第二章 【都の戦火】 十二
「……朝かァ」
差し込んできた太陽の光で目が覚めた。今日は昼に刀を取りに行ってそのまま国を出る予定だ。
起き上がって棚に置かれた服を着る。この世界に来たときから着ていた服。
「コレが一番落ち着くなァ」
貰った刀は昨日の内に分解して整備をした。銘は夜桜。刀匠はメイヤ。ヒザキとはまた違う刀匠なのだろう。
それを専用のベルト(刀用のホルスター)に差して身に付ける。
「金もそこそこあるしもう一つホルスター作っとくかァ」
着替えをすべて終え、部屋の扉を開けた。
両側の兵士に挨拶をして、城の中を歩く。
時間で言えば8時位だろうか。城の中を歩く兵士の姿もどことなく多い気がする。
「そういやメシどうするかァ……昨日は逃げちまったから城でメシ食ってねェんだよなァ」
もしかしたら部屋まで呼びに来てくれるのだろうか。
もしそうだとしたら部屋から出て来たのはまずかったんじゃ……。
いざとなれば外で食べてもいいのだが、最後だし国王とかセルティ、ラディーナにも会っておきたい。
「……あっこの兵士に聞くかァ」
戻ってドアの前にいた兵士に訪ねる。
「なァ、俺メシどうしたらいいんだァ?」
「は、しばらくお待ちいただければ使用人が迎えに来るはずです」
やはり迎えが来るらしい。下手に出歩いてメシ時を逃さないで良かった。
部屋の中で再度必要な物を確認しながら使用人を待つ。
「しっかりした貨幣袋も必要だなァ……ホルスターに金貨一枚まで……貨幣袋には銀貨一枚で釣りが来るかな。あと外套と……帽子かァ。フード付きの外套でもいいな。これに銀貨一枚と銅貨数枚かァ? 後は携帯食料と水か。水筒はあるから問題ねェな」
買わなければならない物を次々記憶の中に留めていく。
確認している時、刀哉に声がかけられる。
「トーヤ様、食事の用意が出来ました。ご案内いたしますのでこちらへどうぞ」
「あァ、ありがとう」
使用人に従って歩く。やはり城は広い。どこをどう歩いているのかさっぱりわからない。
「こちらです」
案内されるがままに、扉をくぐる。気付けば昨日食事した部屋だった。
「おはようトーヤ君。ゆっくり休めたかね?」
「えェお陰様で。それにしても城の中複雑ですよねェ」
「あぁ、それは外敵から身を守るためだよ。初見ではまず把握できない仕組みだし、いろんな仕掛けもある。なかなか凄い城だろう?」
確かに凄い城だ。
技術レベルは相当高いのだろうか。これもきっとファンタジーの成せる技。
「さ、食事にしよう」
「あれ、セルティは来ないンすか?」
席に着いているのは国王と刀哉のみ。とても寂しい事になっている。
「はは、セルティは朝が弱いのだよ。もう一時間程しないと起きてこない」
「そうなンすか。あ、俺昼には出発する予定なンで」
「早いのだな。ところでどこに行くつもりかな?」
後で会いに行けばいいかと思い、食事につく二人。
「シンに行こうと思ってます」
「忌み人の国か。何故そんな所に?」
「そこに行けば……俺の捜してるモンがある気がするンですよ」
「なるほどな……聞いても教えてくれなさそうだな?」
「……そっすね」
こんな所で理由を話そうものなら何をされるか分からない。
反応からしてシンを……いや、魔族を嫌っているのがありありと見て取れる。コンタクトをしているからいいものの、赤い目のままここに来ていたらどうなっていた事か。
「ならば聞かん。それで、今日は昼までどうするつもりかな?」
「街に降りて旅の準備をしようかと思ってねェ」
刀も取りに行かなきゃならないし。
「なるほど。金は大丈夫なのかね?」
「えェ、問題ないっすよォ」
答え終わった所で食事を終える。
「ご馳走様。それじゃ、街へ出ますわ」
「あぁ、これを持って行きたまえ」
そういって差し出された国王の手には一枚のプレートが握られていた。
「これは?」
「これは王城へ入るための許可証だ。もう一度帰ってくるだろう?」
「あァ、なるほどォ……スイマセンねェ」
「いや、気にするな。昼はどうするかね?」
また兵士に止められるのは勘弁願いたい。
「それじゃァ、それまでに戻ってくるンで。行ってきます」
返事を返して扉をくぐる。
朝少し歩いた時よりも人の数は多く、窓から見える訓練所では多くの兵士が鍛錬に勤しんでいた。
道行く兵士に、城の出口を聞いてようやく辿り着く。
掘の桟橋にある屯所の兵士に国王から貰ったプレートを見せて、やっと街並みに入ることができた。
「さて……先ずは一辺刀を見に行ってみるかァ」
もしかしたらできあがっているかもしれないという淡い期待を抱きつつ、頼んだ武器屋に足を運ぶ。
「どーもォ」
「あぁ、いらっしゃい。刀かい?」
「あァ。時間よりちょっと早ェんだが、出来上がってたら、と思ってよォ」
「そうか。うん、出来てるよ。おーい! 親父!」
武器屋の青年ーーレイが奥の暖簾に向かって声を張る。そしてすぐに、初老の男性が顔を出す。
「何かあったか……あぁ、刀を取りに来たんじゃな。ちょいと待っておれ」
武器屋の親父はすぐに状況を判断すると、また奥に引っ込んでしまった。
そして何か物音が聞こえたかと思えば、再び暖簾をくぐって親父が出て来た。手には一振りの刀ーー楓を持っている。
「ほれ、出来上がったぞ。一応確認してみるといい」
「あァ」
親父から楓を受け取って、鯉口を切る。
引き抜いた楓には何の違和感もなく、あっさり抜けた。刀身には、変わらぬ緩やかな乱れ刀。変わっているのは僅かに青みがかっている所だけだろうか。
「最上の魔力加工もした。試してみとくれ」
刀哉は言われた通りに魔力を込める。あの時よりも強く、大量に。
「纏え、轟火」
言葉を紡いだ瞬間、ボッと炎が吹き出て、店内を膨大な光で照らす。
白銀の輝きを放ちながら燃え盛る炎。凄まじい熱量が顔の皮膚を撫でた。
ーー確かに、魔力加工は相当な物のようだ。
刀を溶かす勢いで魔法を付加したのに、全く変わった様子がない。流石、と言ったところか。
刀哉は満足して、炎を解除、楓を鞘にしまった。
「文句なしの出来映えだァ。ありがとよ。これ、残りの金貨」
袋から金貨五枚を出してカウンターに置いた。
支払いを終えて店を出ようとしたが、親父に呼び止められる。
「待て待て、これを持って行かんか」
そう言ってカウンターの下から出したのは、大きめのベルト。ポーチのようなものも付いている。
「こりゃァ……刀のホルスターかァ? これは頼んでねェだろ?」
「サービスじゃよ。久々に大口ねお客だからの。贔屓にしとくれよ?」
「悪ィな。ありがたく受け取らせて貰うぜェ」
ホルスターを腰に巻いて、夜桜とクロスするように楓を差した。
「久々に刀を見せてもらった礼のようなものじゃ。お主の旅に幸あらんことを」
出て行く間際、聞こえてきた言葉。その言葉に刀哉は心の中で言葉を返した。
◇◇◇
「後は……特にねェな」
外套や新しい荷物袋、その他道具を買い終えて一息付いた。
残金はまだ金貨十五枚残っている。この先まだ困りはしないだろう。ちなみに貨幣はホルスターに付いていたポーチに収納してある。
「向かうは西の海のシン……だがそこに行くには海路が必要だよなァ……しかも一番近い国がザカと来た。出来れば通りたくねェんだけど……」
どうするか、と頭をひねる。
そもそもシンまで船があるかも分からない。閉鎖的な国に誰が好き好んで船を出すのか。
「……ン? 待てよォ? ザカに行かなきゃならねェのは地図上の話であって、東のワコウから更に東に行きゃァ、シンに着くンじゃねェか?」
となれば次に目指すのはルノー。海路に関してはワコウに至ってから考えればいい。ワコウは中立とは言え、完全な閉鎖国家では無いはず。定期便くらい出ているだろう。
「よし、決まりィ。ついでにルノーまでの依頼があったら受けてみるかァ?」
そうなれば善は急げ。
刀哉はすぐさまギルドへ向かう。
ギルドの受付嬢に、聞いてみればボードを見ろとのこと。ちなみに昨日の依頼でランクがCになった。パーティー単位での依頼だったと言うことでさほど上がらなかったが。
「……ン? パーティー募集? 行き先はみんなで決めましょう? 仲良しクラブかっつーの」
「し、失礼な! ちゃんとしたパーティーですよ!」
後ろから突然叫ばれて、一瞬心臓が飛び跳ねる。
「エレンかよォ。で? コレお前が貼ったの?」
「そうです。やっぱりもう1人くらいいたほうが楽しいじゃないですか」
「やっぱり仲良しクラブじゃねェか……」
呆れたように呟く。
「違いますって! それで、トーヤさん、うちに入りません?」
「……話聞くだけ聞いてやるよ。後でまたギルド来るからそン時に話してくれ」
「はい! ちゃんと来て下さいね!」
出口に向かって歩く刀哉にエレンが叫ぶ。刀哉はひらひら手を振って返した。
「さて……そろそろ昼だから戻るかなァ」
国王との食事もあるし、と思い、城に戻る。
街は食事を求める人間で溢れていて歩きにくかった。
「は、どうぞお通りください」
兵士に例のプレートを見せて、城の中に入る。しかし、やっぱりというか場所が分からず近くを通りかかったラディーナに案内してもらった。
「ふっ、この城は使えている人間しか理解することが出来ない。トーヤのような外部からの人間が一日で覚えようと言う方が無理なんだよ」
「どことなくバカにしてねェか?」
「してないが? ……お、ここだ。失礼します! 近衛騎士ラディーナ・ニコラス、トーヤ・サナダ様を案内して参りました!」
「いちおー様付けなンだな」
「……一応、だ」
しばらくして扉が開く。
「待っていたぞトーヤ君。ラディーナ君、ご苦労。君も一緒に食事を取るかね?」
「は、私は職務中ですので……」
「国王がいいっつってンだ。一緒に食おうぜェ?」
ラディーナは断りを入れようとするが刀哉によって阻まれ、そして強制的に席に着かされてしまう。
「無理やり過ぎるぞ……」
「優しくエスコートしたほうが良かったかァ?」
「ば、バカ言うな! ……でも、それもいいな……」
一蹴されてしまった。後半に何か言っていたようだが良く聞き取れず、聞き返す前に食事が始まった。
「トーヤさん、昨日はどちらに行ってらしたんですか? 探したんですよ?」
「それは悪ィ事したな。ちょっとギルドで仕事しててよォ」
恥ずかしくて逃げ出したとは言えない。そこは人間としての尊厳がかかってるので。
他愛もない雑談。
自分の都合で出て行くとは言え、この面子に会えなくなるのは少々寂しかったりする。
(傲慢、だよなァ)
あれも欲しい、これも欲しいとねだる子供のよう。
何かを手に入れる為には何かを諦めなければならない。当たり前のこと。
「ところでトーヤ君はーーっ!? 何事だ!」
「っ!?」
どん、と爆発音。次いで揺れる城。ーーそして慌ただしくなる城内。
「ば、化け物……」
「馬鹿な……あいつは……滅んだ筈だ……」
兵士がパニックに陥る。
「ほ、報告します! アレがーー破滅が現れましたっ! 翼を城に掠めて、現在街の西部、入り口付近に降り立ちました!」
化け物。
滅んだ存在。
破滅と呼ばれるモノ。
それが何か見極めるために、刀哉は走り出していた。
きっと自分とは無関係じゃない。
ーーそんな気がしたから。
また一つ、歯車が動き出すーー
よしゃ、なんとか更新。
やっと本題の冒頭にありついた。
こっからですね。がんばります。
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