第三話「格ゲーは努力を裏切らない」
すみません。ランクマすぐ始まりませんでした。
天土はコントローラーをしっかりと握りしめ、画面を凝視していた。
「…対戦に挑む前に決めておく事があります。」
式守は静かに言葉を紡ぐ。ランクマッチに挑戦する前に、どうしても確認しておきたいことがあった。
「使用キャラクターどうしましょうか?このままスピカで行きます? まだ共通の知識しか教えてないので…。キャラ変更するなら今しといたほうがいいかも…。」
天土は少し考えたあと、力強く首を振った。
「キャラは今のまま…スピカちゃんでがんばりたい。わたし、一目惚れしちゃったみたいで…。スピカちゃんと一緒に強くなりたい!」
その言葉に式守はわずかに目を丸くし、それから小さく笑った。
「わかりました。強くなるにはキャラへの愛着も大切だから…。いいと思います。スピカ強いですし。」
「うん!」
天土の瞳はきらきらと輝いている。そんな彼女の様子を見ながら、式守はふと思いついたことを口にした。
「そうだ…ランクマ行く前に軽く手本見せましょうか?戦い方解説しますよ。」
「それはすごく助かる!ありがとう!見たい見たい!」
興奮気味に前のめりになる天土。初めて式守のプレイが見られる…どれくらい強いんだろう? 期待と興奮で胸が高鳴る。
式守は淡々と準備を進め、レバーレスコントローラーをセットする。
(なんか変なハコ…これがコントローラーなのかな…?ボタンしかついてないけど…どうやって動かすんだろ?)
天土は口には出さなかったが、興味津々で式守の手元を見つめた。
15分後——
「…って感じで戦うといいと思います。始めはもちろん同じようには動かせないと思いますので…。随時アドバイスして…うわっ!」
不意に視線を天土に向けると、彼女は目を輝かせながら食い入るようにこちらを見つめていた。
「式守くん!」
「な、なんですか…?」
「きみ天才でしょ!強すぎるって!」
「いや、天才は言い過ぎ…。」
食い気味に天土は捲し立てる。
「手元だって全く見てないし!喋りながらやってるし!さっき教えてくれた…なんだっけ…あの『バーン!!』てなるやつも瞬時に返してたし!コンボ?もすごいかっこいいし!きみが天才じゃなくて誰が天才なわけ?!」
「ああ、『バーン!!』てのは『インパクト』ですね…。…正直おれは上手い寄りではあるけど…天才ではないです。天才って次元がさらに違うんで…。天土さんもおれくらいにはなれますよ。練習し続ければ…ですけど…。」
「…ホント?(わたしでも強くなれるのかな?がんばっていいのかな?)」
信じられないといった表情で天土は尋ねる。
「本当です。『格ゲーは努力を裏切らない』んで。おれが保証します。」
はっきりと断言する式守。その真っ直ぐな言葉に、天土は勇気付けられた。
「よしっ!じゃあ早速がんばる!式守くんのプレイ観て、少しスピカちゃんのことわかった気がする…。対戦…やってみたい!」
そのポジティブな言葉に式守は微笑み、頷く。
「その意気です…。やってみましょう!」
彼はゲームのモードをランクマッチへ切り替えた。
ーーー
「うわー…。き、緊張してきた…。」
天土はコントローラーを持つ手が汗ばむのを感じた。
「これから何百回、何千回って対戦する中の一回です。気軽に行きましょう。勝っても負けても得るものはあります。目標は勝ち負けじゃなくて…。まずは一個。自分でやりたいことを意識してそれの達成を目指しましょう。」
『目標は勝ち負けじゃない』
その言葉が天土の胸に刻み込まれる。
「うん。そうだよね。(まずは…ガード!ガードをしっかりがんばる!)」
天土は心の中で決意し、マッチングを待つ——。
『Here comes a new challenger!!』
「来たっ!」
ついに、初めてのランクマッチが始まる——!
カプコンカップたのしみですね。