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white:white  作者: もい
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第一章 【慟哭の空】 一

ゆっくりな更新の癖して、話が進むのも遅いです。




 「ココ、かァ?」

 「はい! ここがルクの村です!」


 森を抜けた先に見えたのは、現代ではもう過去の遺物であろう、藁葺わらぶきの家が立ち並ぶ、小さな村。村の周りには獣除けか、木の囲いがある。しかし、それも所々壊れていたり、歪な形を成していたりした。


 「まァ、仕方ねェな。エリー、この村で一番地理に詳しいのは誰だ?」

 「村長さんだと思います。あちらの大きな家に住んでらっしゃるんですよ」


 エリーの指差した方向に目を向けると、確かに周りの家より一回り大きい家が建っていた。その外見は他の例に漏れず藁葺きの家だ。村人から高い税を徴収して私腹を肥やす強欲村長……という訳ではなさそうである。


 (しかし……まさかマジで異世界かよォ。このままこっちにいてもいいんだが……一応帰る方法は探さねェとなァ)


 刀哉はエリーと視線を合わせるようにしゃがむ。


 「ここまでありがとなァ。俺はすぐ行くか、しばらくここにいるかも知れねェが、なンかあった時はまた頼むぜ。オマエもなンかあったら俺を呼べよ」

 「は、はい! 無事に街に行けるといいですね! 頑張って下さい!」

 「あァ。じゃァ俺は村長のトコ行ってくるわ。またなァ」

 「はい! お気をつけて!」


 エリーの声を背中にで受けながら、村長の家の方向に歩く。


 (そういやァ、人とマトモに話したの、久しぶりじゃねェか? ……たまには、悪くねェかもなァ。さて、とりあえず村長とやらに話聞くかァ)


 村長の家と思われる家の近くまで来た。周りの家と比べると、作りがしっかりしている。

 簡単に言ってしまえば、藁葺きなのは変わらないが、民家は壁が木材。村長の家はレンガで作られているという違い。


 「現代に比べると、やっぱ劣るって訳かァ……オーイ、村長サンいるかァ?」


 扉を叩いて村長を呼ぶ。余程耄碌もうろくしていない限り、聞こえたハズだ。


 「はい? どちらさん?」

 「……あァ?」


 出てきたのは、女性。若い。まだ二十代と思われる容姿をしている。使用人か何かだろうか。


 「あー…村長サンいるかァ?」

 「村長は私だけど」

 「……冗談だろォ」

 「いやいや、いきなり失礼だね君も。冗談なんかじゃないよ。私が村長に就任したのはつい最近。前の村長、老衰で死んじゃってさ。それで私が継いだってわけ」


 (なんてこッたァ……若い奴じゃ知識なんてないんじゃねェのか?)


 いや待て、この村に紙媒体の情報があればいいんだ。そうすれば街までの道くらい分かるだろう。


 「ちょっと聞きてェんだが……街に行く方法ってあるかァ?」

 「街に行きたいんだ? タイミングいいね。ちょうど一週間後にストレの街から商人が来るんだ。それに同乗させてもらってストレに行くといい。ただお金はかかるけどね?」

 「金かァ……残念ながら俺ァ文無しなんだよ。タダで行けねェか?」

 「そんなうまい話は無いよ。だけど……そうだね、護衛とかならタダでいいんじゃないかな」


 なるほど、護衛か。

 幸いそっち方面の心得がある。全く問題ない……いや、一つあるな。


 (武術でもある程度いけるンだが……流石に得物が無いとキツいんじゃねェか?)


 願わくば刀が一番いいのだが……無ければ適当な物を持てばいい。


 「まァ、とりあえず一週間は暇なわけだなァ……村長サン、一週間三食付きで泊めてくれ」

 「働かざる者食うべからず、だよ」

 「この世界でその言葉聞くことになるとはなァ……じゃあ、刀ってねェか?」

 「刀……? 東国のアレかい? 流石にないんじゃ……いや、ちょっと待ってて」


 村長は言うやいなや、奥の方に行ってしまった。何か心当たりがあったのだろう。

 しばらく待った。村長は埃だらけになりながら、長い袋を持って出てきた。あれはーー刀袋か。どうやら刀があったようだ。


 「随分古いものだけどあったよ。コレ、どうするんだい?」

 「しばらく貸してくれ。見たところこの村、なンかの被害にあってんだろォ? 俺が用心棒でもやってやるよ。なァに、腕はそこそこ立つから心配すンな」

 「そうだなぁ……じゃあ任せようかな。しかし住むところは自分で何とかしてくれ。暮らしていける分のお金は私が出そう。私が出来るのはここまでだよ」


 刀を受け取った。竹刀や木刀とは違う、ずっしりとした重さ。命を奪うことができる武器。


 「仕方ねェな。とりあえずは仕事の内容だァ。基本的には村の見回り、害あるモノが現れたら殺せばいいンだな?」

 「あぁ。農作物の被害は主に魔物の仕業だよ。基本的に現れるのはゴブリンだけど、群れで来る場合もあるから気をつけること。じゃ、任せたよ」

 「あァ、りょーかい」


 刀を腰のベルトに差す。一度鯉口を切って抜刀。太刀筋がブレない。相当の業物のようだ。


 (しっかし……魔物なンているんだなァ。流石ファンタジー。侮れねェ)


 刀哉は改めて自分が異世界に飛ばされたことを認識した。だが、同時に疑問も浮かんでくる。


 (なンで俺は異世界なンざに飛ばされたンだ? ただ屋上から落ちただけじゃねェか。普通は死ぬはずなのに……あー、訳わかンねェ)


 いつも使ってない頭を総動員したところで答えなど浮かんでくるはずもない。

 とりあえず今は仕事をするという事だけ考えて歩いていく。


 村の入り口にある井戸の近くまで来ると、見たことのある赤い頭が見えた。


 「よォ、エリー。俺ァ一週間程度ここにいるからよォ。なンかあったら教えてくれ。……あァ、あとこの村の用心棒として働くからなんかあったら言ってくれよ」

 「そうなんですか! じゃあ、しばらくの間お願いしますね! ……あ、住むところは決まりました?」

 「それがなァ、仕事は村長サンから貰ったンだが、住むところまでは貰えなくてよォ。仕事終わったら探そうと思ったンだよ」

 「あの……もし良かったらうちに来ませんか……?」

 「……オマエの家に泊まっていいっつー事かァ?」

 「はい!」


 まさに渡りに船。ありがたい限りだ。しかし……親とか大丈夫なのだろうか。


 「ありがてェんだけどよ……親御さんの許可とかあンのかよ? 見ず知らずの赤の他人がいきなり泊まるっつって許してもらえるとは思えねェんだけどなァ」

 「十中八九大丈夫です! けど、一応聞いてみますね! お仕事、いつに終わりますか?」

 「この村は夜間の明かりがねェみたいだからなァ……日暮れと同時に終わらせるつもりだ」

 「あ、じゃあ終わったらまたこの井戸まできてください! 私の家まで連れてきます!」

 「お、おォ……頼むぜ」


 エリーは一度大きく頷くと走り去ってしまった。何だか物事が順調に進みすぎている。

 しかし、これで一週間分の仕事と住処を得ることができた。なんとか野垂れ死には避けることが出来たようだ。


 「さァて、見回りにでも行ってくるかァ」


 異世界に飛ばされて動揺していた心も、少しは落ち着きを取り戻した。例え元の世界に戻れなかったとしても、この世界の方で暮らしていくことができるーーそう思った。







◇◇◇







 「もォ日暮れかァ。特に何もなかったなァ……まァいきなり何か起こるなンて思ってねェけどなァ」


 沈んでもう見えない太陽。赤い空を見ながら刀哉は呟いた。

 今日はこれといって被害は何もなく、平和に終わった。


 「さァて、村長サンに報告でもすっかァ」


 一日の仕事を終えた事を村長に報告するために、彼女の家に向かう。幸い、この村はそう大きくなく、村長の家までそう距離もない。


 「オーイ、村長サン。いるかァ?」

 「ん、誰かな? あぁ、君か」


 村長が扉を開けて刀哉の顔を見た。


 「とりあえず日暮れだしよォ。一応報告に来たぜ。まァ何も無かったンだけどなァ」

 「そっか。うん。ご苦労様。……そういえば君の名前を聞いていなかったね?」

 「あァ、そうだったなァ。俺ァ真田刀哉っつーンだ」

 「サナダ、トーヤね。私はシラフィ・トーレストっていうんだ」

 「シラフィ、な。あァ、ちなみに刀哉が名前だからなァ。真田は性だ」

 「ほう……珍しいね? どこの出身だい?」

 「日本っつーンだが……ここにはねェよなァ」

 「ニホン……知らないなぁ。どこにあるんだい?」

 「……異世界、だろうなァ。話すと長くなるから話さねェが、気付いたらここにいたンだよ。とりあえず帰る方法探さねェとなァ」


 なんの躊躇いもなく、自分が異世界の住人だと言うことを話す。この村長なら特に気にしないだろうと思ったのだ。


 「へぇ。異世界とはね……まさかそんなものがあるとは。となるとどういった現象なのかな? 服装を見る限りこの世界より文明が進んでそうだけど……」

 「あァ、ここの世界よりは進んでると思うけどなァ……っと、俺ァそろそろ行かなきゃ行けねェな。また明日だァ」


 刀哉は窓の外がもう暗くなっていることに気付いて慌てた。もうエリーは井戸にいるだろう。


 「おや、住むところが見つかったのかい?」

 「そんなとこだなァ。じゃあな」


 村長の家を出てすぐ井戸に向かう。井戸の近くに人影。おそらくあれがエリーだろう。


 「待たせたなァ」

 「あ、トーヤさん。お仕事お疲れ様です」

 「まァ、疲れたってほど仕事してねェんだけどよ。じゃ、まァ、早速案内してくれっかァ?」

 「はい! こっちです!」


 エリーが進んでいくのに倣い、刀哉もそれについていく。

 この世界に来てから、自分がだんだん変わっていくのを感じる。


 今まで、誰か人と言葉を交わすのはほとんど無かった。あったとしても、その後には必ず喧嘩。会話は喧嘩する前の前座のような物だった。

 たった数時間いるだけなのに、何故こうも変わってしまったのかーー刀哉には分からない。


 ただ、一つだけ分かることがあった。


 (この世界は……元の世界より、居心地がいいのかもしれねェなァ)


 郷愁の念は刀哉にはない。

 この先、この世界に居続けた方が自分のためにもなるのではないかーーそんなことを思い始めていた。











 そう、選択は自分で出来るのだ。


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