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第11話:旅の準備OK

「うん、必要なものは大体揃ったかな」


 手に持ったメモ帳に書いた一覧を横戦で消していく。


「そうですねぇ。お尻痛くならないためのクッションまで買いましたし、大丈夫かと」


 買い物を終え、荷物を宿に置いた私たちは、珍しく海近くにあるレストランで昼食をとっていた。この町にはしばらく戻れないだろうし、折角だから景色のいいお店で食べよう、というスピネルの提案に乗ったのだ。


「コハクがいたおかげで結構オマケしてくれたり割り引いてくれたけど……それでも金は結構なくなったな……どこかで金策しないとまずいぞ真剣に」


 海産物のパスタを食べながらスピネルが言う。


「ま、まぁメルトまで行けば色々仕事はあるだろうし……途中の町で仕事してる暇は……ないだろうなぁ」


 私は小魚のパスタで、コハクはシーフードのピザを食べている。初めて食べるとのことだったが、美味しそうにしているので良かった。


「今回の旅程って、街に泊まるときの宿は自分たちで探すんですよねぇ……コハクちゃんいるから野宿ってわけにはいかないですしぃ」


 ルチルはトマトのパスタだ。美味しそう。


「つーかあたしら一応若い女だし野宿はできるだけ避けたいわ」


「うーん、そう考えるとやっぱコストが……あ、そうだ。メルトまでの道のりへのさ、配達系の依頼、受けたらいいんじゃない?」


 冒険者への依頼で多いのは採集や護衛だが、加えて輸送任務も結構多いのだ。盗難防止も兼ねられるしね。


「ああ、確かにいいかもな。高速馬車だし、この後さっそく冒険者協会で聞いてみよう」


 よし、金策は何とかなりそうだ。ほっと胸を撫でおろし、食事を再会すると、隣にいたコハクが、ぼうっと海の方を眺めていた。


「コハク? どうかした?」


「うみ、おおきいねー、きれいだねぇ」


「海、初めて見たのか?」


「うん。えほんではよんだことあったけど、みるのははじめて。あと、すっごくあかるいね、まち」


「まち、ですかぁ……? こんなもんじゃ――あぁ、そうかぁ。魔界って、暗いんですよね、そういえば」


「え、そうなの?」


「はいぃ、確か。魔界には太陽がなくて、人工的な明かりらしいんですよね。それだと確かに。コハクちゃん。こんなに明るい世界は、初めて見るのかもしれませんねぇ」


 じぃっ、と、色々なものを凝視するように見ているコハク。そうか。彼女にとっては、この町の景色すべてが、初めて見る、珍しいものなんだ。確かに昨日は結局バタバタと帰ってきてすぐ建物の中だし、今朝も結局あまり景色を見る時間なく寝てしまった。ゆっくりと街を見るのは今が初めてだった。


「すごい。きれい。せかいが、きれい」


 コハクは眩しいのか目を細めて、でも頬を紅潮させている。――とても楽しそうだ。


「よかったな。ここからの景色は最高だからな。――でも、世の中にはもっといろいろ、いい景色があるぞ」


「そうなの?」


「ああ。これから旅をするからな、いくらでも見れるさ」

 

 スピネルの言葉通り、これから馬車で旅をするアレストリア街道は海沿いをずっと走る道で、景色はとても良い。立ち寄る町や村も雰囲気の良い場所が多いらしく、私も実は結構楽しみにしていた。


「目的地のメルトも、いろんな色の家がたくさんあって綺麗みたいだよね。楽しみだなぁ」


「メルトは色々な種族の方が住んでますからねぇ。その種族の方の好きな色、見やすい色が違うので、必然的に建物の色がカラフルになってるらしいですよぉ」


 そうなんだ。ルチルは博識だな、さすが貸本屋さんでアルバイトしているだけのことはある。


 食事を終え、冒険者協会へ向かう道すがらも、コハクは周囲をきょろきょろ見回しながら歩いていた。手を繋いでいるとはいえもう少し前を向いてほしいとは思ったけど、彼女にとってはすべてが初めてなんだ、と思うとそれも仕方がないように思えた。


◆◇◆◇◆◇


「お、アレク、スピネル、ルチルと……コハクちゃんだっけ。ちっす」


「ちっすー」


 冒険者協会に入ると、受付のところにリタとリズがいた。何やら依頼を受けているらしい。


「二人とも昨日はありがとな。結局メルト行くことにしたよ」


「あ、そうなん? じゃあ……向こうの友達に手紙書くから持ってって渡してよ。色々助けてくれるよう伝えとくからさ。あっちに知り合いいないっしょ? 冒険者してる獣人のコなんだけど、それなりに実力者だから、冒険者協会の方にも紹介してくれると思うよ」


「あー、カルクちゃん? 結構見た目私たちと違うからびっくりするかもね。まぁでもいいコだから、大丈夫」


 見た目が違う、というのはどういう感じか気になったものの、紹介してくれるのは非常に助かる。冒険者協会という組織があるとはいえ、やはり色々教えてくれる人がいるのといないのとでは大違いだ。


「助かるよ、ありがとな。戻ってきたときお土産買ってくるわ」


「まぁ私たちもそっち行くかもだし、次会った時におごってくれ」


「そのうちツアーやろうねって計画してるんだよね」


 ライブ活動の一環なのだろうか。彼女たちは単純にその町で歌うだけでなく、他都市でもその歌を聴いたり、その映像を見たりすることができて、色んな所にファンがいるらしい。そういった歌や映像を遠くに届ける技術は既にあって、都市間で連携しているらしいのだが……詳しい理屈はよくわからない。 


 二人と別れて、メルトやその途中の町への輸送依頼を探す。手紙や簡単な荷物は一応都市間の郵便サービスが存在していて、定期的に街道を往復しているのだが、タイミングが合わないと時間もかかるし、魔物や盗賊のリスクも存在する。そのため、貴重品や急ぎの場合は冒険者への依頼を出すケースが多いのだ。


「メルトとの間にある村や町は、クレジーニと、ソエロルくらいか。あとは休憩所だもんな確か」


「もう一つ小さな宿場はあったと思いますけど、依頼をするほどではないと思いますねぇ」


 いくつかの依頼を見繕う。あまり大きいものは難しいが、装飾品や急ぎの手紙、小包や、いくつかの武器や魔道具、それに私たちが昨日持ってきた精霊の泉の水の輸送などを請け負った。精霊の水に関しては通常の輸送ルートがあるらしいが、急ぎでほしいという要請があってのことらしい。自分たちで取ってきたものをまた運ぶというのも不思議な気分であるが、まぁこれなら宿代くらいにはなるだろう。


「はい、確かに。クレジーニには冒険者協会はないから、受け取った人にサインを貰ったらソロエルかメルトの冒険者協会で報告してね。あと、これ、少ないけど」


 セーラさんが封筒をくれた。


「これは……?」


「私からの依頼、コハクちゃんをおかあさんの元へ届けてね、の前金。ちゃんと協会からお金貰ってるから、気にしないで」


「助かります、ありがとうございます!」


 コハク、みんながあなたの幸せを、願っているんだよ。私はコハクに微笑みかけた。彼女はよくわかっていないようだったが、それでもいいんだ。――きっと、助けてくれたみんなに、いい報告ができるように頑張ろう。

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