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white:white  作者: もい
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第四章 【異端の標】 二

ストック消化。

またしばらくストック貯める期間に入ります


「クソッ……ひでェ目にあった……」


ソフィアによる猛攻を何とか躱して宿を脱出してきた。

のこのこまたあのドラゴンのいる宿に戻る気も起きないので街に出てみたわけだが……


「こりゃあ、見れば見るほど元の世界に似てやがる……どういうことだ?」


あの物々しい外壁の中、一歩中に入ればビル群。

この国の中心部にそそり立つ一際高いビルに向かって山をなすようにビル群で国が形成されている。まさに摩天楼、といったところか。

遠距離から見たその姿はどこか現実感のないファンタジックな風景だが、街に入ってあたりを見回せばどうだろう、車やらはさすがにないものの、電光掲示板や街燈、建物の素材に関しても他の国ではレンガを使っているのに、ここでは鉄骨とコンクリートで建造されている。

先程車はないといったが、バイクらしきものはある。何が動力になっているのかはいまいちわからないのだが、標識も信号もあり、交通関係に関しても他国に比べれば圧倒的に進歩した国のようだ。


「まさか……いや、まさかな」


憶測に過ぎない。しかし、そうでもしないと想像がつかない。

もしくはほかに違う真実があるのかもしれない。


「この国の中じゃ、魔力は一切使われてねェみてェだな……動力は、エネルギー源はなんだ? 電力……か?」


「正解」


突如、背後から声。

声の主は、長い緑髪を後ろで結んだ若い男。

この国の例に漏れず、赤い瞳。


「誰だ」

「あっはっは、そんな警戒しないでくれよ。君の知り合いの知り合いさ」

「そりゃあ他人じゃねえのか」

「似て非なるものだよ。まあ、一応自己紹介をしておくね。ロッシュ・トーレストだ。よろしく。君があったことのある魔族、シラフィ・トーレストの弟だ」

「シラフィの……?」


確かに言われてみればどことなく似ている気もする。口調や人を小馬鹿にしたような雰囲気といい態度といい。


「実は姉から連絡があってね。もし白髪で禁忌の紅い瞳を持つ人間が現れたら接触してくれ、とね」

「チッ……それで、何の用だ?」

「話は姉から聞いてるよ。君は素質があるらしいね」


素質。

それは言わずもがな、この国の人間がすべからく持っている異能の、素質。


「僕の能力は姉と同系統でね。人の心に対してある影響を及ぼすことができる。姉も君に似たようなことをしたことがあるだろ?」


思い返せば、確かに。

刀哉のことを魔族ではないかと思い、深層心理に侵入してその異能の姿を探り当てようとしたことがあった。


「それでロッシュ、アンタの能力ってのはいったいなんなんだ?」

「それは、もう少し落ち着いたところで話さないかい? こんな往来の真ん中で立ち話も何だし、うちへおいでよ。歓迎する」

「……わかった、いこう」


了承したと同時にロッシュは歩き出した。


「ところで君は異世界から来たと聞いているんだけど、本当なのかい?」

「あァ。ちょっとしたアクシデントで建物の屋上から落ちて──気付いたらこの世界にいた。落ちた先はルクの村で、そこでシラフィにあったんだ」


元気にしているだろうか。シラフィも、……エリーも。


「大丈夫さ。君の心配ごとに関して言えば問題はない」

「テメェ、人の心覗き見してんじゃねェ」

「覗き見してるわけじゃないさ。勝手に流れ込んでくるんだ。僕の異能は強すぎて、発動してなくてもあふれ出てきて勝手に頭に入ってくるのさ」

「チッ……そんな制御できてねェ異能でどうしようってんだ」

「制御できてないわけじゃあないよ。ただ抑えきれてないのさ。開放して扱う分には何の問題もない」

「そりゃあよかったよ」


となるとうかつに考え事もできやしないではないか。


「さ、着いたよ。ここが僕の家だ」

「……なんつーか、普通だな」


普通の家だ。いや、もちろんこの国からしてみれば異常なのだろうが、現代日本のどこにでもある、普通の一軒家だ。


「見た目はね。中身は研究資材でいっぱいさ……さて、どうぞ。何か飲む?」

「水」

「コーヒーもお茶もあるのに……」


残念そうにしつつキッチンに消えるロッシュ。

しかし普通のリビングだ。たしかにいくつか何かの実験器具があるのは見受けられるが、さりとてなにか珍しいものがあるという訳でもない。


「どーぞ」

「あァ。それで……本題に入ろうか」

「なんだったっけ? 僕の異能が何か、って話だっけ」

「あァ。シラフィと同系統だといったな? それはつまり、人を操る、もしくは他人に対してのマインドコントロール……精神部分に侵入して何かできる異能ってことだ」


シラフィの能力は目を合わせた相手の精神を支配し、思うが儘に操作する、というものだった。もと居た世界の事象でいえば、邪眼に近いのかもしれない。


「そう。だが、似て非なるものさ。君は今思ったね、姉の能力はさながら邪眼のようだった、と。もちろんそれ自体は間違っていない。ただ姉は邪眼というには制限がない能力さ。それに、僕も」

「じゃあ、ロッシュ。オマエの能力は、何だ?」


コーヒーを一口すすり、ロッシュは口を開いた。


「いうなれば、才能を開花させる異能かな」

「才能を開花……?」

「勿論それだけじゃないけどね。ただ、姉と違って攻撃には使用することはできない」

「なるほど……支援系の能力ってことか」


シラフィは敵に対しての異能。

ロッシュは味方に対して使用する異能、ということ。


「そう。その異能を使って、君の中の異能を開花させようと思う」

「それは、願ったりかなったりだが……いいのかァ? 場合によっちゃこの世界を壊すかもしれねェぜ」

「それでも君は今、望んでいるんだろ? ──敵を屠るための力を」


そうだ。

俺には、勝たなければならない相手がいる。


「あァ、それで、どうすればいい」

「君が何かすることはないさ。そこに座っているだけでいい。準備はいいかい?」

「いつでも」

「それじゃあ──失礼」





◆◆◆





(これは──また、複雑な)


姉が垣間見たものはこれだったのだろうか。

刀哉の深層心理に侵入したロッシュには、眠る異能がイメージとして見える。


深層心理のさらに奥底、最も暗いそこにうずくまる姿は──


(とても、彼に似ている。だがまたこれも、似て非なるものか)


うずくまる彼に近付いて、声をかける。


『起きるんだ。君の主が待っているよ』


起きていたのか、眠っていたのか。刀哉の異能はゆっくりと顔を上げ、目を見開いた。


(姉は喰われかけた、といったが、なにか変化があったのだろうか……驚くほど落ち着いている)


ロッシュは今までに何人もの異能を見て、開花させてきた。

異能のイメージは様々だ。ドラゴンや悪魔、無機物から何でもアリだ。

人型というのももちろんいた。しかし、ここまで落ち着いたイメージ体にはあったことがなかった。


『あんた、だれだ』

『君の主に頼まれて、起こしに来たんだ』

『おれは、いかない』


(拒否、した?)


『なぜだい? 君は彼の力になりたくない、というのかい?』

『あいつは、もどった。誰彼かまわず傷つけていたころのあいつじゃない。おれがいったら、またもとにもどっちまう』


(異能が一つの人格を持っているのか? これはまた稀有なケースだ……)


『大丈夫、その時は君が止めてあげればいいのさ』

『……断る、といいたいが、そういう訳にはいかないのも、しっている。あいつが道を外しそうになったら、おれはどうすればいい』

『そのときは君が戻してあげるのさ。君は他の異能とはどうも違うようだ……きみならできる、だろ?』


小さく頷く、彼の異能。


『それじゃあ、いこうか。目覚めの時だ』


異能を引き連れて、一気に駆け上がる。




「──ッ」

「……これで、君の禁忌が目覚めた。ここからは君次第だ……硬質結界装置、スタンバイ」


部屋の四隅にある筒が光を放ち、空間を切り取っていく。


「ここならいくら暴れても外に被害はない。君の異能は君が支配下に置いて契約しなければならない。なぜこの異能が禁忌と呼ばれているか──理解するだろう」


「アッ……ああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


刀哉の体から魔力が溢れ出す。


「なるほど……姉の言ったとおりだ……視覚として認識できるほどの高密度の魔力。これは確かに脅威だ……さて、彼の異能はどんな異能なのかな?」


刀哉は無意識だ。己の内側で戦っているのだが、己のうちで戦うということは丸腰で戦うということ。魔力も刀も持ち込めない世界で、異能相手に勝利をおさめ、主従の契約を納めなくてはならない。


「長くなりそうだな……」



ロッシュは呟いて、椅子に腰かける。

彼にできることはもう見守るしかなかった。







「姉さん、彼に、いったい何を見たんだ……?」





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