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第28話:そっちの世界はどうだい?

 ――私は……アレク。十五歳。もうすぐ……十六歳、だったな、そういえば。


 ぼんやりと、空を見上げる。気が付いたら砂浜に寝転がっていた。真っ二つに斬られたような雲が、天高く流れている。


「……とりあえず、生きてる」


 全身が痛い。本来できない動きを無理やりさせられた感覚。魔力もほとんど残っていないし、意識も朦朧としていた。


「……一応、記憶は、おぼろげながらあるけど……」


 ――コクヨウは、どうなったのだろう。起き上がって、辺りを見渡すとすぐ近くにスピネル、ルチル、コハクが倒れていた。それぞれ様子を確認するが、意識はないものの呼吸はしているし苦しそうな様子もない。おそらく私と同じような状態なのだろう。


「……うわ、これ、どうしよ」


 次に目に入ったのは私たちが使っていた武器や魔導具。――それらが破損した無残な姿だった。剣、盾、銃、メイス。そして……。


「カルクさんの槍まで……その辺にあったもの全部合体させちゃったのかぁ」


 そして私たちが元に戻ったタイミングでバラバラになったのだろう。修復ができるものなんだろうか、ヒビが入ったり、折れたりしている。損害を考えると頭が痛くなるが、いったん無視してコクヨウを探す。……と、少し私たちから離れたところに、誰かが倒れていた。痛む足を引きずり、そちらへ向かう。


「――あぁ、あんたか。……元気そうやね。他も無事なんか?」


 倒れていたのはボロボロのコクヨウだった。肩から大きく斬られたような形で、血が固まっている――先ほどの一撃によるものだろう。つまり、私たちの一撃が競り勝った、ということだ。


「うん。みんな倒れてはいるけど、見た感じ怪我とかはしていなさそうだった」


「……そか。なら私の負けやな。傷は塞いだけど魔力がもう残ってへん。全身ボロボロやし、動けんわ」


 なんとなく、声音が優しかった。本来の彼女はこういうヒトなのかもしれない。


「そっか……じゃあとりあえず、この町と、コハクは守れたわけだね」


「――まさか、負けるとは思わへんかった。『小狐丸』まで出したのになぁ。アレ切り札の一つやねんで。……ちゅーか、あんたらのあの剣、なんやアレ。『クサナギ』言うとったな。神話に出てくる伝説級の剣やろ。ずるいわそんなん。反則やん」


「え? そんなにすごい剣なの? アレ完全に魔法任せだったんだけど」


 私はもちろん、たぶん他の誰もあの剣のことは知らないだろう。ただ、コクヨウを倒しうる武器を願ったら出てきた、というだけだ。


「ほんまに魔法ずるいわぁ。……でも、なんで『クサナギ』やったんやろ。別に狐殺しの逸話なんて――そういや狼の気配あったな。狐の天敵は狼。アマテラスオオカミにまつわる剣やから、狼の属性を持っとるんか? ダジャレやん。あとは――アレか、あの狼の人。彼女の武器も取り込んだやろ。その影響もありそうやな」


 何やらごにょごにょと分析しているが私にはよくわからなかった。色々と絡み合って生まれた結果らしい。


「ずるいって言われてもなぁ。それに、私たちの魔導具全部壊れちゃったよ。……カルクさんのも。どうしようかなぁ修理できるかなぁ。お金出してもらえるかなぁ」


「そりゃそうやろ。短い間とはいえ神話の武器を再現したんやから。むしろ魔導具壊れとるおかげであんたら無事なんやと思うで。もし魔導具なかったら今頃腕ぐらい持ってかれててもおかしないからな」


 なんか怖いこと言ってる。……まぁでもそりゃそうだよね。何事にも対価はある。これだけで済んで良かったと思うべきか。


「……そういえば、残りの魔族って、どうしたんだろう」


「あー。グレンは負けたっぽいけどな。他三人どないしたんやろ。今探知もままならんわ。魔力足りなくても戦える奴しかおらんはずやからもしかしたら勝っとるかもな意外と」


 それはまずい。……とはいえ、私たちも戦える状態ではない。カイルさんとか、他のA級の人たちで何とかなっているだろうか……。そんな時、事前に渡されていた通信機から声が聞こえた。魔導具ではあるが武器ではないので破壊を免れていたらしい。慌てて返事をする。


「カイルさんですか!? 私、アレクです!」


『アレク。……状況はモニタリングしてた。お前ら、すげえな。よくやってくれた』


 カイルさんの声が聞こえる。疲れてはいそうだが、とりあえず無事らしい。


「は、はい――あ、あの、残りの魔族は?」


『一体は俺とストリアで何とか倒した。ミクとレイも一体倒してる。あと二体はA級とB級上位連中で何とか足止めしていた感じだ。新型魔導兵の処理も含めると正直厳しい状況だったが――ついさっき、援軍が到着してな。何とかなりそうだ』


「援軍?」


 誰だろう。そんな話は聞いていなかったが。


『あぁ。正直、絶対に戻ってこれないだろうと思ってたんだが――町の上、見てみな』


 私がメルトの町の方に目をやると――そこには、不可思議なものが佇んでいた。


「空飛ぶ、でかくて白い……虎? 何?」


 その辺の家より大きそうだ。なんだ? アレ?


「――アレ、ビャッコやん。伝説級の神獣。なんであんなもんがここにおるん……?」


 コクヨウさんも呆然と空を眺めている。


『――玉虫の魔女、アルメリアだよ。さっき言ったろ。この町に結界を張ったS級冒険者。東の国でアレと契約して、知らせを聞いて急いで乗って帰ってきたらしい。契約できていなかったら絶対間に合わなかっただろうから、運が良かったな……。どんな速度なんだ、って感じだけどな。相当距離あったはずなんだが』


「――あんなんも従えるのか。さすがに分体やとは思うけど、S級冒険者。正直舐めとったわ」


 コクヨウは呆れたような笑みを浮かべている。


「じゃあ、魔族たちは全員捕獲したんですか?」


『いや。――倒して、捕獲していたんだが、気づいたら消えていた。転移したらしいな。その黒狐に聞けるか? その辺』


 私が問うまでもなく、コクヨウは説明してくれた。


「あいつら転移装置でこっち来とるからな。戻ることもできるし、戦闘続行不可能な状況になったら強制的に帰還するようになっとったはずや」


『なるほどな……お前はどうなんだ?』


「私は自分の力で来とるから、自分で帰ろうとせんと帰れんよ。もう魔力も空っぽだし、お手上げや」


『そうか――なら、とりあえずお前は捕獲させてもらう。アレク。連れて帰ってこれるか?』


「いや……きついです。他みんな倒れてるし。人出せます?」


 スピネル、ルチル、コハクに加えてカルクさんも倒れている。


『だよな。了解。救護班も合わせて誰かそっちにやるから、とりあえずそいつ拘束しといてくれ』


「心配せんでも逃げんよ。……拷問とかされるようなら、考えるけどな」


『それこそ心配するな。今回、死者はゼロだ。怪我人は出たが、いちばん重傷なのはカルクあたりだろう。……色々言いたいことはあるが、お前に対して何かしようとは思わんよ。ただ話は聞かせてもらいたいからな。おとなしくしてもらえれば、悪いようにはしない」


 良かった。取りあえず被害は最小限に抑えることができたらしい。――疲れたので、コクヨウの横に座った。不思議と、恐怖心は感じない。


「なんや。とどめでも刺そうっちゅうんか」


「違うよ。なんかさ――大変だったけど、みんな無事でよかったなって。ま、あなたはカルクさんに殴られるかもしれないけど、そこは甘んじで受け入れてよ」


「戦いの中の怪我で相手を恨むような奴じゃなさそうやし、大丈夫やろ」


 言われてみれば確かにその通りだ。観察眼が鋭い。


「これから……どうするつもり?」


 彼女は、捕虜としてここで暮らすことになるだろう。……こんな危ない魔族を、拘束して置く手段があるのかはわからないけど。


「どうもこうも、私に選択権なんかないやろ。ばっちり拘束されるやろうし。どうなるかなんてわからん。でも、せやな……もし、叶うなら――観光とか、してみたいな」


 ぽつり、と漏れた言葉。きっと、彼女の本音なのだろう。もしかしたら、魔族みんなの。


「私もここ来たばっかだしよくわかんないけどさ。――もしできるなら、一緒にその辺回ろうよ。楽しそうなとこいっぱいあったよ、この町」


「――そりゃ、ええな。楽しみにしとくわ」


 叶うかどうかは分からない。そもそも、さっきまで殺し合いをしていた敵同士だ。おかしなことを言ってるのは分かってる。でも。わかってしまったんだ。彼女が、この世界にどれだけの憧れを持っているかを。だから。


「――うん。みんなで、行こう」


 そんな願いが、口から零れていた。

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