土地の記憶
こんばんは。
恐怖の語り部、菊池彼岸と申します。
おや?貴女は確か……
おっと。失礼いたしました。
記憶に残る知り合いによく似ていたので、間違えてしまいました。
彼女にも貴女と同じく目元に黒子がありましてね。
貴女は右側ですが、彼女は左側でした。
人の記憶というのは本当にあやふやなものです。
間違えたまま記憶して、その記憶さえズレていく。
本当に厄介なものです。
そうだ。
今宵は記憶についてお話ししましょう。
今宵の恐怖、貴女のお気に召すと嬉しいのですが…
。。。
人の記憶というのは厄介でして。同じ場所、同じ時間に同じものを見ていても、それぞれ違った事を記憶してしまう。
そしてそれぞれが違った主張をしだすのでいざこざが起きやすい。
さてはて、困ったものです。
そして記憶といえば、土地の記憶も厄介でしてね。
ええ、土地の記憶です。
土地が記憶するわけがないと仰りますか?
いえいえ、土地は記憶するのです。
正確に言えば、人間の記憶が土地に残る…でしょうか。
そうですねぇ。記憶が残る土地としてわかりやすいのは、昔の首斬り場、つまり処刑場ですね。それと古戦場。
どちらも 鬱積した怒り、悲しみ、嘆き、不満、等々の記憶が積もり積もった土地になりますから。
そもそも首斬り場に選ばれる土地というのは、もともとそういった習性がある土地なのです。つまりはなるようにしてなった処刑場なのです。
古戦場もそういう癖を持った土地ということです。
そういう記憶を持つ土地がどうして厄介かと申しますと、その土地では同じ心持ちの人間はあちら側に堕ちやすいから…でしょうか。
あの世とこの世がつながりやすい時間を、貴女もご存知でしょう?
丑の刻から、寅の刻。
つまり深夜2時から4時までは、あの世とこの世がつながりやすくなるのです。
まあ、その時間に首斬り場に立つ人間というのは、別の意味で怖い人間になりますが。
そんな時間に外に出る事はなくとも、誰もがあの世の入り口に立つ時間があるのです。
逢魔時。
昼から夜に移り変わる時。
その時間に首斬り場や古戦場に行き、当時殺された人々の無念さ、苦しみ、嘆きに自分の辛さを重ね、心をリンクさせると…
はい。
かなりの確率で、その土地で苦しみ亡くなった人達と同じ苦しみを味わう事が出来ると思います。
ひとつだけ言わせてください。
古戦場で亡くなった人の記憶が残るなら、戦争で亡くなった人の記憶も残るだろうと思いますよね。
これは明らかに違いがあります。
鎮魂の祈りがなされているかいないかです。
今を生きる者たちが平和を願い、鎮魂の祈りを捧げる事。
それもまた土地の記憶として強く力を持つのです。
祈りが道しるべとなって、天へ向かう一筋の光になっているのですよ。