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white:white  作者: もい
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第二章 【都の戦火】 十一




 ーー襲い掛かる轟腕と爪。


 エレンは思わず目を瞑ってしまったが、いつまでたっても衝撃は来ない。

 恐る恐る目を開いてみると、そこにはーー


 「なンだよ、これくらい壊せよ」


 ーー白銀の髪を風に靡かせた男が、怠そうに立っていた。

 ワイバーンの爪を止めたのは、薄いグレーの膜。揺らぎ、それでいて圧倒的な強度を保つ、綺麗なカーテン。

 魔法の使えないエレンにはそれが何か分からなかった。が、一拍置いて気付く。ーーこれは魔法だ、と。


 「エレン、ニキ、下がってろ。血が飛ぶからなァ」


 二人はその言葉に反応して即座に距離を取る。出来るだけ遠くへ。しかし、刀哉を視界に収めることができる遠さへ。


 「防御したはいいが……一体どうする気だ……?」


 魔術師は本来後衛である。それは魔法という物が殆ど支援に使用されるから、という理由もあるが、最大の理由は詠唱に時間がかかるからである。

 詠唱するときはどんな魔術師であろうと無防備。言葉を唱えるのもそうだが、魔法を使うのには集中力が必要なのだ。故に、強化魔法を使う戦士でもなければ前衛に出ることは有り得ない。


 しかし、そのニキの考えは一瞬で覆される。


 「来い、灼熱」


 轟、と異常なまでの熱が吹き荒れる。

 ニキはその熱に思わず身構えた。肌を焦がすような風。目を開けていられない程だ。

 その高温の炎の行き先はーーワイバーン。

 白く燃え盛る炎は、たちまちワイバーンを包み込んで焼き尽くそうとする。だが……


 「へェ……あの温度で表皮を焦がしただけかよォ。もしかして炎に強ェとか?」


 竜種というのは、総じて炎に強い。属性を持つのは龍種だけで、竜種には属性は存在しないのだ。竜種は殆どが体内に発火器官を持っており、自らの炎に耐えられるよう表皮も炎に強い。


 「ま、いいかァ。魔力で直接やればいい話だ」

 「ガァァァアァァァアッ」


 ワイバーンが吠えて、空気を揺らす。だが、その衝撃は刀哉に届かない。魔力の壁が阻んでいるのだ。


 「縫い付けろ」


 魔力の壁を崩さないまま、新しい魔力がどろりと滲み出る。それは剣のような、杭のような形を四つ形作り、一斉にワイバーンへと向かう。


 「ガッ……ギャァァァアァァッ!」


 魔力の杭はワイバーンの翼と足を地面に繋ぎ身動きの取れぬようにした。


 「クク……」


 手足に刺さった杭を引き抜こうともがくが、杭は微動だににしない。ただ傷から血が溢れるばかり。


 「一体……トーヤ殿は何者なんだ……」

 「凄い……あれが、魔法ですか……?」


 驚愕に目を開く二人。

 一人は詠唱めしないで魔法を放ったことに驚き、もう一人は圧倒的な威力に驚く。


 「さてと……もう暫く遊んでもいいけどよォ……まァ、待ってる奴も居るからなァ、終わりにさせてもらうぜェ?」


 すぅ、と魔力壁が消え、刀哉はワイバーンと対峙する。

 刀哉は右手を伸ばし、魔力を腕に這わせた。


 「楓に比べれば使い易さは格段に下がるが……オマエにはこれで十分だろォ」


 右手に握られた、黒い刀。全てが魔力で構成された力の塊。


 「……一閃」


 ひゅ、と微かに風邪を裂く音。

 次いで刀が砕ける。

 散った魔力は空気に溶けて霧散した。


 びちゃっ


 「呆気ねェなァ」


 ワイバーンの首が落ちて、体から力が失われ地に落ちる。

 とめどなく流れる血。血の川が出来上がった。


 「ば、馬鹿な……本当に、倒してしまった……」

 「一人で倒すなんて……トーヤさん、凄い」


 後ろで感嘆の声があがる。一人でワイバーンを倒すのは普通Bランクなのが普通なのだが、刀哉は一人で、余裕たっぷりで倒してしまった。


 「ギルドランクと実力は同じとは限らない……トーヤ殿は身を以て私に教えてくれたのだな。済まなかった。私が間違っていた」

 「あァ。それよりとっとと殲滅部位剥ごう。どこだっけェ?」


 (まったく……底が知れない男だ……いや、底が知れないどころじゃないな。私はまだ彼の一部分しか見ていないのだから)


 まだまだ刀哉には隠された何かがある。それに、まだ刀を持って戦った所を見ていない。あの黒い刀もそうと言えばそうなのだが、何かが違う気がした。


 「あ! 終わったみたいですよ! 次は鉱山ですね!」


 殲滅部位を入れた袋を担いで刀哉が戻ってきた。


 「さァ、日が落ちねェ内に片付けちまおうか」


 返答も待たずに一人洞窟に突き進んでいく。




 「本当に……トーヤ殿は何者なのだ……?」


 ニキは呟くが、その答えが返ってくる事は無かった。











◇◇◇










 「ンじゃァ、これで依頼完了だな?」

 「はい。ワイバーンの殲滅部位、鉱山の経路、ともに確認できました。こちら、報酬の金貨三十枚になります。お確かめ下さい」


 その後無事に鉱山の調査を終えて、三人はギルドに帰ってきていた。空は既に赤く染まり、夕方独特の生温い風が緩やかに吹いている。

 依頼を完遂したことを受付嬢に報告して、報酬を受け取った。


 「約束通り十六枚、貰ってくぜェ?」

 「あ、はい! えと、今日はありがとうございました!」


 九十度を越える一礼。

 近くにあった机に額を打ち付けないか一瞬冷や汗が出た。


 「約束通り、これでお別れだな……トーヤ殿、またどこかで会った時は声を掛けてくれ。こんな私でも何か力になれることがあるだろう」

 「ま、そん時は頼むぜェ。それじゃァな」


 金貨を袋の中に詰めて、ギルドを出る。

 夕暮れに染まる街並みは、どこか寂しくもあったが、それでいて活気がある不思議な光景だった。


 「……仕方ねェ、城に行くかァ」


 さすがにそろそろマズいだろう。結果的に丸々一日行方を眩ませていた事になる。あの姫様が大騒ぎしていそうなーーそんな気がした。


 「もーちょい早く帰れば良かったかなァ……」


 過ぎたことを後悔しても遅いのだが、そう思わずには居られない刀哉であった。










 やはり、というかなんと言うか。

 城は大騒ぎである。


 曰わく、

 娘の恩人がさらわれた、とか

 婿候補がさらわれた、とか

 実は敵国のスパイだったのでは? とか

 果ては夢だったのでは、と言う奴まで出てくる始末。


 「何一つマトモなのがねー」


 現在、城門で兵士に止められ、怪しい人間でないことを主張している真っ最中。で、たった今国王に伝令が飛んだ。


 「トーヤくぅぅぅぅん!」


 国王が……いや、訂正。

 むさ苦しいオッサンがこっちに向かって走ってくる。両手を広げて。

 飛び込んでこいってことですね、わかります。


 「だが断る」


 ぶつかる直前に体を僅かにずらして、オッサンの突撃を避ける。


 「ぶるぁっ」


 近くにあった資材の山に頭から突っ込むオッサン……もとい、国王。

 体が半分だけ出でる。あの様子ならなんとか生きてるんじゃないかな、とか思った。


 「大丈夫っすかァ?」

 「当然だ。国王たる者、この程度では怯まない」


 せめてそのセリフは頭から盛大に流れる血を拭いてから言ってほしかった。


 「ところでどうして朝から姿が見えなかったのかね? 娘が心配していたよ」


 アンタ程じゃ無いだろうよ。


 「いや、ちょっと路銀に乏しかったので稼いで来たんですよォ」

 「それなら私に言ってくれれば……」

 「いやいや、そこまで甘えるわけには行きませんからねェ」


 実際のところ、借りを作りたくないだけだった。刀の件はセルティを助けた対価故に、チャラだが、それ以上はマズい。

 必要以上に受け取ると、この国に縛られることになる。それは何としてでも避けたかった。


 「そうか……あ、それよりも刀が届いているよ!」


 最初感じた威厳は何処へやら。走って城へ向かう国王を見て、この人も大概変な人だと刀哉は思う。


 「ほら早く早く!」

 「あ、はい……」


 国王に急かされて共に城へ入った。





 玉座の間に連れて来られて、刀哉は国王を待つ。国王は刀を取ってくると言って何処かへ行ってしまったのだ。


 「国王自ら取りに行くとか……なんかもう威厳ゼロだなァ」


 今はもう、ただのフランクなオジサンにしか見えない。


 「あったあった。さ、見てくれ」


 刀袋を持って国王が帰ってきた。太刀にしては少々短い気もする。


 「中々刀自体が出回ってなくてな……太刀とは言えないが、とてもいい作品だとか」


 刀を受け取り、袋から出す。

 見た目は黒石目のような造りだが、脇差しより僅かに長い刀であった。

 鯉口を切って刀を引き抜く。直刃の刃紋。刀身全てが艶消しの黒に塗られた刀。よく見なければ刃紋も見えない。


 「……ありがとうございます。大切に使わせて貰いますよォ」

 「礼など不要だ。娘の命に比べたら安い物だよ」


 国王というだけあって、やはり太っ腹である。こんな王だからこそ、こんないい国になったのではないか……刀哉は純粋にそう思った。


 「こんなにお世話になったのに申し訳ないンすけど……明日には国を出ようかと思います」

 「? 何故だ?」

 「目的があって旅をしているので……長く留まることはできないンで」


 あくまで目的はシンに行くこと。ここにいればいい生活が出来るだろうが……それはダメだと思っていた。自分が何者で、どうしてここに来たのか知るまでは、ゆっくりなどしていられない。


 「そうか……わかった。引き留めることは出来ないようだな。だが……いつか戻ってきてくれ。セルティが君を気に入っているようだからな。セルティに言ったら引き留めるだろうから言わないでおくよ」

 「なにからなにまでお世話ンなります……」


 旅が終わったら、また戻ってきたい。そう思った。

 ルクの村のみんなを連れて、ここに住むのもいいかもしれない。


 「そォいえば、ザカ軍はどうなったンすか?」

 「あぁ、それなら撤退したようだ。総攻撃ならたまらないのだが、いつもの小競り合いの延長線みたいなものだったよ」

 「なるほど……」


 内心ホッとする。置いてきたエリーやシラフィが気がかりだったから。


 「さ、食事にしようか。少しだけ盛大に、ね?」


 国王が使用人を呼んで、食事の準備を始める。

 国王を初めとして、セルティや他の大臣、何故かラディーナも一緒に席に着く。


 ドンチャン騒ぎとまでは行かないが、それなりに賑やかな晩餐会になった。









 そうして夜は更けていく。


今回は難産でした。

少々納得行かないところもあったり…

お待たせした割りには内容の濃くない話でごめんなさい。

がんばって楽しくも感動できる小説にしたいと思います。



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