第八話「対空を制すものは試合を制す」
放課後、eスポーツ部の部室には、式守、天土、安城の3人が集まっていた。昨日、正式にコーチとして活動することを決めた式守は、緊張しながらも指導の準備を進めていた。
顧問の犀田が口火を切る。
「部として本格的なスタートは来年度からだが…。『eスポーツ部』はウチ(学校)としても肝入りのプロジェクトなんだ…。すぐにとは言わないが、正直なところ実績がほしいな。」
「実績って?」と天土が首を傾げる。
「ゆくゆくは大会で結果を残してもらいたい。今は動き出したばかりだし、まずは身近な目標を設定しよう。」
犀田はそう言って、一枚のチラシを机に広げた。
「夏休み明け9月に文化祭があるだろう? その催しのひとつとして、今年は生徒会と協力してeスポーツ大会を企画してる。」
天土と安城は興味津々の様子で耳を傾ける。
「メインはFPSの大会だが、格闘ゲームも小規模でやることになったんだよ。3人1組のチームでトーナメント形式だ。腕試しとして、お前たちもまずはそれに出場してほしい。」
「大会か~、燃えてきた!」天土は拳を握りしめる。
「出るからには優勝目指そうぜ!」と安城も意気込む。
そんな2人を見て、式守は苦笑しつつ、「とりあえず、もう1人の入部希望者に会ってみないとな…。」と呟いた。
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その後、早速練習を始めることに。格ゲー部門には3台のゲーミングPCが割り当てられた。
「この3台は格闘ゲーム部門専用だ。ユナイトはダウンロード済みだから、好きに練習するといい。最後までいたヤツは施錠を忘れるな。カギは必ずおれのところにもってこい。」
注意事項を伝えた後、犀田は部室を去っていく。
「3台も使えるんだ! すごいね!」と天土が歓声を上げる中、式守は自宅から持ってきたゲームパッドを取り出した。
「天土さん、練習で使ってたコントローラーです。これ使っていいですよ。」
「助かるー。これ使いやすかったんだよね。ありがとう!」
一方、安城はすぐにランクマッチのロビーを開く。
「先に天土と練習するっしょ? あーしはとりまランクマ潜っとくわ。」
そう言いながら、集中モードに入る。
天土は式守に尋ねた。「今日は何を練習するの?」
式守は少し考え、「まずは対空ですね。」と答える。
「対空?」と首をかしげる天土に、式守は真剣な表情で説明を始めた。
「『対空』は相手のジャンプ攻撃を迎撃する行動のことです。対空を制すものは試合を制すって言われるぐらい大事な技術で…。言葉だけだとわかりにくいので、まずはトレーニングモードで練習してみましょう。」
天土はその指示に従い、下校時刻まで対空練習に明け暮れた。
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練習が終わり、式守は少し気を使った様子で声をかける。
「今日は単純な練習だけで終わっちゃいましたね…。すみません。地味な練習で…。」
しかし、天土は明るい笑顔で答えた。
「全然! 対空ってディフェンスの基本でしょ? 私、基礎練好きなんだ。バスケでも“いいオフェンスはいいディフェンスから”って言うし!」
その言葉に、式守は目を輝かせる。
「そうなんです! 対空ができると、相手の攻めを防ぎつつ、こっちの攻めのターンを作れるんで…。基本だけど、格ゲーではめちゃくちゃ大事なテクニックなんですよ!」
「式守ハキハキ喋れんじゃん!」安城が茶化すように笑う。
「でも、式守の言う通り対空はマストだよなー。対空出せないと勝てねーし。早めに癖つけといた方がいいよ。」
そんな会話をしながら、3人は楽しそうに帰路についた。
ーーー
翌日、式守は2人のキャラクターに合わせたコーチング内容を考えながら学校に向かった。いつも通り無言で教室のドアを開けると、天土が明るく声をかけた。
「式守くん、おはよー!」
さらに安城も続く。
「式守おはよー。来るのおそくね?」
式守は少し戸惑いながら答える。
「あ、ああ。おはよう…ございます…。安城さん、同じクラスでしたっけ?」
「いや、違うし。あると喋りたくてさ~。」
『元気いっぱいスポーツ少女』天土と『武闘派ギャル』安城の邂逅…。謎の組み合わせにクラスメイトたちは困惑していた。
そして、その中心にはいつも寝ている謎の男子生徒…。
「また式守か…。」
「あいつは一体何者なんだ…?」
クラスメイトの視線を気にする様子もなく、安城は天土と楽しそうに格ゲー談義に花を咲かせていた。
(なんか注目されはじめてるな…。まずいぞ…。)
学校ではなるべく静かに暮らしたい式守は危機感を覚えはじめていた…。
ーーー
そんなこんなであっという間に放課後――。
式守、天土、安城の3人はeスポーツ部の部室に集まっていた。今日は、もう1人の入部希望者と顔合わせをする日だ。
普段は落ち着いている式守だったが、今日はどこかそわそわしている。
(どんな人だろう…。男子だったらいいんだけどな…。)
そんな心の声が漏れそうになったとき、安城がニヤリと笑いながらからかう。
「式守緊張してんの? 珍しー。」
「楽しみだねー。女の子だったらいいなー。」天土は能天気に言う。
思い思いの表情で入部希望者を待つ3人。
シャー…
そうこうしているうちに、部室のドアが開いた。
「お、揃ってるな。じゃあ早速紹介しよう。…入ってくれ。」
犀田の後ろに、小柄な女の子が立っていた。
SFL最高すぎました!
あんな展開現実で観れるなんて!
試合後のインタビュー本当に感動しました!