第三章 【業喚ぶ声】 三
間違えて第二章十三話だった所を消してしまいました…
書いてまた投稿します。
「オラァッ!」
楓を抜き放ち、首を狙う。
黒き者と呼ばれた男は、手を翳しただけでそれを防いだ。
「防壁かァ? 厄介だなテメェ」
「俺はサイファー。お前、弱いな」
「ンだとコラァ!」
楓を右手に持ち、空いた左手で夜桜を抜く。
「協奏曲・鳳仙花ァッ!」
無数の斬撃がサイファーを刻む。
そのはずが、全て防壁に阻まれた。
「もっと。本気出せよ」
「ざけンなッ!」
一度距離を取る。
「纏え。テメェ等の獲物はあの雑魚だァ。切り裂いて終わりにすンぞ!」
どろりと滲み出た魔力が刀にまとわり付き、薄く刃となった。
「協奏曲・千本櫻」
遠距離からの斬撃。
地を這ってターゲットの足元に到達した瞬間、それは立ち上がる。
うねり、捻れ、圧力と斬撃でターゲットを切り裂く斬撃。
「煩わしい」
軽く、サイファーは手を振った。
たったそれだけ。
だが、それだけで千本櫻は容易く消えた。
「嘘…だろォ」
「弱すぎ。次会う時までには強くなりなよ。……『ワールドエンド』」
黒い、魔力!
「クソッ!」
斬っても消えない。
どんどんまとわり付いてきやがるッ!
黒い魔力は球形になり、刀哉を包む。
「ガッ……アァァァァアァァアァァァアッ!」
「待ってるよ。最果てで」
◇◇◇
体が、痛い。
冷えていく。
……あぁ。
このまま、死ぬのか。
どうせ一度失った命だしな。
……いや。
嫌だ。
まだ、自分が何者か知らない。
……約束も、果たしてない。
でも、……どうする?
「ぐっ……あ? ここ、どこだ?」
「宿だ」
声のする方へ目を向けてみれば、椅子にもたれかかったニキがいた。
「俺ァ……」
「外れの森で倒れていたんだ。なかなか戻ってこないから探しに行って、見付けたのは血だらけのトーヤ殿。さすがの私も焦った」
「他の二人は?」
この部屋にはニキしかいない。
「二人とも、夜明けまでトーヤ殿を看病していて、今は眠ってしまっている。……トーヤ殿、何があったか、話してもらえるな?」
「……あァ。もう、隠せねェな。二人が来てから始めよう」
しばらくして、エレンとイルフが起きてきた。これで、全員。
「そンじゃ、俺のことから話すかァ」
あぐらをかいて、刀哉は話はじめた。
「まず、俺はこの世界の人間じゃねェ」
「「「え」」」
始めっから衝撃。
三人は目を見開いたまま固まっている。
「この世界とは別の世界、その小さな国、日本から来た。屋上から落ちて、死んだ……筈だった。だが、気付いたらこの世界にいた」
「だって、そんな……」
「事実だ。信じられねェならこれを見ろ」
刀哉は今まで目に付けていたカラーコンタクトを外した。
白銀の髪、そして、紅い瞳が顕になる。
「魔力を持ち、異能を持つ異世界の住人……なンかの話と、似てねェか?」
「神話……!」
イルフが話した神話と、類似する所がありすぎる。
最早、疑いようもない。
「誰が俺を召喚したのかはわからねェ。だが、俺は世界に害になる存在……破滅を倒さなきゃならねェみたいだ。それに……まだある」
昨日あったことを思い出し、刀哉は苦々しい顔になった。
「俺と対になる存在、黒き者……サイファーとか言ったなァ。アイツは……強い」「それは……トーヤ殿でもかなわぬ程に、か?」
「俺の有様を見ただろォが」
今のままでは勝てない……。
「それでは、世界はどうなってしまうのでしょう……」
「俺が勝てなきゃ、滅びるなァ」
世界を救うため、は言い過ぎかもしれないが、それでも破滅と黒き者を倒さなければ間違いなく滅びる。
「……ン? そう言えば……」
『君はいずれ、世界を滅ぼせるだけの力を手に入れるだろう』
「いずれ、か……」
あの時の言葉が蘇る。
いずれ、ということは、今は無いということ。
力を見いだすためには……早く、シンに行かなければ。
「ククク……潰す」
「と、トーヤさん?」
怪しい笑みを浮かべた刀哉に慌てるエレン。刀哉の笑みはそれほど黒かった。
「よし、行くぞ」
「はぇ? どこにです?」
突然立ち上がって荷物をまとめ始める刀哉。
「ワコウに行くんだろォ?」
「いや、それはそうなのだが……その傷で無理に動いては!」
ニキも心配して制止するが、聞こえてないかのように準備を進める。
「俺ァ、奴に借りを返さねェとな」
黒い笑みは暫く消えることはなかったという。