第四章 【異端の標】 一
読者様。
読んでいただきありがとうございます。
多忙の身なれど、時間はかかれど、更新していきたいと思いますのでどうか、温かい目で見守ってくだされば幸いです。
では、新章を、どうぞ。
全ての始まりとなった地、シン。
彼の地には、世界の人々から忌み嫌われた種族、魔族が住まう地。
魔族は皆その眼に禁忌の紅を宿し、魔法や魔術とは異なる異能の力を振るう。
もしかして、あの時すでに知っていたのか?
──シラフィ。
◆◆◆
「まるで、要塞みてェだな」
「まあほら、ほとんど鎖国状態みたいな国だからねえ。外敵がいつ来ても問題ないように強固な壁を作るのはまあ、間違っちゃあいないよねえ」
「私たちはシンに入れるのか?」
ニキの言う通り、たしかにあそこまで強固な砦で守っている国だ。
そのうえ定期便でもなんでもない、龍種にまたがった人間が四人……下手をすれば殺されてしまう。
「とりあえずソフィアは人型になったし、ここまでは順調だが……問題はあれ、だなァ」
目を向けたその先には、砦の門に立つ人影。門番だろうな。
その眼は、紅。
「異能の力、か」
シラフィの力は他人を意のままに操る能力だったか……おそらく、多岐にわたって能力の幅があると見ていい。
あの時からさほど時間はたっていない。季節が一つ、過ぎただけだ。
元居た世界でいえば、もう秋半ば。
こっちの世界では四季はなく、土地ごとに季節が決まっているのでどれほど時間が過ぎたのかを季節で感じることはできない。
ジュレルを出て、ここまでようやく来た。
刀哉の旅の目的がようやく。
「さァ、まずは穏便に行くとしようか」
この世界の主流の技術の数十倍といわれる技術力を持つといわれている西の独立国家、シン。その戦闘力は想像に難くない。
「何者だ!」
「定期便の知らせも船も確認していないぞ! どうやってここまで!」
門番がこちらを視認した様子。二人の怒号が鳴り響く。
そして門番の瞳はどちらとも、禁忌の紅。
「あァ、いや、怪しいもんじゃねェよ。ほら」
シラフィにもらったコンタクトを外し、紅の瞳が露わになる。
「貴様……魔族か。いや、それにしては……見たこともないし、出門の記録もない。それに後ろの四人は、普通の人間……以外も交じってはいるが魔族では無いようだな」
「しかし、敵意はないようだ。どれ、詰め所で話を聞かせてもらおうか」
「話が早くて助かるぜェ……行くぞ」
門番の後に続き、外壁の内部に設置された詰め所へと向かう。
その外壁といい、詰め所といい、現代日本に限りなく近い。
これがシラフィの言っていた技術力の高さか?
「さて」
「自己紹介から始めようか」
門番はどちらとも魔族。というかこの国には魔族しかいないのだろう。
しかし刀哉と違って髪の色はまちまちである。目の前にいるのは黒髪二人だが。
「シンの外壁警備のモアだ。モア・トーレスト」
と、短髪。
「同じく外壁警備のリロ。リロ・トーレスト」
と、長髪。
「……兄弟か?」
それに、トーレスト?聞いたことがあるような。
「いいや。出身部が同じなだけさ」
「出身部で姓が変わるんでね」
「そうなのか……刀哉だ。真田刀哉。それに、同行のエレン。ニキ。イルフ。ソフィアだ」
「トーヤ君、ね。よろしく。それで、この国には何の目的で? 定期便は来年のはずだがどうやってここまで?」
「ここまでは龍種のソフィアの力を借りてきた。ここに来た目的は、この世界を救うため、とでも言っておけばそれらしいかァ?」
二人の目つきが変わる。
まずモアが口を開いた。
「それで、救うとはどういうことかな?」
「とぼけンなよ。このシンに原因があるんだろ? 『原初の災厄』も、今回の件も」
「……」
「モア、こいつら、まさか」
「そのまさかのようだな。それに、良く似ている。彼に」
「……彼ェ?」
「ああ。もう会ったことがあるかな? サイファーに」
「サイファー、だと……やっぱこの国が原因か」
しかし繋がらない。
なぜこの国なのか? 召喚術式を組み上げたアルトフィリス教団は?
なぜサイファーのことを?
「僕の口からはこれ以上いえない。が、客人としてこの国の王のところまで案内しよう」
「私らも下っ端でね、過ぎたことはできないのさ。ただ、君らはいろいろと知るべきだ。知らなければならない、のほうが正しいかな」
やはり、鍵はここにあった!
ここなら、破滅も、サイファーも止めることができるかもしれない。
「ひとまず宿を手配する。それからこれを」
モアから手渡されたのは五つの腕輪。細い金属でできたバングルに近いもののようだ。
「これが入国許可証になる。これは肌身離さずつけておいてくれ。外していて何かトラブルに巻き込まれたときはこの国は君たちの安全を保障できない。この国には外の世界によくない感情を持っている輩も少なからずいるからね」
「装着した段階でバイタルパターンと魔力痕跡を記憶し、こちらに送信される。なにか事故事件に巻き込まれた場合、もしくはなにか事故事件を起こしてしまった場合なんかはこちらにすぐ位置情報などが送られてくるから、ちゃんとつけておいてくれよ?」
「なァるほど。枷で、なおかつお守りなわけだな。どちらにも効力のある抑止力、ってことだ」
まあ、仕方がないことだ。
「それじゃあ、宿へ案内しよう。ついてきてくれ」
◆◆◆
「はァ……つかれた」
「どうしましょうか? あの門番さんたちは二日後って言ってましたけど、それまで暇ですね~」
「そうだな……下手に私らが動いてもどうにもならん。それより二日後の謁見を待って、それから何かしら行動するしかないみたいだ」
王の謁見は二日後、とあの二人は言っていた。
むしろ国の王に二日でアポをとれることのほうがすごいとは思うが……
「まあ、それまでは自由行動だァ。オマエラ好きに行動してきていいが問題は起こすなよ」
「「「はーい!!」」」
「イルフちゃんとニキちゃん町いこまち!すごいきれいだしみたことないものたくさんあるよ!」
「ちょ、エレン、おちつけ」
「ああ~ひっぱらないでくださいぃ~」
自由行動を宣言した途端、嵐のような勢いで去って行った女子三人組。
何しに来てるかわかってンのかね……?
「ま、あいつらはいいとして……お前はいいのかよ? ソフィア」
「私は人間じゃないからねえ。買い物だとかなんやかんや、興味がないことも多いのさ」
「なるほどねぇ……さて、どう思う?」
「この国のこと、かい?」
いくらなんでも穏便すぎる。そう二人は思っていた。
刀哉に関しては初めてのシンだが、なにかうわべだけの国のような、嘘が塗られているように感じた。
ソフィアに関してもシンを通りがかった際に攻撃されている。
「おかしいと、思ってンだろ?」
「それはまあ。君もでしょ?」
何かを隠しているのか、気のせいか。どのみちこの国にいる間は気を抜いてはいけなさそうだ。
「詳しい話は二日後。現段階で分かっているのは、ほぼ確実にすべての元凶がこの国にあるってこと。そして、解決策もこの国にしかないってことだァ」
「まあ、解決策があるかどうかはわからないけど、元凶は間違いなくこの国さ」
この国にはいろいろと聞かなければならないことが多い。エレンを救う方法だって、あるはずだ。
「さて、トーヤ。君はなにもしないのかい?」
「こっちからできるアクションなんてねェだろうが……ア!? なんで脱いでんの!?」
ふと振り向けばソフィアが上着を脱ぎ始めていた。
「いやあ龍種っていうのはね、強い遺伝子を残すのが一つの使命でもあるのさ。この世界には基本的に私らに勝てる人間どころか種族がいないじゃない? だからほとんどは龍種同士の交配になってしまう訳だけど──なんとここに、この私に勝利した人間がいるではありませんか~」
「せんか~じゃねえ!! 服着ろ!!」
話している間に、すべての衣服を脱ぎ去ったソフィア。
退路を断つように、じりじりと近寄ってくる。
揺れる豊満なバスト。まさにBQBのグラマラスボディ。
「さぁ、仲間はいない……トーヤ、覚悟!!」
「やめろォォォォォオオオオオオオオオ