第二章 【都の戦火】 十
「言っとくけど、俺にも予定があるンだ。依頼を受ける条件は、今日1日で出来ること。それから、俺の取り分が金貨四枚以上であること。これが守れないなら依頼は受けねェ」
「う……それは仕方がないですね……」
食事の支払いを終えて、ギルドへ向かう二人。今までパートナーを組んでいたもう1人の仲間は、もうギルドにいるらしい。
「ところで……もう1人のランクは?」
「ニキちゃんは凄いんですよー。なんと! ランクCです! 私と同じ年なのにですよ?」
それはただ単にエレンが弱いだけなんじゃないのかーーそう思ったが、間違いなく落ち込むので口には出さないでおいた。
しかし、ランクCということは自分より一段上。ラディーナと同じくらいの強さだろうか。
「で? 受ける依頼の目星は付いてンのか?」
「はい。パーティー限定依頼で、鉱山の調査兼、ワイバーンの討伐というのがありまして。ランクはB−。報酬は……忘れちゃいました」
「弱ェオツムだなァ……まァいいや。どうせギルドで確認するンだしよ」
ワイバーンの討伐はどうでもいいとして、問題は鉱山の調査だ。エレンはすぐ近くと言っていたが、登り下りもあるから時間を取るだろう。
となれば、今日受けられる最終の依頼がコレになる。いつこの国を出るかはまだ決めてないが、そう長く滞在もできない。
「最低でも十万は欲しいなァ……」
今持ってるだけで七万ちょっと。刀の加工に五万の出費だから、あと八万。
「明日1日やれば貯まるかァ」
「あ、ホラ、居ましたよ! ニキちゃーんっ」
往来の真ん中でぶんぶん手を振るエレン。恥ずかしい。
それに気付いて1人こちらに向かって来るのが見えた。
腰まで伸びる黒い髪。真っ白で眩しいくらいの白い肌。髪と同じ黒い瞳。
そしてーー腰に下げた。一振りの野太刀。
まるで、日本人のようだった。もしかすると東のワコウとやらの生まれか。
服装もどことなく袴に似ている。色は上下で深い藍色だが。
「エレン……そちらの方は?」
「この人はねー、一緒にパーティー組んでくれる人!」
「一回だけな。報酬の取り分にも寄るしよォ」
余りにも説明が酷い。色々大切な部分が抜け落ちていた。
「なるほど……私はニキ。ニキ・ヒザキだ。よろしく」
「トーヤ・サナダ。よろしくなァ……って、ん? ヒザキ?」
どこかで聞いた名だ。
一体どこでだったか。
あれはたしか、ルクの村ーー?
「ヒザキ……刀匠か」
「む? 私の祖父を知っているのか?」
「いや……俺の刀にな。ヒザキって銘が入ってたンだ」
そうだ。刀の整備をしたあの時。確かにヒザキと入っていた。
「刀の名は?」
「朱塗りの緩やかな乱れ刃……楓って刀だァ」
「……間違いないな。それは祖父の作。それも、大業物だ。しかし……刀を持ってないようだが、どこに?」
出来過ぎた偶然。
だが、偶然としか思えない。
「今は修理と加工の最中だァ。悪ィな」
「いや、気にしないでくれ。祖父の作を見たかっただけなのだ」
「へェ……まァ、また縁があったら見せてやるよ」
不思議だが、この二人にはまた会いそうなーーそんな予感がする。
「それより、さっさと依頼見ようぜェ」
「あ、はい! すいませーん!」
エレンが受付嬢に話しかける。依頼用紙を貰っているようだ。
「しかし……トーヤ殿はどうやって戦うのだ? 刀はないのだろう?」
「一応魔法も使えるンだ。そりゃもちろん、刀があった方が楽なんだが……無くても問題無いくらいの魔法は使える」
「そうか……羨ましい、な……」
最後の言葉がよく聞こえなかった。ニキは一体何と言ったんだろうか。
聞こうとしたが、口を開く前にそれは遮られた。
「トーヤさん! これですよ、これ! ホラ、報酬も問題ないでしょ!?」
エレンが依頼用紙を持って戻ってきた。それを見て刀哉は頷く。
「あァ。金貨三十枚……いい報酬だァ。ランクはB−だが……」
「エレン、やはり三人居るとは言え、B−はツラいんじゃないか……? CとBの差は大きい」
「う……やっぱりそうですか……?」
エレンは困って目を伏せる。
ここにいる三人のランクは最高でもC。2つランクが上なのだ。普通なら、死んでもおかしくない。
ーー普通なら。
「よし、じゃァ取り分の話しよォか」
「と、トーヤさん? 受けるんですか?」
「当然だろォ? 金貨三十枚……つまり、最低でも金貨十枚は俺の取り分だァ。で、ワイバーンだっけェ? 楽勝だろ。さ、幾ら俺は貰えンだ?」
お金は大切。一気に十万貯まる。
これほどの良い話、受けないでおくなんて勿体無い。
「トーヤ殿……失礼だがランクは?」
「あァ? C−だけど? ホラ」
プレートをニキに見せる。そこにはしっかりとC−の刻印が成されていた。
「C−とB−の差がどれほどか、知らないのか?」
「受付嬢が何か言ってたなァ。だけどよォ、この薄っぺらいプレートに書いてある文字で、本当にソイツの実力が分かるのかァ?」
「……どういう意味だ」
ランクが下の人間に指図されるのが嫌なのか、刀哉を睨みながら低い声でニキは問う。
「言った通りだァ。ちょっと聞くが、オマエCになるのにどれくらいかかった?」
「……一年だ」
「俺ァC−になるまで数日。一回しか依頼受けてねェ。……さて、本当にランクで強さが計れンのか?」
ニキは黙り込んでしまう。
返す言葉が見当たらないのだ。今までの常識では、ランク=その人個人の力量、というふうに認識されていたのを、刀哉は根底から覆す発言をしている。
「ならば、トーヤ殿はこの依頼を完遂できる自信があるのか」
「あァ、あるね。鉱山の調査だか何だかはよくわからねェが、ワイバーンとやらに関して言えば余裕だぜェ」
何故こんなにも自信があるのかーーニキには刀哉がよくわからない。相手は丸腰、見るからに貧弱、魔術師だといっても杖さえ持ってない。
そんな人間を信用できるのかーー?
「ニキちゃん、やってみましょう? トーヤさんが一緒なら……出来る気がするんです」
「エレン……そうだな、やってみよう。トーヤ殿、よろしく頼む」
「あァ、任せろ。……で、取り分だが……」
その後の話で、トーヤの取り分が金貨十六枚、残りの金貨をニキとエレンで分けることになった。
ニキとエレンの目的は鉱山の調査のついでに、鉱石の採集だということなので、報酬は少なくてもいい、とのこと。
その代わり、ワイバーンの相手は刀哉がメインで行うことになった。ニキとエレンが鉱石を採集しているときの魔物の相手も刀哉の担当である。
「はい、こちらの依頼を受諾しました。では、こちらが資料と地図になります。鉱山の調査については、大まかな地図の作成になりますので」
受付嬢からの説明を受けて、ギルドを出る。鉱山はすぐ近く。言われた方向を見れば確かに山が見えた。
「さて、行くかァ。夜になる前には終わるといいなァ」
「まだ人の手が加わってない鉱山だから、調査するのは天然の洞窟になる。それほど広くないと思うから、調査自体はすぐに終わるんじゃないか?」
「そうですねー。問題はワイバーンですが……大丈夫ですよね?」
受けては見たものの、やはり心配は尽きない。
刀哉はBクラスを受けるのは初めてだが、怖さなど全く感じていないどころか、楽しみでさえある。
「大丈夫だって。……お? アレじゃねェか? 登山道」
獣道に近いが、鉱山というだけあってゴツゴツした岩が多い。しかし歩けない程ではない為、そのまま上っていくトーヤ達。
「資料によれば、洞窟は中腹あたりに確認されているようだ。以前確認に来た人間は、洞窟付近にいたワイバーンに見付かり、なんとか逃げてこれたんだとか……」
「洞窟付近、ねェ。中腹まではどのくらいだァ?」
「だいたいあと一キロ程度。そんなに遠くは無いな」
登山道はさほど険しくは無く、歩いて登れる坂道。
一キロ程度ならば十分から二十分で着くだろう。
ーーそこで、突如響く音。
「……ワイバーン、かァ? 見付かった見てェだな」
「ここで戦うのは無理がある。どこか広いところにーー」
「登るぞ」
一人山を登っていく刀哉。
「トーヤさん! そっちにはワイバーンが……!」
「下に降りても広いところなんてねェ。なら上って戦った方がいいだろォ?」
そう言って刀哉は山を駆け上がる。
二人は後ろで何か言っていたようだが、諦めたのか刀哉の後を追って登ってきた。
「大正解……で、ご対面かァ?」
「ガァァァァアッ!」
響く轟音。
開けた場所に出たと思ったら、案の定ワイバーンが待ちかまえていた。
翼を広げ、威嚇する翼竜。
どこか某狩猟ゲームのティガレッ○スに似てる。
とは言え、サイズは大きくないし、色も灰色と、似ているポイントは形状だけなのだが。
それでも、やはり大きい。七メートル程度だろうか。そんな巨体が、こちらに向かって吠えてると言うのはーーやはり怖いものだろう。
「ククク……いいね、いいねェ……さすがファンタジー、退屈しねェ」
だが刀哉は恐怖を抱かない。
その顔には愉悦の嗤いさえ浮かんでいる。
後ろの二人は、恐怖に足が竦みそうなのを気力で耐えて各々武器を構える。
そして刀哉は、魔力をどろり、と垂らした。
「さてさてさてェ、竜狩りの始まりだァ。行くぜェッ!」
ーー翼竜が振り上げた腕と。
ーー刀哉が展開した魔力。
瞬く間に、勝敗は決まったーー。
ゆっくり話が進みます。
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