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前世も今世も

 何不自由ない生活。

 充実感に溺れ、全てをないがしろにした代償を払うときは案外早く訪れた。

 不治の病。どれだけ医療の技術が発達したところで、原因不明の病で床に臥すということはこの世界では結構あることだ。

 両親はもちろん全力を尽くしてくれた――そう信じている。

 だが、不治の病が不治の病たる所以は言わずもがな『決して治らず、病人を死に至らしめるところにある。

 現代医術ではどうにもならない領域の事。

 両親はこの病を治すため、怪しげな宗教にのめり込むようになっていった。

 月に目玉が飛び出るような額の会費を支払わせ、胡散臭い坊主が家に来ては三十分程度の経を唱えて帰っていく、その新興宗教の悪評を、世間の情報に疎く、スマホすら持っていなかった母が知る術はなかったのだろうか。

 今でもそう思う……

 父はそんな母に愛想を尽かせ、僕を連れて家を出た。

 僕は都会の大学病院で集中治療を受けたが、遂に病が治ることはなく、今はただ、延命治療をしながら目前に迫った死を待つのみの身であった。


 今日目覚めて、明確に自身の死期を悟った。


 あともう少しで僕は死ぬだろう、と。


 ナースコールに手を伸ばすも、それすらかなわない程に衰弱しきったこの身体は、最早僕の言うことなど聞きはしない。


 きっとこのまま誰もいない真っ白な薬臭い病室で、一人孤独に終わりを迎えるのだろう。


 どうすれば僕は助かったのだろうか?


 もう少し早く病気が見つかっていればあるいは? とも考えたことはあったが、早く見つかったにしろ、現代の医療ではできることなど無く、きっと結果は変わっていなかっただろう。


 では、親が違えばよかったのか?


 いや、もしも僕が違う親から生まれて、違う人生を歩み、全く違う幸せを手に入れていたとしたら、それは果たして本当に僕なのだろうか?


 様々な可能性を模索した結果、夢物語というか机上の空論というか……そんなあやふやで曖昧で夢物語のような結論にたどり着いたのだった。


 『魔法』とか『奇跡』とか、そんなものだ存在しない限り、僕は僕のまま生き永らえることはないのだ。


 馬鹿げた話だが、そんな馬鹿げた机上の空論にもならないような妄想が、今や僕の生きる糧となっている。


 本で読んだ、アニメで見た、漫画で読んだ、出鱈目な力を振るい、出鱈目でみんなが幸せな、取って付けたようなハッピーエンドに僕は心から憧れた。


 だがそんなものが僕に訪れることはないのだろう。


 いつも世界は不条理で、僕にとって都合が悪い結末しか用意してくれない。


 今世も、来世も、前世すら。


 光が消えていく。


 音が遠くなる。


 感覚が消える。


 上も、下も分からない。


 最後に残った心臓の鼓動が、弱まっていく。


 ドクンドクンと刻まれる鼓動の間隔が開いていく。


 何も見えたくなってしまった目を見開いて、僕はそこに闇を見た。




 その刻、その瞬間、心臓が、鼓動が、血脈が、僕に終わりを告げたのだ



 ピーーーー ……



――――――



 その後、意識を取り戻して、最初に感じた感覚は、耳から入り頭を突くような大雨の音だった。


 それに混じって聞こえるのは、赤子が泣く声と、女の囁き。


「――……もしこのことをあなたが覚えていられたなら……」


 しばらくの沈黙と雨の降る轟音の中、赤子は泣き止み、まるで時間が止まってしまったかのようにその声だけが鮮明に、その後も深く記憶の底に刻み込まれている。


「私を、探しなさい」


 目を見開き、見たその女は……


 おそらく僕の母なのだろう。




――――――




 僕は生まれながらにして孤児であった。 


 この世界ではよくあることだ。


 だが僕の場合、奇妙なことに前世の記憶を持っていた。


 いわゆるところの記憶を持った転生。


 そう、フィクション作品でよくあるアレである。


 だがそれらの作品の主人公たちと私に類似していない点があるとすれば、超常的存在の介入も、超人的な力を与えられることもなかったということであろうか。


 それはそうとて、今日も僕はそこら辺を歩いているときに遭遇した人攫いから頂戴した固いパンをおやつに、魔法についての本を読んでいた。


 そう、この世界には魔法が存在する。


 前世で焦がれた魔法がすぐ目の前にあるとするならば、手に取らない選択肢など無いだろう。


 すぐ近くのにあった、市営の小さな古本屋が経営困難で潰れたときに、優しいおじちゃんが、僕が魔術について知りたがっていることを知ってか、こころよく数冊の魔術についての本を十数冊譲ってくれたのだ。


 というわけで、言語の習得がてら魔法についての勉強をしているのだがこれがまた面白い。


 こんな優雅な暮らしができているのも、ここに至るまでの14年間毎日のように死に目を見てきたおかげだろう。


 僕は今、街に近い森の中に一軒家を立て、そこで一人暮らしをしている。


 今日に至るまでの日々はそれはそれは過酷であった。


 孤児院で育てられ、その環境の劣悪さから脱走。町で細々ともの拾いをしていたところ人攫いに遭ったり、怖い人に絡まれたり、飢え死にしそうになったり、怪しい宗教団体に捕まって生贄にされそうになったり、魔獣にかじられそうになったり、etc……


 そんなこんなで今に至るまでの14年、安定を求めて東奔西走やっとこさ辿り着いた安定の暮らしが今のこれなのだ。


 この14年間よく生き残れてきたものだなと自分でも思うわけだが、それに一番貢献したのは、この世界の超常である『魔法』という便利パワーのおかげだろう。


 数多の「独房」「監獄」「檻」から脱出できた、あるいは「人さらい」「暴漢」「怖い人」「目のガン決ったヤバイおばさん」を撃退できたのは、ほかの何でもない魔法のおかげだろう。


 この世界でいう魔法という力は、自身のイメージした現象の発生。

 そして、それに伴って世界の法則に逆らって起こした事象に見合った分だけの『不整合』を『魔力』というとんでもエネルギーで補填する、そんな現象である。


 簡単に言ってしまえば起こっている事象は『魔力』を消費して『魔法』を使うといったごくごく安直で、平凡なものなのだが『魔法』という事象が起こっている要因を明確にしておくというのは『魔法』と『魔力』を扱う上で非常に重要なことだ。


 まあそんなこんなで今は比較的安定した暮らしを営んでいるわけだが、悔しが安定してきた事で僕にはいくつか野望ができた。


 そして僕の現時点での最も大きな野望は……

 

 


「平穏な学生ライフを送りたい!!」

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