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white:white  作者: もい
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第一章 【慟哭の空】 六

もうすぐ一章終わるんじゃなかな?

とか思いながら書いてます。


少しずつ読者数が増えてくこの感動、プライスレス




 「なァるほど……集まったのは4世帯、15人ねェ。まァいいか。他は全員村の外だな?」


 あの宣誓からしばらく時間が経った。村からは人の気配が薄くなり、残った人間は僅か一握り。


 「おそらく、ね。とはいえそこまで遠くへは行けないと思うよ。なにせ当初護衛にする予定だった君がいないせいで村人には魔物に対する戦力が皆無だ。今頃街道で立ち止まっているだろうね」

 「まァ、これから戦闘が起きるッつーのに戦意がない奴がいても困るしなァ……ッて、エリー?」


 集まった村人の中に見知った顔を見付けた。どうやらルーフア一家は村から出なかったようだ。


 「トーヤさん!」

 「エリー……なんでオマエ逃げなかったんだァ?」

 「だってトーヤさんが言ったんだもん。村の外にいても死んじゃうって。だから私、トーヤさんを信じる。この村を守ってくれるって」


 信頼されている。たかが2日、3日一緒にいただけの余所者を信頼してくれている。

 ならばすることは一つ。


 「そうかァ……なら、それに応えなきゃなァ?」

 「うんっ!」


 エリーの笑顔が眩しく感じる。この笑顔を、守らなければ。ーーたとえ、他の誰かが犠牲になっても。自分の身を犠牲にしてでも。


 (いつから俺に自己犠牲の精神が身に付いたんだかなァ……)


 自分の変化に首を傾げる。


 「……私は、何をしたらいいんだい?」


 エリーと一緒に近づいてきたのはアレックスだった。


 「アレックスさん……やってもらいたいことはたくさんありますよォ。それじゃ、始めますかァ」


 喧嘩しかしたことのない素人が、一体どこまでできるのか。刀哉は産まれて初めて、何かを守るために力を使う。


 「いいかァ!? まずは男と女に別れてくれ! 別れたら代表は1人ずつこっちに来ること! やる仕事を伝える! 始めェ!」

 「ふふ、何をする気かな……?」

 「それは見てからのお楽しみって奴だぜェ? それより、地図はあるかァ? あと村の見取り図もあるといいなァ」

 「あぁ、それならここにあるよ」


 後ろにあった袋から二枚の紙を出した。一枚は、村を含めた周辺数キロの見取り図。もう一枚は世界地図となっているようだ。


 「シラフィ、敵はこの国境側から来るんだな? で、この村は国境側から見ると森ばかり。となると村の入口、真正面からはこねェだろうな」

 「その通り。入口は街道に繋がっているから他は全て森だよ。隣国に行くには決められた街道がある。だから、この村を襲うとしたら国境側の森から来るだろうね」


 地図に攻めて来るであろう予想ルートを書き込む。森から来るという事は、敵が予想より少なくなるのではないかーーそんな期待を抱かせる。

 だが、それは実際見てみなければ分からないだろう。安易な憶測は危機を招く。


 「シラフィ、この村に移動手段はねェのか?」

 「馬が一頭、私の家の裏にいるよ。昔私が流浪していたときの相棒さ」

 「よォし、なら誰か1人、国王に伝えに行ってくれ。出来るだけ早く。うまく行けば先遣隊が来る前に救援が来るかもしれねェ」


 そうでなくとも、先遣隊の次は本隊だ。そうなったら絶対に勝つことは出来ない。


 「さァ……俺とシラフィは装備探すぞ」

 「探すって……どこをだい?」

 「シラフィの家だよ。刀があったンだ。防具や他の武器も少しはあんだろ?」











 「ゲホっ……こりゃァ、何年間放置したらこうなるんだァ」


 村人たちに指示を与えた後、刀哉とシラフィは村長の家の物置ーーもとい、埃が山のように積もった部屋を漁っていた。

 物を漁る度に埃が舞う。それが呼吸と共に入ってきて咽せてしまう。


 「シラフィ、なンか口に巻く布とかねェか?」

 「あるよ。少し待ってて」


 シラフィが布を探しに戻った後も、手当たり次第に武器や防具を探す。


 「トーヤ君、あったよ。ほら」

 「あァ、悪ィな。シラフィ、これ見てくれよ」

 「これは……剣かい?」

 「あァ。十分な数あるなァ。男にはコレをもたせりゃいい。……こっちは弓矢かァ? 女はコレだな」

 「まさかこんな物があるとはね……私はこれがいい」


 シラフィは箱の中に入っていた剣を一振り出した。

 さほど長くなく、女性でも片手で扱うことのできる剣ーー細剣レイピアだ。


 「そんなモンどうすンだァ?」

 「私の能力チカラを忘れたのかい? 無抵抗の相手に死に至らせるのはこれで十分。あまり大きくても扱うのに困るしね」

 「なァるほど。……さて、これを人数分運び出すぞ」


 剣を持てる男は六人。弓を使えるのは五人。これならひとりでも運び出せるだろう。


 「シラフィ、コイツを家の前に運び出しておいてくれ。矢はけっこう量あるから数回に分けてくれていい。俺ァ防具と他に使えそうなモン探す」

 「りょーかい。じゃ、そっちは任せるよ」


 シラフィから貰った布を顔に巻いて、探すのを再開する。

 武器があったという事は、対になる防具もあるはずだ。刀哉は武器の入っていた箱の近くから、もう一度手当たり次第に開けていく。


 「これも違う、これもだァ……絶対あるはずだ。こっちはどうだァ?」


 武器の入っていた箱より少し奥。今まで見てきた箱よりも一回り大きい気がする。


 「ビンゴォ……しかも甲冑じゃなくてラフなタイプじゃねェか。好都合だな」


 箱の中は一見ただの服にも見える、簡易型の鎧。下地は革で覆い、心臓などの急所の部分には鉄が充てられている。

 その他にも籠手や脛当てなど、フルセットで揃えられていた。


 「おォ、ご丁寧に剣士と弓使い用、両方あるじゃねェか。歴代の村長はずいぶん用心深かったんだなァ」


 剣士と弓使い用の鎧を人数分抜き出して、物置を出る。

 物置は荒らしたまま放置。


 「おや? その手にあるモノを見ると……防具はあったみたいだね」


 物置を出ると、武器を置いて戻ってきたらしいシラフィがいた。


 「まァな。しかし、なンでこんなモンあるんだろうなァ」

 「二代前の村長が現役の頃、戦争が激化していたからね。戦場が遠いとは言え、備えておくに越したことはない……とか、そんな理由じゃないかな?」

 「まァいいか。大切なのは、今どうするかだしなァ」


 剣や弓が置いてある所に鎧も一緒に置く。


 「よォし……作業も順調、差し当たって問題はねェな。シラフィ、そういえば早馬は出したのかァ?」

 「あぁ。青年を一人行かせた。順調に行けば王都まで1日半。青年には私からの要請書を渡して、国王に届けるよう言った。届けたらすぐ帰るようにもね」

 「上等。アレは三日で完成させる。ラスト一日は見張りと休養だ。戦闘に関してはぶっつけ本番……てか身を守ってもらうだけだがなァ」

 「主な戦闘は私ら二人でやる、と」

 「あァ。仕方ねェ。……俺ァ男の方の作業を手伝ってくる。シラフィは女の方を頼むわ」

 「その前に矢の残りを運び出さなきゃならないんだけど……」


 気まずそうにシラフィがうつむく。心の中で、まだやってなかったのかよ……とか思ってない。ということにした。


 「あー、分かった、俺も手伝ってやるよ……ホラ、早く終わらせンぞォ」


 あきれながらも、矢を運び出すために物置に戻る。

 埃の量は全く変わらないが、矢の位置が分かっていると言うだけで随分行動が楽になる。

 武器のしまってある箱から大体使うと予想される矢を出して、半分程度シラフィに渡す。


 「気を付けろよォ? そんなモンで怪我したら笑いモンだ」

 「私はそんなミスはしないよ。それに、どんなものも私を傷つけることは出来やしない」


 刀哉は少し驚いた。ただの軽口かもしれないが、傷つけることは出来やしないなどと中々言えることではない。


 「へェ……その自信はどっから出て来るンだァ?」


 ちょっとだけ期待をして聞いてみる。


 「なぁに、私が完璧だというだけのことさ」

 「……そうかよ」


 期待した自分が馬鹿だった。

 刀哉はシラフィが言うことを真に受けないと心に決めたのだった。










◇◇◇










 「日も暮れたし、今日はこのくらいにしとこうかァ……」


 空を見上げると、夕焼けは身を潜めて、藍色の空が一面に広がっていた。


 「そうだね。いくら村の中とは言え、魔物が来ないとは言えない」

 「わざわざ作った仕掛けを無駄にされちゃたまんねェからなァ。それじゃ解散! エリー! アレックスさん! 帰りましょォか」


 作業に没頭していた村人たちに解散の旨を告げ、エリーたちの元へ行く。


 「トーヤ君……住まないね。村人でもない君にこんな事をさせてしまって……本来ならば私たちがやらなければならないことなんだが」


 アレックスが開口一番、出てきた言葉は謝罪だった。


 「まだ確実に守れるとわかった訳じゃ無いンで。もしかしたらこの人たちを無駄に殺してしまうかもしれない。もしかしたらみんな無事に生き残れるかもしれない。どっちかわからない以上、やってみなきゃ分からないって事ですよォ。それに……俺が戦うのはほんのお礼ですよォ」


 刀哉がそう言うと、アレックスは悲しそうに目を伏せた。なにかおかしいことを言った覚えもない。


 「お礼、か……私たちは何もしていないというのにね……」

 「それは違いますよォ? あの家で俺ァ忘れてた物を思い出させて貰った。その上に色々貰った。なら返さないとならない。それが俺の流儀です」

 「すまない……この戦いが終わって生き残れたら、また一緒に食事をしよう」

 「えぇ、必ず」


 ささやかな約束。

 しかし二人にとっては大きく、守らなくてはならない物になった。


 生き残る、それだけを胸に秘めて。


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