第二章 【都の戦火】 九
お待たせしました。
長い、長いよ第二章。
けど無理矢理始めるのもなぁ。
詰め込みいくない。
評価、感想、指摘等、お待ちしております。
ギルドで依頼を受けた場所へ着いた。
街からそう遠くは離れてない森の中。依頼の資料にはこのあたりにゴブリンの住処があるんだとか。詳細な地図は無いが、大まかな場所は分かっているとのことで、刀哉はそこに向かっている最中である。
「しっかし……暑ィな……この国は南にあるんだっけか? どこの世界も南は暑ィんだな……」
まだ日も昇りきって無いというのに、この茹だるような暑さは一体なんなのか。刀哉は帽子でも買えば良かったと後悔した。というより、甘く見てた。
「今までは馬車だったから良かったけどよォ……歩きはキツいな」
色素の薄い肌に日光が燦々と降り注ぐ。ゴブリンより日光の方が強いんじゃないか。
「ハァ……とっとと終わらせて帰りてェ……おォ?」
ひょこっと一匹、ゴブリンが。刀哉を見ると引っ込んでしまった。
「……追い掛けてみるか」
ゴブリンが消えた森の中へ刀哉も入った。
ゴブリンが走る。
刀哉も走る。
ーーというより、ゴブリンの足が遅いので、刀哉がそれに合わせる形になっているだけ。
ゴブリンの身長は人間の半分ほど。足も短い。見れば見るほど可哀想な体型である。
しばらく追い掛けて、ゴブリンが見えなくなると同時に、岩肌にぽっかりと開いた穴を見付けた。これがゴブリンの住処だろうか。
「前回は襲ってきたから殺したが……今回は恨みはねェんだよなァ……ま、依頼だ。仕方ねェから死んでくれ」
岩肌に開いた穴に魔力を流し込む。その流し込んだ魔力から、ゴブリンの数を把握していく。
「二十ってとこだなァ……このまま爆破してもいいんだが……証拠持ってかねェと金が貰えねェんだよな……どうするかァ」
ゴブリンは穴に閉じこもったまま出て来そうに無い。基本的にゴブリンは夕方から活動するので、当たり前といえば当たり前なのだが。
どうにかしてゴブリンを引きずり出したい。穴の中には狭くて入れなさそうだ。どうしたものか。
「……待てよ?」
魔力を形にする事が出来る自分なら、簡単ではないのか?
思いたったらすぐ行動。
魔力の密度を上げて、自由に操作できるようにする。
「ここを……こうかァ」
感覚で操作するのも限界だった為、両手も使う。
「出来上がりィ……ンじゃ、ゴブリンさん方いらっしゃーい」
伸ばした魔力をーー思いっきり引く。それだけで穴の中にいたゴブリンはズルズルと出て来た。
カラクリとしては至極単純。
伸ばした魔力の密度を高くして、刀にするように形にした。それをゴブリンの体に巻き付けて、引きずり出した、というだけのこと。
しかしながらこの方法は、言うのは容易く、行うのは難しい。……というより、普通の人間はそこまで膨大な魔力を持ってないし、魔力を形にするなどという芸当は出来ないので、つまるところ刀哉にしか出来ない技術だと言える。
「ギャッ」
引きずり出された時の衝撃でゴブリンが呻く。可哀想になってきた。
「しかしまァ……仕事は仕事だ。すまねェな」
依然ゴブリンは魔力に縛られたまま。
刀哉はゴブリンの拘束をそのままにして、新しい魔力を四散させる。
そしてその魔力を二十本の剣に変えてーー一斉に放った。
「指定された分のゴブリンだけでもいいんだが……どうせ復讐とかするンだろ? つー事で全員サヨウナラ」
拘束されているゴブリンはもちろん身動きが取れない。
二十本の剣は全てゴブリンの頭に突き刺さった。
「わぉ……素晴らしいくらい正確なヘッドショットだぜェ……さて、と。ゴブリンの殲滅部位は耳か」
しゅるりと魔力でナイフを作り出す。
そのナイフでゴブリンの耳を一匹に付き一つ、削ぎ落としていった。
「オェ……グロいな」
ウサギとかは別段問題は無いのだが……なんかゴブリンは無理。人の耳みたいで気分が悪い。
「くっ……これで全部か? よし帰ろう」
五匹分余るのだが、刀哉はそれも削ぎ落として袋に入れた。
無駄に殺すのも何だか気が引けたというだけだ。
「……これで金貨四枚かァ……次はもうちょい楽なの受けよう」
肉体的ではなく、精神的に疲れた。強い奴一匹相手にした方が楽だ。
◇◇◇
「……コレ、頼む」
ゴブリンの耳が入った袋をギルドのカウンターに置く。
「はい、ゴブリンの討伐ですね。確認しますので少々お待ちください」
受付嬢は袋を後ろの窓口(?)に渡した。
「それでは、地図と資料を返却していただけますか?」
「あァ、これか。はいよ」
バッグの中から最初に貰った地図と資料を掴み取って受付嬢に渡した。
受付嬢はそれを後ろの窓口に渡すと、代わりに何かを貰っていた。
「はい。確認しました。こちらが今回の報酬になります。それと、五匹の余剰分が加算されますので、総計が金貨五枚です」
「なるほどォ……上乗せされるのか」
話を聞けば、ギルド規定の報酬が支払われるんだとか。
「では、今回の依頼でランクがC-になりますのでプレートを提示して下さい」
「ランク上がるの早ェな」
「今回の依頼は昇進試験も兼ねていましたので。でもここからランクを上げるのが大変ですので頑張ってください。魔物のレベルも桁違いなので」
「桁違い、ねェ。楽しくなってきたじゃねェか」
話を聞きながらプレートを出す。プレートを受け取った受付嬢はやはり後ろの窓口に渡した。
「では、少々お待ちください」
とは言うものの、すぐにプレートは返された。見てみるとしっかりC-と刻印されていた。
「では、またのご利用をお待ちしております」
刀哉はプレートをしまって、次の依頼を受けようとする。
……が、空腹と言うことに気付いたので、先に昼食を済ませることにした。
よく考えてみたら、朝から何も食べてない。まぁ、それは城を抜け出した自分が悪いのだが。
今頃城はどうなってるのだろうか。
さすがにあのままにしておくのもマズい気がするし、自分の服も取り戻したい。それに王様に刀を注文したままだ。受け取るか取り消すか、いずれにしても一度城には戻らなければならないようだった。
「……依頼受けたら一度帰るかァ」
本音を言えばまだ恥ずかしいのだが、このままにしておくといらぬ誤解を招きそうな気がしてならない。
「ハァ……うん、メシ食おうメシ」
なんだか疲れてきたので考えるのを止めた。
先に昼食を済ませることにして、目に付いた食堂に入る。
「……人多いな」
昼時故の混雑。刀哉はそれでも一つだけ席が空いてるのを見つけた。
誰かに取られない内に席を確保。メニューを開く。
「……字は読める。が、一体カロのソテーって何だァ? ……く、ここにきて異世界の弊害がっ……」
他もいったい何の食材なのか判別できない物ばかりだ。適当に頼んでゲテモノが出て来たらどうしよう。
「あのー…」
「くそ……なんだこりゃァ……」
「……。あの、すいませーん」
「あァ?」
「ひっ、す、すいません!」
誰かが話しかけてきた。
見た限り店員ではないようだ。明らかに冒険者のスタイル。
オレンジの髪を後ろで結い上げたーー所謂ポニーテールであるーー少女。
「人の顔見て悲鳴上げるんじゃねェよ」
「は、はい、すいませんっ! し、失礼しますっ」
少女は踵を返して出て行こうとする。それを、刀哉が襟首をつかんで止めた。
「はわっ!?」
「待てよ。なンか用事あったんだろォ?」
「え、いや、そんな……」
「あったんだろォ!?」
先程よりもやや強い口調で問い質す。
「はいぃ……あの、相席してもいいですか?」
「なンだ、そんな事かよ……あァ、好きにしろ」
刀哉が言った瞬間、少女の顔が、ぱぁっと輝く。たかだか相席で大げさな奴だ、と刀哉は思う。
「ありがとうございます! 店員さーん!」
「早っ! メニュー見てなくね!?」
刀哉の驚きの声などなんのその。店員を呼んで注文を済ませてしまう。
「それじゃ私、定食Bで!」
「はい、定食Bですね。そちらのお客様は?」
「……同じモン頼む」
もう面倒になったので、少女と同じ物を頼んだ。同じ人間が食うんだ。食えないものが来るってことは無いだろう。
「はい、定食Bを2つですね。畏まりました。では少々お待ちください」
店員はメニューを確認して去っていく。顔がわずかに笑っているように見えたのは気のせいか。
「すごいですね! 私以外に定食B食べる人初めて見ました!」
「……は?」
嫌な予感がした。
ーーその予感は、すぐに的中する事になる。
どん、とテーブルの上で盛大に自己主張する定食B。
「……なァ、定食BのBってどういう意味だ?」
「それはもちろん、定食(爆裂!)のBですよ! ささ、冷めない内に食べましょう!」
ふざけ。
こんな山みたいなモノが胃に入りきると思ってるのか。
それ以前に、目の前の少女は一体何者だ。その細身のどこにそれが入るんだ。
刀哉の疑問など知る由もない少女は、ハイペースで山を処理していく。
ちなみに、定食Bの内容は、
ご飯(山盛り。三人前近い。)、サラダ(大皿に山盛り。パーティーとかで見るアレ。)、味噌汁(殆ど鍋。)、焼き魚(デカいのが丸々二匹)である。
これでなんと銅貨十枚。お得と言えばお得だ。
刀哉は半分で諦めた。
「……なァ、コレ、食うか?」
「え! いいんですか!? それじゃ、遠慮なく♪」
刀哉が半分食べ終わる頃には既に少女は食べ終わっていた。
そしてまだ余力があるらしい。
(俺ァ今、人体の神秘を垣間見た……!)
そして、気がつけばいつの間にか少女は食べ終わっていた。
「ふー…、腹八分目です」
(……ギャ、ギャル曽〓だ、異世界のギャル曽〓がいる! いや、むしろこれはギャル曽〓越えている……!)
一体胃の中はどうなっているのか。体のほとんど胃じゃないのか。
「ところで……お名前、教えていただけますか?」
「あ? あァ、真田刀哉。こっちで言うなら、刀哉真田になるなァ。刀哉が名前だ」
「トーヤさんですね! 私はエレン・カルコスです! トーヤさんも冒険者ですか?」
「あァ……お前もか」
刀哉の問いに胸を張って答える。胸をはるほど立派な物ではないが。
「はい! 今日やっとDになりました!」
「へェ。んじゃ、俺先行くわ」
ランクを聞いた瞬間興味が失せた。
昼食もすませたし、ギルドに行かなきゃならないので、話を打ち切って席を立つ。
「ちょ、ちょっとまってくださいよー!」
「なンだよ? 俺ァ忙しいんだが」
「私とパーティー組みません?」
パーティー。
つまりは一緒に仕事をこなす為に組む組織のようなもの。
仲間がいればその分仕事もはかどるが、報酬も分散される。
が、しかし、パーティー限定の依頼も受けれるという特典も付く。
「なァるほど。だが断る」
「な、なんでですか!? トーヤさん、武器持ってないし、後衛の人でしょ?」
「後衛なんて一度も言ってねェ。武器は今加工してンだ」
武器なしでも戦闘はできるけどな、と心の中で付け加える。
「そ、そんなぁ……せっかくパーティー組めると思ったのにぃ……」
「大体お前一人じゃねェか。組んだとしても後1人は必要だろォ。それに俺ァ旅してんだ。そんな奴とパーティー組んでも仕方ねェだろ?」
「ひ、1人じゃないです! もう1人います! 一回! 一回だけ一緒に依頼受けて下さいっ」
駄目だ。この手合いはどこまでもついてくる。
「……仕方ねェ、一回だけだぞ。後は知らねェ」
そうは言ったものの、面倒なことになりそうな予感がビシバシする刀哉だった。