第二章 【都の戦火】 十四
「危険、だな……」
一人、王が呟いた。
破滅を退けるほどの大きな力。あの大きな力がこの国に向けられたら。世界に向けられたら。
……どんなことになるか容易に想像がつく。
「何とかしてあの力を味方につけられないものか……いや、そうでなくても、矛先がこの国に向かないようにできれば……」
どうにかして刀哉を味方に引き入れたい。
そうすればこの国はもっと安全に発展していくことができる。
「王、トーヤ様が戻られました」
「通せ」
「は。……ですが、何か落ち込んでいられる様子。どうなさいましょう」
「……落ち込んでいる?」
「は。おそらくトーヤ様は守るべき人が死ぬところを始めて見られたようです。その精神的ショックによるものかと……」
好都合、かも知れないな。
落ち込んでいるという心の隙間に付け入って、この国にとどまらせることができれば、破滅の脅威からも、敵国からの行進も防げるかもしれない。
「わかった。ここに通してくれ」
「は」
兵士が去っていくのを見送った王は、どかりと椅子に腰を下ろした。
「さて、どう言いくるめるかの」
◇◇◇
「トーヤ様、こちらへどうぞ」
「あァ……」
まだ、頭の中でぐるぐる回っている光景。
あの化け物の炎に焼かれる街の罪もない人々。
一度敵と定めた人間ならば、焼かれようが切り刻まれようが構わない。
だが。今回は違う。
あの街で生きている人たちの笑顔が、一瞬で恐怖に変わり、焼かれ、死んでいった。
破滅から、守らなければならなかったのに。
破滅は逃げた。だが、その爪痕はまだ残っている。周りにいる兵たちは、俺のことを勇者だとか、奇跡の人だとかいうが、そんなんじゃない。
守ることのできない、ただの弱者だ。
「どうぞ、王がお待ちです」
「……」
ゆっくりと扉が開く。
王は椅子に座ってこちらを見据えていた。
「このたびは本当に申し訳なかった。そして……ありがとう。君のおかげで、街の被害は小さく、多くの民が助かった」
「俺は……助けられなかったンだ。世辞なんかいいからよ。罵倒してくれていいンだぜ」
「そうは行かない。君はあの破滅を退けた。ひとたび現れれば国を三つ滅ぼすと言われるあの破滅を。それを退けた君を、どうして罵倒できよう?」
「確かに退けたかもしれねェ。だが、人が一人でも死んだらよォ……守ったことにはならなねんだよ」
「……そうか。だがね。街の民はそうは思っていないようだよ」
「何?」
「見てみるといい」
王は窓を指差して笑った。
その窓に近寄って、外を見てみる。
「なッ……」
そこにあったのは、城を取り囲む人、人、人。
その顔には笑顔が浮かび、口々に刀哉の名を叫んでいた。
「どうだね。これこそ、君の守ったものだよ」
「なァ……」
「何だね」
「……俺ァ、間違ってなかったのか? 守れてたのか?」
「……あぁ。もちろんだ。それとも、民に聞いてみるかい?」
窓を顎で指し、微笑む。
「いいや……そンなことしなくても、もうわかってる」
「そうか。なら、よかった……君の、守った街だ。もしよかったら、もう少しこの街に……」
「悪ィ。それはできねェ。やらなくちゃならねェことがあるからよ」
「……そうか。残念だ」
「けど、あンたらに危険が迫ったら、助けに行くよ。世話ンなったからな」
そういって、微笑んだ。