第四話「無駄じゃなかったんだ」
ライアンは◯ーク、スマートコンボは、アシ◯トコンボ
TAは、SA(スー◯ーアーツ)だとお考えください。
『Here comes a new challenger!!』
ゲーム音声が対戦相手の登場を告げる。
「きた!」
天土は思わず声を上げ、緊張感が高まるのを感じる。手汗がじんわりと滲み、指先が少しだけ震えた。隣では式守が落ち着いた声で助言をくれる。
「焦らず落ち着いて。さっきの練習通りやれば大丈夫です。」
「そ、そうだよね。ふぅ…。」
大きく深呼吸し、気持ちを落ち着かせる天土。初めてのランクマッチ。未知の強敵が現れる可能性に不安を感じながらも、負けたくないという闘志が胸を熱くする。
対戦相手のキャラクターが表示される。
「ライアン…?」
画面に現れたのは、ファイターズユナイトを代表するスタンダードキャラのライアン。
「ライアンは癖のないキャラです。戦いやすいので、初戦には丁度良いですよ。」
式守の言葉に少し安心しながら、天土はコントローラーを握る手に力を込める。
『ラウンドワン!ファイト!!』
「わ、は、始まった。まずはガード意識して…。」
ライアンが飛び道具を放つ。天土は焦らずにガードしながら、スピカの得意な近距離戦へ持ち込もうと距離を詰める。相手の隙を見つけ、中距離から果敢に飛び込む。ジャンプ攻撃からコンボを繋げ、ダウンを奪う。
「いいですね!練習通りできてます!冷静ですね!」
式守が横から声をかける。天土はその言葉に勇気づけられ、細かいミスをしつつも着実にダメージを与えていく。そして最後の一撃――スマートコンボからTA3(タクティカルアーツ超必殺技)を決め、華麗にフィニッシュ!
『KO!!』
「やったー!!」
天土は思わず両手を挙げて喜ぶ。
「すごい!初戦とは思えないですよ!」
興奮した様子で式守が言う。
「いやいや、常に式守くんがアドバイスしてくれてるから、落ち着いてできてるんだよ!自分1人だったらもっとテンパっちゃってたと思う…。ありがとう!やっぱり先生はすごいね!」
満面の笑みで式守に感謝を伝える天土。
「せ、先生なんてそんな…。」
今まで同級生に感謝や尊敬なんてされたことがなかった式守は、照れくさいような、嬉しいような、くすぐったい感覚を抱く。
『Here comes a new challenger!!』
「つ、次きますよ!」
照れ臭さを隠すように次の対戦相手に集中する式守。
「うん!」
2人はランクマッチにのめり込んでいった。
ー1時間後ー
『KO!!』
「よしっ!」
「いいですね!だいぶ慣れてきましたね。」
天土は初戦の勝利から勢いに乗り、4連勝。その後は負けもしたが、練習通りの堅実なプレイを保ち、初心者らしからぬ強さを見せていた。
「…もう12時過ぎてましたね。一旦休憩にしましょう。」
「ふー。そうだね。」
大きく息を吐き、コントローラーを置く天土。
「はー。手と肩が疲れた…。緊張しちゃって…。普段使わない筋肉だから余計に疲れるね。」
ぐるぐると肩を回しながら、軽く腕をほぐす。
「やっぱりどうしても余計な力が入っちゃいますよね。慣れてくると力抜いてプレイできるので…。今ほどは疲れなくなるはずです。…ところで昼ごはんどうしましょうか?コンビニでも行きますか?」
式守が尋ねると、天土は自分のバッグをゴソゴソと探り始めた。
「わたし家からおにぎり持ってきたんだ!式守くんももしよかったら食べない?いっぱい握ってきたから!」
バッグから大きなランチボックスを取り出し、式守に差し出す。
「え…い、いいんですか?っていうか自分で握ったんですか?」
「もちろんいいよ!タダで教えてもらってるんだし、お昼ごはんくらい…。わたし料理苦手だから、ただのおにぎりだけど…。」
「…じゃあ遠慮なく…いただきます。」
式守は少し戸惑いながらも手を伸ばし、ひとつおにぎりを取る。
(おれはゲーム以外何にもできない…同い年なのに…すごいな。)
おにぎりを頬張りながら、2人は雑談をする。
「天土さん上手いですね。普通は始めたてでこんなに冷静にプレイできないです。」
「へへ…。さっきからすごい褒めてくれるね。照れるな…。」
「さっき『スポーツばっかりやってた』って言ってましたよね?その経験が役に立ってるのかな…?」
「…それはあるかも…。」
天土は一瞬考え込み、意を決して口を開く。
「わたし、小さい頃からバスケやってて…。今は…やめちゃったんだけどさ…。1on1とか得意だったんだ。ゲームは初めてだけど『対戦』自体はスポーツで経験してたから…。ある程度慣れてるんだ。」
絞り出すように自分の過去を話す天土。
その表情は少し寂しげで普段の元気は感じられない。
「なるほど…。バスケかぁ。あんまり詳しくないですけど、一瞬の判断力とか、距離感とか…共通する部分結構あるのかも…。」
興奮している式守は天土の表情の変化に気付かず1人で納得し頷く。
式守にとって、ゲーム以外の経験がゲーム上達に役立つという考えは新鮮だった。
「…そっか。無駄じゃなかったんだ…。」
何かを考え込むように俯き、天土がポツリと呟く。
その瞳にはうっすらと涙が滲んでいた。
「?天土さん?なんか言いました?」
「ううん、な、なんでもない!なんでもない!」
天土は焦ったように目を擦る。少し赤らんだ天土の目を見て式守は優しく言った。
「(?天土さん目が赤いな…どうしたんだろ?初めてのゲームで目が疲れたのかな?)…そうですよね。慣れないと目も疲れますよね。しっかり休憩しましょう。」
式守は涙の理由に気づかず、天土の体調を気遣う。
「そ、そうだよね。休憩も大事だよね。」
答えながらも落ち着かない様子の天土。意を決して申し訳なさそうに提案する。
「あ、あのさ、午後も練習付き合ってもらっていい…?わたし…もっとやりたい!」
式守は一瞬目を見開く。その後ゆっくりと楽しげに答える。
「大丈夫ですよ。特に用事もないんで…。納得するまでやりましょう。」
朝のオドオドした様子とは打って変わって堂々した態度の式守。
天土の熱意を受けて『もっと教えたい!強くなってほしい!』そんな気持ちが芽生え始めていた…。
ーーー
午後、天土はランクマッチを続けた。勝った時には「よっしゃー!」と声を上げ、負けた時は「悔しい!」と顔をしかめながら悔しがる。
その感情豊かなリアクションに式守は思わず笑い、「本気なんだな…」と心の中で呟く。
夢中で練習し続け、気づけば18時…。
日も傾きかけていた。
「あ!ヤバっ!もうこんな時間!帰らなきゃ!」
「す、すみません!おれも夢中になってました…。」
急いで帰り支度をする天土。
帰り道、2人はバス停まで並んで歩く。夕焼けの光が彼らの背を押すように照らしていた。
「今日は楽しかったー。本当にありがとう!急に家に押しかけてごめんね。迷惑だったでしょ?」天土がふと冷静になり、謝罪の言葉を口にする。
式守は少し間を置いてから、静かに言う。
「…いや、気にしないでください。確かに最初は驚いたけど…天土さんが本気で格ゲーをやってるのが伝わってきたから…。」
式守にとって、リアルで格闘ゲームを一緒に楽しめる友達はこれまでいなかった。だからこそ、天土が本気でこのゲームを楽しんでくれることが嬉しくて仕方がなかった。
「はー、良かった!迷惑かけちゃったからさ…ありがとう!」
天土はほっとした様子で破顔し、感謝を述べる。
そして、式守の目をまっすぐ見ながら改めてこの言葉を投げかけた。
「式守くん…これからもわたしにゲームを教えてくれない?わたしの先生になってくれないかな?」
その言葉に式守は少し驚き、足を止める。夕日が彼の顔に影を落とし、天土の方を見つめながら静かに息を吐いた。
「先生…うん。まあ、そんな大層なものじゃないけど――」
少し照れくさそうに言葉を濁す式守だったが、天土の真剣な眼差しを見て、笑みを浮かべる。
「いいですよ。おれでよければ…。」
その返事に天土の顔がぱっと明るくなった。「やった!わたし、絶対に強くなるから!」
夕暮れの中、2人の新たな挑戦が始まる――。
CC1日目最高でした!
明日も楽しみです!