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孤高のシャトル

作者: 稲神蘭

バドミントンでシングルの物語です


主人公

高校2年生の早川悠斗。幼少期からバドミントンを続けているが、父親の厳しい指導に苦しみ、競技に対する情熱を失いかけている。

シングルプレイヤーとして天性の才能を持ちながらも、試合中にメンタルが崩れる弱点がある。

第一章 敗北のシャトル


体育館に響くシャトルの音が静寂に変わった。

「ゲームセット、21対17!」

審判の声が耳に刺さるように届いた。悠斗は膝に手をつき、呼吸を整えながらコートの端を見る。相手選手はラケットを掲げて笑顔を浮かべ、観客席の仲間たちとハイタッチをしていた。


「また負けたのかよ……」

心の中でそう呟くと、全身の力が抜けた。勝てるはずだった。いや、勝たなければいけなかった。だが、最後の数ポイントでいつも通りの弱さが顔を出した。焦り、苛立ち、自分自身との闘いに敗れた。


コートから出ると、父親の厳しい視線が待っていた。

「悠斗、お前は何度同じミスを繰り返すんだ?」

低い声と冷たい眼差しが、心臓に突き刺さる。何も答えられない自分が嫌だった。


「…すみません。」

悠斗はうつむいたまま小さな声で答えた。反論したい気持ちはあったが、何を言っても父には通じない。これまで何度も試したが、そのたびに言い返され、結局自分の無力さを突きつけられるだけだった。


父は眉間に深いしわを刻んで悠斗を睨みつけた。

「謝れば済むと思っているのか?お前には勝てる力があるんだ。なぜ自分の限界を引き出そうとしない!」

「…限界なんて…もう十分だよ。」

悠斗の心の中で言葉がくすぶるが、声にはならなかった。ただ、父の言葉を黙って受け流すしかなかった。


試合後のロッカールーム。ほかの選手たちの笑い声や会話が耳に入る。悠斗は一人、ベンチに腰掛け、汗で湿ったユニフォームの裾を指でいじっていた。

「結局、俺には勝てる力なんてないんだよな…。」

目の前にあるラケットを見つめると、ふと昔の記憶がよみがえった。


小学校の頃、初めてラケットを握った日。小さな体育館の中で母が優しく教えてくれたこと。シャトルがラケットに当たる音に胸が躍り、夢中になって打ち返した日々。あの頃はただ楽しかった。勝ち負けなんて考えず、ひたすらシャトルを追いかけた。


だが、母が亡くなってからはすべてが変わった。父が練習に付き添うようになり、バドミントンは「勝たなければならないもの」へと変わってしまった。


「勝てなきゃ意味がない。」

父の言葉が頭の中で何度も反響する。


その夜、悠斗は練習ノートを開いたが、ペンは進まなかった。次の大会の目標を書く欄に「優勝」と記入するべきだと分かっているのに、どうしても書けない。

「俺は…本当にバドミントンを続けるべきなのか?」

その疑問が頭を離れないまま、ベッドに倒れ込んだ。


眠れない夜が続く中、悠斗は一つの決断をする。

「明日、コーチに話そう。もう、辞めたいって。」


第二章 出会いの始まり


翌日、悠斗は学校の部活後にコーチの佐藤圭一に相談するため、体育館に向かった。体育館の隅には一人の老人が立っていた。年季の入ったトレーニングウェアに身を包み、悠斗が練習している様子をじっと観察している。


「誰だ…あの人?」

不思議に思いながらも、悠斗はその老人と目が合った。彼の眼差しにはどこか鋭さと温かさが混じっているように感じた。


「君が早川悠斗君か?」

老人が近づいてきて、静かな声で問いかけた。悠斗は驚きながらもうなずいた。

「私の名前は斉藤重蔵。昔、少しだけこの競技に関わっていた者だ。」

「少し…って?」

悠斗は首をかしげた。すると、近くにいたコーチが慌てたように駆け寄ってきた。

「悠斗、この方は元オリンピック選手だ!お前、知らなかったのか?」


その瞬間、悠斗の心に小さな火が灯った。何かが始まる予感がした。


「オリンピック選手…?」

悠斗は目の前の老人を見上げた。どこか厳格でありながら、柔和な雰囲気も持ち合わせている。だが、その肩幅やまっすぐに立つ姿勢から、ただの老人ではないことが一目で分かる。


斉藤重蔵は小さく笑った。

「もうずいぶん昔の話だ。だが、この競技が持つ魅力は今でも忘れたことがないよ。ところで、君のプレーを見ていたが、なかなかいい動きをしているな。」

「…いい動き?」

悠斗は戸惑った。試合で負けたばかりの自分に、そんな評価をする人がいるとは思っていなかった。


「だが、問題もある。」

斉藤は続けた。

「君の目を見て分かる。コートに立つ理由を見失っているな。違うか?」


その言葉に、悠斗の胸がざわついた。図星だった。だが、それを他人に言い当てられるのは初めてだった。


「…俺、もう辞めようと思ってるんです。」

悠斗は思い切って告げた。


「辞める?理由は?」

斉藤の声は冷静だった。責める様子もなく、ただ事実を聞き出そうとするような口調だった。


「俺、勝てないんです。努力しても、最後の場面でいつも自分が負けてしまうのが分かるんです。もう、無理なんだって…。」

悠斗は拳を握りしめた。吐き出す言葉は自分への言い訳のように感じたが、止められなかった。


斉藤はしばらく悠斗を見つめてから、静かに言った。

「勝つことだけがバドミントンの価値だと思っているのか?」


その問いに、悠斗は答えられなかった。父親の影響でそう信じ込んでいた自分を思い知らされるようで、視線を逸らした。


「君が本当に辞めたいと思うなら、それもいい。だが、最後に一つだけ試してみないか?」

「…試す?」


「私が君を鍛えてやる。ただし、条件がある。」

斉藤の目が一瞬鋭く光った。

「勝つためではない。自分自身のためにシャトルを打つ。それができるようになるまで、私についてくる覚悟があるか?」


悠斗は息をのんだ。これまで「勝利」だけがすべてだと思っていた自分に、全く違う価値観を提示されて戸惑っていた。だが、その言葉の奥に何か惹きつけられるものを感じた。


「分かりました…やります。」

悠斗の口から自然とその言葉が出ていた。


第三章 孤独の練習


翌日から斉藤との練習が始まった。彼の練習方法はこれまでのコーチの指導とは全く異なっていた。

「ラケットを置け。今日はシャトルを打たない。」

斉藤が最初に命じたのは、コートの上でただ歩くことだった。


「なぜ歩くだけなんですか?」

悠斗は不満を漏らした。これでは強くなれないと思ったからだ。


「自分の足元を知らずして、相手に勝とうとするな。」

斉藤は悠斗をじっと見つめた。

「君は自分が何をしているのか、どんな動きをしているのか、意識していない。まずは、自分の体を知るところから始める。」


悠斗は半信半疑のまま従った。足の運び方、姿勢、体のバランス。それらを一つずつ見直していく練習は地味で単調だったが、次第に自分の動きに無駄が多いことを実感した。


数週間が過ぎ、斉藤との練習を通じて少しずつ変化が現れ始めた。体の使い方を意識するようになり、動きが軽くなった気がする。そして、それ以上に、バドミントンを楽しむ気持ちが少しずつ戻ってきていた。


「これが俺の求めていたものか…?」

悠斗は自分自身に問いかけながらも、シャトルを追う感覚に新たな喜びを感じていた。


次の大きな試合が近づく中、悠斗は一つの挑戦を心に決める。

「もう一度、コートで自分を試してみたい。」


大会の申し込みが締め切られる前日、悠斗は斉藤に決意を伝えた。

「次の地区大会に出たいと思います。」

斉藤は少し驚いたように眉を上げたが、すぐにうなずいた。

「いいだろう。ただし、条件を忘れるな。勝つことではなく、自分自身を試すんだ。それが今回の目標だ。」


「分かっています。」

悠斗の声にはこれまでにはない力強さがあった。


大会までの残りの時間、斉藤の指導はさらに厳しさを増した。動きの精度を高めるためのフットワーク練習、瞬時の判断力を養うためのリアクション訓練、そして何より「メンタルの強化」に焦点が置かれていた。


「悠斗、お前の弱点は技術ではない。」

斉藤は練習の合間にそう言った。

「大事なのは、自分を信じられるかどうかだ。試合の場面で自分の中に湧き上がる迷いや恐怖を認め、それでも前に進む覚悟を持つこと。それが真の強さだ。」


悠斗はその言葉に深く考えさせられた。自分のプレーが崩れるのは、相手ではなく自分自身に負けているからだと気づかされたのだ。


試合前夜。悠斗は眠れずにベッドの上で天井を見つめていた。

「また負けたらどうしよう。」

その考えが頭をかすめるたびに、斉藤の言葉を思い出して自分に言い聞かせた。

「結果ではなく、自分を試すんだ。」


深呼吸をして目を閉じると、静かに眠りについた。


第四章 新たな戦い


試合当日。体育館に響くラケットとシャトルの音、観客のざわめきが緊張感を煽った。悠斗の心は静かだった。これまでの試合のように、「勝たなければならない」というプレッシャーは不思議と感じなかった。


「よし、行ってこい。」

斉藤が悠斗の肩を軽く叩いた。いつものように厳しい表情だが、その目には信頼が宿っている。


コートに立つと、相手は地区大会で何度も上位に進出している選手だった。強敵だと分かっていたが、悠斗はラケットを握りしめて静かに息を整えた。


「プレイ!」


試合が始まった。最初の数ポイントは互いに譲らず、緊迫した展開が続いた。しかし、悠斗はこれまでの自分とは違っていた。焦ることなく、冷静にシャトルを追い、相手の動きを観察して次の一手を考える余裕があった。


「…楽しい。」

自分でも驚いた。これまで勝つことだけを目的にしていたときには感じられなかった感覚だった。


第1ゲームは惜しくも18-21で落とした。しかし、悠斗は笑っていた。負けたことが悔しいわけではなく、試合そのものを楽しんでいる自分に気づいたからだ。


第2ゲーム。斉藤のアドバイスを思い出しながら、悠斗はさらに積極的なプレーを見せた。攻めるタイミングを逃さず、ラリーの中で自分のリズムを作り出していく。


「ナイスショット!」

観客席から歓声が上がる。悠斗のクリアショットが相手の背後を突き、コートに吸い込まれた。スコアは20-19。あと1ポイントでこのゲームを取れる。


「ここだ…!」

相手のスマッシュを冷静にレシーブし、チャンスボールを正確にプッシュ。21-19で第2ゲームを取り返した。


第3ゲームは互いに一歩も譲らない接戦となった。20-20のデュースに持ち込まれ、体育館全体が息を飲むような緊張感に包まれる。


「悠斗、焦るな!」

斉藤の声が遠くから聞こえる。悠斗は深呼吸をし、相手の動きをじっくり見た。


次のポイント、悠斗は相手の予想を裏切るドロップショットを放ち、決定的なポイントを奪った。そして最後のポイントでは相手の体勢を崩し、鋭いスマッシュで試合を決めた。


「ゲームセット!22-20!」


歓声が体育館中に響き渡った。悠斗はコートの上で膝をつき、天井を見上げた。涙があふれて止まらなかった。


「勝った…けど、それ以上に…俺は自分に勝てた。」


斉藤が悠斗に歩み寄り、静かに言った。

「よくやったな。」


その言葉に、悠斗はただうなずき返した。


第五章 新たな目標


試合後の体育館。観客が引き上げる中、悠斗は斉藤と並んで座っていた。勝利の余韻がまだ胸の中に残っているが、それ以上に、不思議な達成感があった。


「勝ったな。」

斉藤が静かに口を開いた。


「はい。でも…勝つ以上に、今の自分を信じてプレーできたことが嬉しいです。」

悠斗はそう言って笑った。これまで、試合が終わるたびに悔しさや苛立ちしか感じなかった自分が、こんなふうに笑える日が来るとは思わなかった。


「それで十分だ。」

斉藤は頷いた。

「ただ、ここで終わりではない。君は今日、自分に打ち勝った。その感覚を忘れずに、次のステップに進むことだ。」


「次のステップ…。」

悠斗は少し考え込んだ。勝利を手にした直後にも関わらず、自分の中に新たな目標が芽生え始めているのを感じた。


「もっと強くなりたいです。自分自身の限界を試してみたい。」


斉藤は満足そうに微笑んだ。

「いいだろう。その覚悟があるなら、私が次の課題を与えよう。」


【 新たな挑戦 】


斉藤が出した次の課題は「全国大会への出場」だった。地区大会で勝利を収めた悠斗は、次のステージとして県大会への出場権を得たが、そこから先の道は険しいものになることを覚悟していた。


「全国大会では、君よりも経験も技術も上の選手が待ち受けている。それでも挑戦する価値があると思うか?」

斉藤の問いに、悠斗は迷いなく答えた。

「はい。挑戦したいです。」


その言葉に、斉藤は満足げにうなずいた。

「では、これからの練習はさらに厳しくなるぞ。」


【 ライバルとの再会 】


県大会の会場で、悠斗は一人の選手と目が合った。かつて地区大会で悠斗を圧倒したライバル、森田翔太だった。彼は全国大会常連校のエースであり、悠斗が目指す頂点への道を阻む存在でもある。


「久しぶりだな、早川。」

森田が声をかけてきた。


「森田…さん。」

悠斗は思わず気圧されそうになったが、すぐに気持ちを切り替えた。


「前よりはマシになったようだな。でも、俺にはまだ勝てないと思うぞ。」

森田の挑発的な言葉に、悠斗は冷静に答えた。

「勝てるかどうかは分かりません。でも、今の自分を信じて戦います。」


その言葉に、森田は少し驚いた表情を見せたが、すぐに笑みを浮かべた。

「楽しみにしてるよ。」


【 試合の始まり 】


県大会の準決勝。相手は森田翔太だった。観客席から注目が集まる中、悠斗は静かにコートに立った。勝利ではなく、今の自分の全力をぶつける。それが悠斗の唯一の目標だった。


試合が始まると、森田の圧倒的なパワーとスピードに押され、最初のゲームは15-21で落とした。しかし、悠斗は以前のように焦ることはなかった。相手の動きを観察し、自分のリズムを取り戻していく。


第2ゲーム。森田の攻撃を的確にかわし、カウンターで得点を重ねた悠斗は21-19でゲームを取り返した。


そして、運命の第3ゲーム。互いに一歩も譲らない攻防が続き、スコアは再び20-20のデュースに突入した。観客は固唾を飲んで試合の行方を見守る。


「これが俺の全力だ!」

悠斗は最後の力を振り絞り、相手のスマッシュをレシーブし、鋭いクロスショットで決定的なポイントを奪った。


「ゲームセット!22-20!」


歓声が体育館中に響き渡った。悠斗はコートの上で両手を広げ、天井を見上げた。涙があふれるが、それは悔しさではなく、純粋な達成感の涙だった。


斉藤がコートサイドで悠斗を迎えた。

「よくやったな。」


悠斗は深く頷きながら答えた。

「次は全国大会です。僕はまだ、もっと高いところを目指します。」


斉藤はその言葉を聞き、静かに微笑んだ。


第六章 全国大会の舞台


全国大会の会場は、これまで悠斗が経験したどの試合会場よりも広く、観客の数も圧倒的だった。初めて足を踏み入れるその空間に、悠斗は胸の高鳴りと不安を同時に感じていた。


「ここが全国か…。」

観客席の熱気に包まれる中で、悠斗は深呼吸を繰り返した。斉藤が隣で静かに声をかける。

「忘れるな、悠斗。勝敗ではなく、自分の全力を尽くすこと。それだけを考えろ。」


悠斗は小さく頷いた。これまで支えてくれた人たちへの感謝と、自分自身への挑戦を胸に刻んでコートへ向かった。


【 初戦の相手 】


初戦の相手は、前年の準優勝者であり、圧倒的な実力を誇る三浦亮太。身長の高さと力強いショットで知られる三浦は、コートに立つだけで観客を圧倒する存在感を持っていた。


「君が初出場の早川悠斗君か。試合、楽しませてもらうよ。」

三浦は穏やかな笑みを浮かべながら言ったが、その言葉の奥に余裕と自信が滲んでいた。


「お願いします!」

悠斗は精一杯の声で返事をした。


【 試合開始 】


試合が始まると、三浦の実力の高さがすぐに分かった。スピード、パワー、精密さ、どれを取っても悠斗とは次元の違うプレーだった。


「なんて速さだ…!」

悠斗は必死に食らいつこうとするが、三浦のスマッシュやドロップショットに翻弄され続けた。第1ゲームはあっという間に5-21で終わった。


斉藤がインターバル中に声をかける。

「悠斗、結果は気にするな。まずは自分のプレーを見つめろ。」


悠斗はその言葉を胸に再びコートに立った。しかし、第2ゲームでも状況は変わらなかった。三浦の圧倒的な攻撃に押され、守るのが精一杯だった。


スコアは16-21。試合が終わり、三浦が悠斗に歩み寄る。

「いいプレーだったよ。でも、まだまだ伸びる余地があるはずだ。次に会うときは、もっと強くなっていてくれ。」


三浦の言葉は優しかったが、悠斗の胸に重くのしかかった。


【 コートの上で 】


試合が終わり、観客席の拍手が響く中、悠斗はその場から動けなかった。コートの真ん中に立ち尽くし、やがて膝をついて崩れ落ちた。


「くそ…悔しい…。」

涙が次々と溢れてくる。これまでの練習、努力、すべてを注ぎ込んだこの試合で、自分の無力さを思い知らされた。


観客席からの拍手がいつの間にか消え、ただ静寂だけが残った。斉藤がそっとコートに入ってきた。


「悠斗、立て。」


「無理です…。俺、もうやれない…。」

悠斗は顔を伏せたまま言った。


斉藤はしばらく何も言わず、悠斗の横にしゃがみ込んだ。

「泣いてもいい。その悔しさを胸に刻むことは、前に進むために必要なことだ。」


「でも、俺…。」

言葉が途切れ、悠斗は再び涙を流した。


【 試合後 】


悠斗がコートから立ち上がるとき、観客席から一人の少年が声をかけた。

「かっこよかったよ!」


悠斗は驚いて顔を上げた。その少年の純粋な言葉が、ほんの少しだけ彼の胸を軽くした気がした。


斉藤が悠斗の背中を叩く。

「これが終わりではない。まだ道は続いている。」


悠斗は涙を拭いながら、静かに頷いた。悔しさの中にも、新たな目標が心に芽生えつつあった。


エピローグ プロとしての輝き


あの日、全国大会初戦で敗れ、コートの上で泣き崩れた悠斗。その悔しさは彼の心に深く刻まれ、それ以降の人生を大きく変える原動力となった。


高校最後の大会で悠斗は全国大会ベスト8に進出。大学でも競技を続け、さらなる経験と技術を積み重ねた。そして卒業後、プロ選手としての道を選んだ。


【 世界への挑戦 】


プロとなった悠斗は国内外の大会に出場し、数々の強豪選手と対戦した。初めは苦しい戦いが続いたが、彼のひたむきな努力と試合を楽しむ姿勢は次第に結果を伴い、ついに世界ランキングの上位に名を連ねるようになった。


ある日のインタビューで記者が悠斗に問うた。

「全国大会初戦敗退からここまで上り詰めた今、当時をどう振り返りますか?」


悠斗は少し微笑んで答えた。

「あの時の敗北があったからこそ、今の自分があります。悔しさを感じた瞬間こそが、次に進むための一歩なんだと気づきました。」


【 コートに立つ理由 】


世界選手権決勝の舞台。悠斗はかつて全国大会で敗北したときと同じように、静かに深呼吸をしてコートに立った。相手は世界ランキング1位の選手。勝つのは容易ではないと分かっていたが、悠斗の心には迷いがなかった。


「今の自分を信じる。それだけだ。」


試合が始まり、悠斗のプレーは観客を魅了した。全力でラケットを振り抜き、最後のポイントを奪ったとき、体育館には悠斗の名前を叫ぶ歓声が響き渡った。


試合後、悠斗は観客席に目を向けた。そこには、かつてコートで涙を流していた自分を見守ってくれた斉藤の姿があった。


悠斗はラケットを掲げ、静かに感謝の気持ちを表した。


「これからも、もっと強くなれる。まだ俺の挑戦は終わらない。」


悠斗のバドミントン人生は続く。その姿は、これからも多くの人々に勇気と感動を与え続けるだろう。

孤高のシャトルを読んでいただきありがとうございます


ずっとサッカーしてて個人スポーツはあまり分からないので難しかったです…

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