第三章 【業喚ぶ声】 一
「さあって……出てきたはいいがよォ」
ギルドの掲示板を見る。
「まるっきり以来がねェじゃねぇか」
先の一件のせいか、依頼がまるでない。
ルノーに行きたいのに、そっち方面の依頼もない。
つまり、陸路で行くしかないのか。
「トーヤさん♪」
「あァ? なんだエレンか。ニキも。わりィな。今忙しいんだ。後にしてくれ」
「えー! 話聞いてくれるって言ってたじゃないですか!」
「あー、わかったわかったよ。ッたく。で、なんだァ?」
近くにあったテーブルに腰かけてエレンの話を聞く。
「私たち、これからルノーに向かう予定なんですよね! で、ですね! もしよかったらトーヤさんも一緒にどうかなーって!」
「……金にならねェ」
「そんなご無体な~!」
立ち去ろうとした瞬間エレンが足にしがみついてくる。
こいつはホントに人間か……?
「実はか弱い乙女がもう一人増えたんですよぅ! ニキちゃんも強いですけど、女三人は心細いんですよぅ!」
「むしろ俺が危ない人間だとは思わねェのかよ?」
「だってトーヤさん優しいじゃないですか!」
満面の笑みを放つエレン。
コイツ……実はバカなのか? いや、バカだったなァ……
「ッチ。わかったよ。どうせ俺もルノーに行く予定だったしなァ」
「ありがとうございます!」
「すみませんトーヤ殿……またご迷惑をおかけします……」
「大丈夫だァ。迷惑被った分は全部コイツに請求すっからよォ」
親指で隣にいるエレンを指す。
厄介の原因はすべてコイツなのだから。
「で、そのか弱い乙女ってのは?」
「あ、もうすぐ来られますよ」
エレンが言った丁度その時、ギルドの扉が開き女性……というよりは女の子が入ってきた。
「げ、エセ修道女……マジかよ」
「あ、イルフちゃーん!」
「エレンさん……あれ、この方は?」
青い髪、青い瞳の修道女。
街で異世界がなんとか~とか言ってた奴だ。
……厄介事の匂いがしやがる……!
「一緒についてきてくれることになったトーヤさんだよ! ッとっても! 強いんだから!」
「そうなんですか? ニキさん」
「あぁ。トーヤ殿はお強い。私では、いや、この世界に住むものでは到底かなわぬ」
「それほどお強いのですね……とや、様?」
「誰がとやだァ? 真田刀哉だ。ルノーまでの間、一緒させてもらう」
本音を言えば、この修道女からは早く離れたい。
嫌な予感しかしない。
「私は、イルフ・ソラシスと申します。何卒よろしくお願します」
◇◇◇
「で、だ」
「なんでしょう?」
「俺の馬がそこにつながれているのはいいとしよう……だがな、……この馬車はなんだァ?」
移動手段としては間違ってない。
なんせ国境を越えなければならないのだから。徒歩ではいったいどれほどかかるか分かったものではない。
そう、間違ってない。……ただ一点を除けば。
「なんで、この馬車にはこんな煌びやかな装飾が付いてんだァ!? ピクニックじゃねェんだぞ!?」
「可愛くないですか?」
「そういう問題じゃねェ!」
こねじゃあ狙ってくださいと言ってるようなもんじゃねェか……
「ほら……さっそくお出ましじゃねェか」
ほぼ真っ直ぐ続いていた道の両脇、その茂みから、小汚い男が何人も。
「……どうすんだァ? 殺していいのか?」
「私としては殺しても問題ないかと……」
「だめだよニキちゃん! かわいそうだよ!」
……訂正。こいつは大馬鹿だったようだ。
「できれば命は殺めぬ方がよろしいかと存じ上げます……」
「ッチ……わかったよ。追い払えばいいんだろォ? 馬車止めろ」
徐々にスピードが落ちて、馬車がゆっくる止まる。
男たちはその間に追いついて、馬車を取り囲んでいた。
「十人、ねェ。テメェら、帰れ」
「金目のものは全て置いていけ」
「……オイオイ、最初っから交渉列缺かよォ。あーあーあーあー! 修道女には殺すなって言われてるしよォ! なァ、どうすりゃいいんだ?」
「なァ」の時点で既に楓と夜桜を引き抜いている。
「《協奏曲・鳳仙花》」
ぱん、という音と共に、男たちの服が弾け飛ぶ。
男の裸など見ても面白くないので、上着だけにした。
「次は皮膚がいいかァ? 肉か? 臓物かァ!?」
「ひっ……う、うわああああああぁぁぁぁぁあああぁあ」
一瞬男たちは戸惑ったような反応をしていたが、一瞬遅れて散り散りに逃げて行った。
「これで満足かァ? イルフさんよ」
「トーヤ様は、本当にお強いのですね……私、びっくりしてしまいました」
その微笑みの下になァに隠してんだか……
「……先、急ぐぞォ」
────面倒な旅になりそうだ。
いや……なんか、厄介な事が起こりそうな……
どうすっかなァ。
少々短くなってしまいましたかね……