がしたので、帰りの寄り道で見に行ってみることにした僕は記憶処理を済ませた後、荷物を抱えたままその音がした方へ駆けだした。


 走ること数分、見えてきたのは燃える森。


 油臭い、もっと詳しく言えばガソリン臭い香りがしたのでたぶん王都で流行している『魔導四輪車』が崖上からここに転落してきたのだろう。


 炎の中で倒れている男や女が数名皆黒焦げになっていたが一人、血を流してはいるが焦げずに残った白髪の男がいた。


「これはひどい」


 炎のを暴風で吹き飛ばしながらその男に近づくと周りに複数の気配を感じる。


 誰かが僕の魔力探知に引っかかったのだ。


「誰だ?」


 呼びかけても答えはない。

 相手は複数、おそらくは6~7人。 

 近くで盗賊が拠点を構えていたことを考えると、こいつらは多分さっきの盗賊団の一味であろう。


 攻撃してこないこの間はまるで「余計なことをしなければ手を出さない」とでも言っているかのようだった。


 盗賊狩りの帰りの寄り道でまさかこんな修羅場に遭遇するとは全くもって運が悪い。


 だがしかしこのまま放って帰ってしまっては多分この白髪のおじさんは殺されてしまうだろうし、魔法で記憶処理もしていないこいつらをこのまま拠点に帰らせては、僕が彼らを襲ったとバレかねない。


 家に隠匿魔法を掛けてはいるものの、そこら中探し回られたら家から出られなくなってしまう。


 僕の実力が悟られて拠点に逃げ帰られる前にこいつらを一気に仕留め、尚且つこのおっさんを庇いながら戦う。


 今の僕の実力では無殺生はたぶん無理だ。


 キィン!!


 金属と金属がぶつかり合う音。

 彼らのうちだれかが飛ばしたクナイのような形状の投げナイフを僕が弾いたその瞬間、盗賊たちが僕に一斉にとびかかってきた。


 投げナイフを飛ばすことでそこに敵の意識を持っていき、その隙に一斉に飛びかかって仕留める。

 子供相手にも容赦のない戦法。

 しかもそのうち二人の凶刃は倒れているおっさんに向けられており、通常なら完全に詰んでいる。


 だが……


「残念、目には目を歯には歯を、命には命をもって償ってもらう」


 彼らは人を殺した、僕に人殺しを見られた。

 ならば僕は彼らを殺すことに少なからずとも正当性を持つことが出来たというわけだ。


 今から使うは最強の魔法。


 この魔法の気に入らないところを列挙するとすれば魔力の消費がえげつないことと、威力の調整が全くと言っていいほどできないということと……


 魔法の名前が中二病臭い所だ。


「万象を滅ぼす魔法」


 そう僕が唱えた瞬間にことは終わった。


 僕を中心とした周囲の地形がえぐり取られ、おっさんと僕を除いて、木も土も炎も盗賊たちもみんな跡形もなく消え去った。


 この魔法を考えた奴は多分頭がおかしい。


 まあ僕なのだが。

 深夜テンションで魔法に命名するんじゃなかった……


 まあそれはそれとしてこの魔法の危険性について解説を行うとしよう。


 魔力というのは不思議な性質を持っている。

 エネルギーとも物質とも波長とも取れないどっちつかずのあやふやで不安定な性質を有している魔力は、他の種類のエネルギーによって負荷を掛けられると、そのエネルギーに置換されるという性質がある。

 簡単に言えば、魔力をとんでもなく加熱すると、魔力が熱エネルギーに代わるのだ。

 魔力のそんな性質を利用して、圧縮した魔力に負荷を与えて熱エネルギーへの置換を行う。

 その過程で魔力をエネルギー分解という、魔力版核分裂のような状態にすることで変換された熱エネルギーが無限大に膨張し、ある一点、つまりは臨界点を迎えると今度は逆にエネルギー崩壊を起こして収縮。

 生まれてしまった仮想のエネルギーが世界に与えた不整合を補填するため、飲み込んだ物質・エネルギーごと消滅するといったバグ技みたいなトンデモない魔法なのだ。


 起きている事象を簡単にまとめると、魔法の発動と同時にとんでもない大きさの黒紫色の内部が超高温・超高圧力の球体が発生、内部にある物質全てを蒸発させた後、最後にダメ押しで内部の物質とエネルギーを全部消し去るのだ。


 魔法を発動した魔力の波長と一致する魔力で中和結界を張れば任意のポイントだけ守ることもできるが、それも3ポイント、僕を除けば2ポイントが限界。


 できればこんな危ない魔法使いたくなかったのだが、背に腹は代えられない。


 ここはひとまず仕方がなかったと割り切って、このおっさんを家に連れ帰って手当てをしてやることにしよう。

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