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最初で最後

 こんばんは。


 恐怖の語り部、菊池彼岸と申します。

 今日はどんな恐怖をお届けいたしましょうか。


 ああ、そうだ。

 アレがいい。


 今宵の恐怖、みなさまのお気に召すと嬉しいのですが…



 。。。


 時はお彼岸。

 これは私の母が実際に見た話。



 その日、母は近所の集まりに参加しました。

 とあるお宅の仏間に通された母。

 部屋には大きな仏壇を背に、ぽつぽつと座布団が置かれ、参加者は自由に座っていいようでした。

 母はゆっくり腰を下ろし、他の参加者を確認しました。

 母の他には、数人の女性とスーツ姿のサラリーマンがいたそうです。


 さて、集会が始まりしばらくした頃、サラリーマンの頭がコクリコクリと前後に揺れだしたそうです。

 つまらない話し合いは眠くなるものです。ちょうど眠くなっていた母。

 サラリーマンも自分と同じように眠いのだろう。母はそう思ったそうです。


 コクリ…コクリと揺れる男性。

 主催者もチラリと男性に目を向け、男性の揺れに気づいている様子でしたが特に何も言いませんでした。


 しかし次第に男性のその揺れは小さなものからだんだん大きなものとなり、ついには前のめりになり頭を畳にすり付けたまま動かなくなってしまったそうです。

 そしてよだれを垂らし「ぐゔぅ…ゔゔ〜…」と苦しそうにうめき出しました。

 男性の体調が悪くなったのかと思った母や周りの人が心配するなか、主催者は少し困った顔をしています。

 そして軽くため息を吐くと、こう言ったそうです。


「久しぶりにたくさんの人が来たから嬉しいと、仏壇からお婆さんが出て来てその男性の背中に乗ってしまった。お婆さんは今、その男性の背中にしがみついている」


 と。




 家に帰って来た母にその話を聞き、その後はどうだった?と問うと「主催者がお祓いみたいな事が出来るらしくて、お婆さんに帰るように説得をして男性はすぐに元通りになったわよ。でも、男性は何があったか覚えていないんだって」そう言ってました。





 。。。









 どうですか?


 怖かったですか?


 どこが怖かったですか?


 どうして怖かったと思います?


 お婆さんが男性の背中にしがみついている姿を想像して、怖いと思いましたか?



 いやでもこの話、全然怖くないと思いませんか?

 その場で母が見たのは「具合が悪くなったサラリーマン」です。

 仏壇からお婆さんが出て来るのを見たのは主催者だけです。

 サラリーマン本人は全く記憶がないのですから、何一つ怖い事なんてありません。



 こんな生業をしている私が言ってしまったら元も子もないのですが、世の中に出ている話はほとんど怖くないものです。


 いえいえ、恐怖の世界がないとは言いません。

 本当に怖い経験をした人というのは…その怖い経験をあまり話したがらないものです。

 一様に口を閉ざします。

 どうしてかって?

 そりゃあ思い出してしまうから。

 耐えがたい恐怖体験をもう一度する事になるのと、あの恐怖を認める事になるからですよ。

 他にも、本当の恐怖を体験した人はこの世にいない…そんな理由もあります。

 だからね、本当に怖い話は世に出てこないんですよ。


 ちょっとした恐怖を大きな恐怖にするのは、その場に居なかった人…ですよ。



 あなたの記憶に…背中にしがみつくお婆さんが増えただけです。







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― 新着の感想 ―
真理だ。 ばあちゃんは何処かに連れて行って欲しかったのかな? ばあちゃんくらいは運んでやってもいいんだけど、目的地が問題だ。
[良い点] 怖かったです! 最初はそんなに怖くないかなー、と思いながら読んでいて、本当に怖い話は話したがらない、になるほど、と納得していたのですが。 最後の一文で一気にぞわぞわぞわって寒気がして…
[良い点] そっかΣ(゜Д゜) 豆月の肩こりと背中重いの、そのせいだ!←ウソウソ(笑) [一言] 菊池祭り、お疲れ様でした!(*´∀`*) …でも結局、あんまり回れなかったorz
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