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white:white  作者: もい
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第一章 【慟哭の空】 三

コメントとか、欲しいなぁ。

…ほしいなぁ








 人を初めて殴った時、凄まじい罪悪感が襲ってきた。


 他人を傷付けた。


 他人の血が手に付いた。


 自分の手が熱い。


 自分の身体が熱い。


 他人が倒れた。


 血を流して。







 ーー人殺シ










 「ッ! ……ハァ……ハァ……なンだよ、夢かよォ……」


 窓の外は明るい。ここにきて不便に思うのは時間が判らないことだった。とはいえ、アッチにいたときも特に時間を気にしていなかったため、なにか弊害があるわけではなかった。


 「クソ、嫌な夢だなァ畜生……てか、なンか重てェな……ってエリーかよ」


 どうも重いと思ったらエリーがくっついている。そして離れない。


 (俺ァ抱き枕かァ?)


 引き剥がそうと試みてみるが、がっちり手を回されて動くことが出来ない。

 今の状態を説明すると、仰向けになっていた刀哉の上に、エリーが覆い被さっている体勢になる。寝息を立てるエリーは可愛らしいのだが、起きてほしい。


 「オーイ、起きろォ……」

 「んー……にゃ」


 (にゃって何だァ?)


 とりあえず判ったことが一つ。エリーに起きる気は全くない。引きずっていくか。


 「ッたくしょうがねェな」


 刀哉はエリーを抱っこする形で起き上がった。未だ起きない。

 仕事もあるし、仕方がないのでそのままリビングに降りていく。


 「あァ、おはようございます」

 「あら、起きられましたか。……あら?」

 「あァ、エリー、起きないンですよ。離れてくれないし起きないし。だからそのまま連れてきました」

 「迷惑かけないって言ってたのにねぇ。困った子だわ」

 「いえ、これくらい何でもないですよォ。こいつ軽いですしねェ」

 「これでも一応13歳になるんですけれど……」


 驚いた。まだ10歳くらいだとばかり思っていたため、少なからず動揺した。リタの口振りから、同年代くらいの間でも小さい方なのだろう。


 「まァ、子供の成長なんてすぐですからねェ。あっという間にデカくなると思いますよォ」

 「そうだといいのだけど……あ、トーヤさん、お昼はどうします? よろしければお弁当かなにか作りますけど……」

 「あァ、いえ、そこまでしてもらうわけには……でも、そうッすね、一度帰るのでご一緒してもいいッすか?」

 「そうですか。わかりました! では時間になりましたらエリーに呼びに行かせますね」

 「助かります。……で、コイツ、どうしますかァ」


 未だくっついて離れないエリーを見る。本当は起きているのではないか、と疑うほどにつかむ力が強い。これでは仕事にも行けない。


 「あぁ、これ、コツがあるんですよ。この耳の所で……ふー……」

 「ひゃあんっ」

 「……おォ、すげェ」


 さすが母といったところか。一撃でエリーを起こしてしまった。今までの苦労はいったい……。


 「はれ? トーヤさん……? って、はわわっ!」


 意識が覚醒したとたん、エリーは、ずささっ! っと後ずさりした。

 ここまで露骨にやられると少し悲しいものがある。


 「んじゃァ、仕事行きます。」


 真っ赤な顔をして隠れている(つもりの)エリーを一瞬見るが、すぐ家を出た。





 「こんちゃッす。なんか問題ないっすかァ?」


 畑で農作業をしているオジサンに話しかけた。この村では基本的に自給自足。たまに手に入らない香辛料や金属類、それに米が商人によって運ばれてくる。


 「あぁ、用心棒の……トーヤ君、だっけ。こっちは特に問題ないよ。魔物も日が高い内は来ないからね。来るとしたら逢魔が時ーー日暮れかそのあたりだろう」

 「なるほどォ。ンじゃ、俺ァ村長サンとこいるんでなんかあったら村長サンのとこまでどーぞ」

 「あぁ、わかった。じゃ、私は仕事に戻るね」


 オジサンはそう言って黙々と農作業を続ける。刀哉もこれ以上話すことが無かったため、村長の家に向かう事にした。


 「村長サン? 起きてるかァ?」


 昨日と同じように扉をドンドン叩く。


 「そんな乱暴に叩かなくても聞こえてるよ……どうしたんだ?」

 「俺が異世界から来たってのは言ったよなァ。そんで、俺ァこの世界の常識を知らねェ。そんな訳で村長サンにご教授頂こうかと思ってよォ」

 「なんだそんな事か……まぁ入りなよ」


 村長は体を扉からずらして刀哉を招き入れた。刀哉が異世界人というのはもう興味がそそられる対象ではなくなったらしい。その証に、心底面倒くさそうである。


 「はい、お茶。……それじゃ、何から話そうかな……」


 村長ーーシラフィは少し思案した後、ぽつり、ぽつりと話し始めた。








◇◇◇










 この世界は、神の化身だ。

 この世界に生ける生物は全て、この星の恩恵を受けている。

 神は平等で、公平で、それ故に無慈悲で、無関心だ。しかし人は弱い。神は仕方なく助けを出した。

 世界に四柱の精霊王と大気を満たす精霊を作り出して、人に力を与えた。

 人はその力で精霊の力を使いう。それらを総称して魔法と呼んだ。

 魔法と言うのはいくつか分かれているが、ここは割愛させてもらう。ほとんどの一般人は知らないことだから常識とは言い難いからね。

 魔法というのは誰にでも素養があるけど、誰にでも使えるわけではない。魔法を使うには世界を感じ、精霊を感じ、己の魔力を感じなければならない。

 感じ方は人それぞれ故に、コツなんて物は存在しない。だから自分自身で見つけなければならないんだ。

 だから魔法使い、魔術士とも呼ばれるがーーこの存在は少ない。とは言っても人口の三割近くはいるけどね。


 この魔術士が魔法を使えない人間の生活基盤を作る。君は疑問に思ったことはないかい?水はともかく、火をどうやって起こしているのか。

 それは全て魔術士がやっている。各家庭に一つずつ、百年は消えない火種を与えて生活することが出来るようにする。この火種は一メートル以上燃え広がる事がないように記憶をさせてからね。

 大きな魔法の火は太古の魔術士が置いていったと言われているよ。


 そして次に、魔物だ。

 これに関しては発生した期限が分からない。いつの間にかいた存在だったとしか言えないね。この魔物にはランクがある。D〜SSSまでだね。

 中には人語を解したり魔法を使ったり、知能の高い魔物もいる。

 こと魔物に対しては、討伐を仕事にする人もいるからね。そのための組織、ギルドが作られている。


 後は、魔族かな、

 魔族といっても別に魔物と同種と言うわけではない。れっきとした人間さ。ただ、普通の人や魔術士にはない特殊な力ーー超能力を持っている。

 特徴としては、赤い目だね。赤という色が血を連想させて嫌悪を生んだ。幸いにもこの村には魔族がどういったものか知るものはいない。

 かく言う私も魔族だからね。







 「……ーーとまぁ、こんなところかな?」


 大体の事は話した、といった顔をしてお茶を一口すすった。


 「赤い、目……でもアンタは黒じゃねェか。それに俺は……」

 「ほら、これでどうだい?」


 すっとシラフィは自分の目の前に手を一瞬かざす。再びその目が現れた時、色は赤になっていた。


 「私は魔族だよ。トーヤ君は異世界人であるから、こちらの常識が通じるか分からない。私が君に何か力があるか見ようか?」

 「あ、あァ……って、ンな事出来んのかよ?」

 「それが私の力だからね。人の意識に侵入して支配する。それが本来の使い方だけど、すこーしヒネれば深層意識に侵入して能力の判別をするくらいワケないよ。さ、こちらへどーぞ」


 椅子の方を差し座ることを促す。だがここは従うほか無いだろう。


 「ッたくよォ……手短に頼むぜェ」

 「お任せを。んじゃ、深層心理の世界に失礼しまーす」


 シラフィが目を合わせた瞬間、視界がブレた。意識が遠のいていく。

 強制的に意識を閉ざされるような感覚。抗う事も出来ず、それに身を任せる。そして意識が飛びそうになったところで、突然解放された。


 「はぁっ……はぁっ……君は、一体……」

 「なンだよ、何が見えたんだァ?」

 「……喰われそうになった」

 「はァ? なンだそりゃァ?」


 「だから、喰われそうになったんだよ。君の深層心理に侵入を果たしたところまでは良かった。だがそこから先、深層心理の無意識を覗き見ようと思ったら、何かがいた。普通、無意識を覗き見るためには意識を掌握しなければならない。しかし、掌握するつもりが逆に掌握されて、私の意識が喰われるところだったんだ……」

 「つまりあれかァ、結局何にも判らなかったっつー事かァ?」

 「あぁ、そうだよ……トーヤ君、君はとんでもない力を秘めているだろう。いずれこの星さえも破壊できる力を手に入れるかもしれない……」


 シラフィは脂汗を垂らしながらこっちを見てきた。


 「そんだけわかりゃァいい。悪かったなァ。じゃ、俺ァ仕事に戻るわ」

 「あ、あぁ……そうだ、これが昨日の分の報酬。ほんとは昨日渡すべきだったんだけど、つい、忘れていたよ」

 「あァ、くれンのか? まぁくれるっつーなら貰っとくかァ」


 小さな袋に入った貨幣が、揺られて音を立てる。

 刀哉はそれをポケットに無造作に突っ込んだ。


 「あァ、今日はもう仕事に戻るからいいけどよォ、明日は貨幣のレートと国政、世界の情勢を教えてくれるかァ」

 「ん、わかったよ。じゃ、今日も仕事終わったらここまで来てくれ」


 出て行く背中にかけられた言葉に刀哉は反応せず、片手をひらひら振って村長の家から出た。村長の家から出ると、朝よりも強くなった日差しが刀哉に降り注いだ。

 アルビノ……色素欠乏症がいくら軽度だからといって、この日差しはツラい。皮膚がチリチリと焼ける感覚がする。


 「街に行ったら服買うかァ」


 刀を腰に差しながらゆっくり歩く。畑仕事をしていたオジサンも言っていたが、日中はあまり魔物が出ないのだという。


 ぐるりと一度周りを見渡す。魔物は居ないようだが……何故か人の姿が少なくなっている。


 (もしかして……昼かァ?)


 はっとして、村の入り口の井戸まで走る。刀が揺れて若干邪魔だが気にしていられない。


 「あ! トーヤさん!」

 「エリー……もう飯なのかァ?」

 「はい! ご飯用意できましたので呼びに来ました! さ、行きましょう!」

 「あァ……悪いなァ、待ったろ?」

 「いえ、呼びに来たらちょうどトーヤさんが走ってきたので全然待ってないですよ」


 ニコニコしてエリーが答える。そんな笑顔を見て刀哉は思った。


 (あァ、嘘じゃねェらしいなァ。まァ、コイツが嘘なんてつけるとは思っちゃいねェけどなァ。……ったく、純粋なのは、羨ましいなァ)


 エリーの家、ルーフア家の前まで来たところでいい匂いがしてきた。この匂いがまた、刀哉の空腹を誘う。


 「じゃ、まァ、メシ食うかァ」

 「はい!」


 エリーがドアを開けて、刀哉はそれに続く。

 中には笑顔のアレックスとリタがいる。











 ーー守りたいと、思った。たとえ自分が人を傷付けた人間だとしても。


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