第三章 【業喚ぶ声】 五
今回も少々短め。
クオリティが低く申し訳ありません。
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@strobe666
「あー…あ。こンな程度じゃ勝てねェな」
思い返すのは、サイファーの圧倒的な魔力。あれほどの密度を瞬時に造り出す彼の技量は、計り知れない。
今刀哉が同じ密度で魔力を作り出そうとすれば、5分はかかる。この5分、短いようで、とても長い。こと戦闘に於いては、コンマ一秒が生死を分ける。
それでも、刀哉は馬鹿ではない。「負けた」という事実に衝撃を受けながらも素直に受け止め、次に勝つ為にはどうすればいいかーーそれを考えている。
「俺を殺さなかった事……絶対ェ後悔させてやる。次は俺が叩きのめす番だぜェ」
事実、この数日程で刀哉の魔力の使い方は変わった。以前は圧倒的な魔力量にものを言わせて強制的に精霊を使役していたが、それでは本来の10分の1すら威力は無い。
それを丁寧に魔力を練り上げ、精霊の力を借りて属性を付与する。これでやっと本来の半分程度の力が出せるのだ。
実際のところ、目で見える程の魔力というのはそれだけで密度の高い魔力を指すのだが、通常の魔術師は少ない魔力でも正式な手順を踏むことによって、魔力以上の威力が出せる。
「つまり知識の無さが災いしたーーそういう事だなァ。オーライ、それは理解してる。アイツは……サイファーは圧倒的な魔力にあわせて正式な手順を踏んでるからこそあの威力が出せるンだよなァ」
それも、並の速度ではない。
本来魔術師というのは後衛で、詠唱や陣を構成する時間を前衛に任せるものだ。
元々魔力加工の施されている武器等は魔力を込めるだけで発動するのだが、それも属性を付与する程度。
「まァ、やってみなきゃ解らねェな」
もし自分があの伝説の英雄とやらと同じなら……そう、破滅〈ウ゛ァナルガンド〉など瞬く間に消し飛ばせる程の力があると言う事になる。
しかしまだあの化け物を撤退させる程度の力しか無い。まだ、何かがある。
「何にしても、シンかァ?」
目標には確実に向かっている。何も問題はない。
「トーヤさん! ワコウの港に着きましたよ!」
「あァ? 早かったなァ……じゃ、降りるぞ」
先頭を切って刀哉が降りていく。それに続いてエレン、ニキ、イルフが降りる。
ワコウの港は活気溢れていた。
主に漁業が盛んで、日本を思い起こさせる様な服に身を包んだ住人が行き交っている。
ほぼ江戸みたいな文化体系のようだ。
「私は一度祖父の所まで戻るのだが…皆はどうする?」
ワコウはニキの故郷。祖父に会うために戻ってきたようなものかもしれない。エレンはただの興味本位かもしれないが。
「俺ァ……そのジーサンに興味あるなァ。悪ィが邪魔してもいいかよ?」
「トーヤ殿が祖父に? 私は構わないが……皆はどうする?」
「私は久しぶりにお祖父さんに挨拶しよっかな!」
「私は……トーヤ様についていきますので」
全員一致でニキの家に向かう事になった。
エレンやイルフの用向きは挨拶やらなんやらだろう。さして興味が湧かない。が、刀哉には目的があった。
ーー刀を、打ってもらう。
せっかく打ち直して魔力加工を施した楓だったが、サイファーとの戦闘でボロボロになってしまった。
もう刀哉の一振りに耐えられる程の強度は無い。並の敵なら夜桜一本で十分なのだが、もし今の状態でサイファーが現れたらーー
次は、死ぬ。
ならば、より強力な刀を。
最早楓は捨てるしか無い。強い武器が、欲しい。
ニキの祖父ならば、応えてくれるのではないか。そんな期待をしてしまう。
偶然とはいえ楓を手に取って戦った刀哉。
それを鍛えた刀匠、ヒザキ。
ニキに出会ったのは偶然であろうが、必然でもある……そんな気がする。
「それでは我が家に向かうことにしよう」
◇◇◇
「ここだ」
ニキが指差した家は、日本の伝統建築によく似ていた。そう、あの茅葺の家だ。
もしかしたらここに工場も内蔵されているのかもしれない。
後ろの方に煙突が見えた。
「ニキ、さっそくで悪いんだがよォ。爺さんに合わせちゃくれねぇか?」
「トーヤ殿? 祖父に用向きがあったのか?」
「あぁ。刀を打って貰いてェ」
「しかし……祖父は刀匠をもう引退している。それにとても頑固で……なかなか気に入った人物以外には刀を打とうとしないんだ。技術は今も一流だと思うのだが」
技術は一流。そう聞いたらますます打ってもらいたくなった。
「なんとか説得できねェか?」
「それは……」
「ニキ、帰ってたのか」
後ろから声をかけられて思わず驚いてしまうニキ。
そこに立っていたのはニキと同じ黒い髪に黒い瞳。しかしその顔には老獪さが滲み出ている。
これが刀匠ヒザキ、か。
「爺様!」
「そちらの方々は?」
「おじーさん! エレンです! お久しぶりです!」
最初に声を放ったのはエレンだった。
顔見知りのようなので最初に挨拶するのは当然と言えば当然か。
「イルフ・ソラシスと申します。各地を回って巡教をしております。以後お見知りおきを」
コイツはただ自分についてきただけなのだが……
「真田刀哉。アンタに頼みがあって来た」
「ふん……礼儀を知らん小僧だな。まぁ、聞くだけ聞いてやる」
噂、というかニキの話に違わぬ頑固さのようだ。大人の対応とかはできないのだろうか。
「アンタにこの刀を超える刀を打って貰いてェ」
楓をヒザキ老人に差し出しながら言い放つ。
「これは……儂の楓だな。三本ある最高傑作の内の一本だ。そして何より、これが最後の作品。これを超える刀を作れ、か。ちょいと見せてもらおうか」
ヒザキ老人は刀身を抜き放つ。
あらわになったその刀身は、普通に使用していれば成り得ない傷つき方をしていた。
楓の芯の部分にはひびが入り、形状を保っているのがやっと。刃こぼれなど問題ではないくらいに刃の部分は摩耗し、ところどころ溶けてしまっていた。もうまともに何かを斬れるような状態ではない。
「酷いな。どう使えばこんな風になるんだ。テメェは刀をなんだと思ってやがる。ただ殺すだけの道具じゃねんだぞ。コイツは刀匠が魂を込めて作って、使い手が魂を預けて戦う、相棒みたいなもんだ。それを……」
「馬鹿野郎……こっちだってコイツを傷付けたくて戦ってるわけじゃねぇんだ! 付き合いは短いけどよォ……自分の一部みたいなもんなンだ。皆の心が入ってんだよ。だが、俺の力量不足が楓を死なせちまった。それは間違いねェ」
ルクの村で守った人。守れなかった人。
破滅を相手取って、戦った記憶。
守ることができなかったアレックス。
戻ると約束したエリー。
この刀を預けてくれたシラフィ。
一緒にセルティを守ったラディ。
ジュレルの国民。
「だけどよ。守るためには、新しい刀が必要なんだ。……頼む。俺に刀を打ってくれねぇか」
「……ふん。知ったことでは……なんだ!?」
揺れだす地面。それに伴って鳴り響く地響き。
こういうパターンはもう知り尽くしていた。
「……なんか、きやがったな」
「いったい何が……ワコウでは大型のモンスターなどいないはずなのに!」
「そんなことは二の次だァ! 行くぞ」
渡していた楓を鞘に納め、持って外に飛び出す。
外に出た瞬間、地響きが何者によって引き起こされていたのかすぐに分かった。
「ハッ……こりゃァまた……デカいなァ?」
「な……まさかこれは」
ニキの家の近くには岩山がある。高さはそれほどないとはいえ、それが海からの外敵の防壁代わりになっている。港はごく一部のみ。
しかし、その岩山の上に鎮座している大型のモンスター……あれは。
「久々っつーかよォ。最近小物ばっかですっかり忘れてたんだが……ここってファンタジーだったんだよなァ……」
破滅やサイファーを除けば、魔物の中で一番の脅威。
最強のモンスター──
──龍種。