第二章 【都の戦火】 六
はははははっ!
まさかの二日連続更新!
まぁ、今回は短めですが。
感想、評価、お待ちしてます。
「さらわれたァ? 誰にだよ」
そんな事を話してる隙はないとばかりに、ラディは強引に刀哉を宿から連れ出す。
昼間は暖かかったが、夜の空気は少し冷たい。
「私が付いていながら情けない話だが……宿を取ったその後、私が買い出しに出ている間にさらわれたようだ」
走りながら刀哉に話す。
「さらわれた訳じゃねェんじゃねェのか? どっか出掛けたとか……」
「それは無い。宿の主人が言っていたよ。見知らぬ男達に運ばれていくのを見た、と」
あの姫様がそう簡単にさらわれるとも思わない。魔法で撃退することも出来ただろう。しかし、それをしなかったということはーー
(不意を突かれて眠らされた、が妥当だろォ)
シラフィに聞いた話では、魔法を使える人間は強い。しかし、それは集団戦、尚且つ威力の話。接近戦には弱い筈だ。
「だがなァ……セルティのいる場所の目処はついてンのかァ?」
「先程門番に聞いた話では、奴隷商が街に入ったとのことだ。奴らめ……姫様をさらった罪、必ず償わせてくれる」
(奴隷ねェ……そンなもんがいるのかァ)
異世界ということを更に実感させられる。
魔法といい、魔物といい、この世界には驚きと発見がいっぱいだ。
「あれだ!」
「正面から潰すかァ?」
「当然!」
刀哉達が馬を預けた所に、一台の大きい馬車。あれが奴隷商の馬車だろうか。
ラディはロングソードを腰から抜き放ち、刀哉は楓を鞘から引き抜く。
「な、なんだ貴様ら!」
貸し厩の主人に負けずとも劣らないメタボの持ち主だ。
奴隷商は、正面から走ってくる二人を見て狼狽したが、すぐさま控えていた傭兵に指示を出す。
「オマエ左な」
「では右を頼む」
自分が相手をする標的に向かって二人は疾走する。
「試したい事あったから丁度いいなァ……纏え、灼熱」
楓に魔力を通して、魔法へと変換。
一瞬の内に、楓は灼熱の炎を纏う刀へと変わった。
それを構えて、走る。
走るたびに炎が揺れて、ちらちらと燐光を散らせる。
「貴様、魔術師かっ」
「残念、不正解。俺ァ魔術師じゃねェよ……不正解者には残念賞としてェーー」
右手に持った楓を横薙ぎに振るった。
「速やかな死をプレゼントォ。ちなみに正解はギルドランクDの新米冒険者でしたァ」
灼き斬る。
ただそれだけだった。首を落とされた傭兵は、重力に従って力無く崩れ落ちた。
「あっちも……終わったみてェだな」
ちらりとラディが向かった方へ視線を向ける。ラディが相手をした傭兵は袈裟切りに引き裂かれ、倒れた後だった。
残るはーー汚らしいメタボ。
「ラディ、こいつどォするよ?」
「本来ならばこの街の騎士団に引き渡して、法律に則った刑罰で罰するのだが……都合のいいことに私は近衛騎士。そして姫様を拐かした罪は死と相場が決まっているのだがな?」
いつも堅い顔をしたラディが今は笑顔だ。ーーもっとも黒いオーラが全開な訳だけども。
(あァ、ラディもかァ……)
根は真面目で素直な奴だと思っていた刀哉にとっては、少しばかりショックだ。
「ソイツは任せる。俺ァセルティを連れてくるからよォ」
「任された。ククク……」
(あーいう奴も怒らせると怖えェんだよなァ……)
「ひぃっ! た、助けーー」
「問答無用っ! ハハハハハッ」
馬車の荷台に向かう刀哉の後ろで、ラディの壊れた高笑いが響いた。
「お、いたいたァ……オイ、起きろよ姫様ァ」
「ん……む……どちら様で……?」
「トーヤ様だよ姫様」
寝ぼけたセルティに返答したその瞬間、セルティの目はカッと見開かれて後ずさる。
「ととと、トーヤさん!? 何故ここにっ!? ……って、あら? ここはどこですか?」
いつか見たような反応だ。何か。自分は寝起きに見ると後ずさりしたくなるような顔なのか。
自分で思って、刀哉は少し悲しくなった。
「ここは奴隷商の馬車の荷台だァ。セルティがさらわれたってラディが騒ぐからよォ」
「それはそれは……ご迷惑をおかけしました」
「気にすンな。それよか早く戻って寝てェ」
刀哉の体内時計で言ったら、もう十時は過ぎているだろう。
ルクからここまでで疲れているのだから、もうさすがに寝たい。
「姫様はいたか?」
「あァ。ンじゃ、俺ァ戻る」
ラディが来たのを確認して、刀哉はすぐ宿へと引き返した。
後ろで何か言っているような気もするが、それより眠気の方がデカい。後ろの声など全く耳に入らなかった。
「また、行ってしまわれましたね……」
「トーヤめ……姫様に失礼だ」
「あら? ラディ、いつからトーヤさんを名前で? ふふふ、いつの間にか仲良くなっていたんですねー」
「べ、別に他意はございません! ただ、その……少しは見直したというだけで……」
「ふふふ〜♪」
「姫様!? 私の話聞いてるんですかっ!?」
刀哉がいない空間でセルティの笑い声と、ラディの声が響く。
◇◇◇
「揃ったなァ。ンじゃ、出発しよォか」
翌朝。
朝食をそれぞれ済ませて、馬車に食料や水を積む。また王都への旅に戻るのだ。
「セルティ、王都まで後どのくらいだァ?」
「そうですね……早ければ2日、そうでなくとも3日で着きます」
早馬を送った時は三日で帰ってきたのに……と刀哉は思う。
まぁ、馬車だし、そこまでスピードも出していないので仕方がないと思って諦めることにした。
街道はほぼ真っ直ぐで、刀哉は御者台にいるものの、殆ど馬に任せっぱなしで、セルティとラディの会話に参加していた。
「あァ? ラディ、オマエ男じゃねェの?」
「ぐっ……確かに私は身長も高いし、声も低いし、髪も短いが……れっきとした女だ!」
(なンだよ、そうだったのか……鎧のせいでガタイも良く見えるしなァ。獲物もロングソードなんてモン使ってるし)
近くで見れば、綺麗な顔をしているのだが、ベリーショートということもあって、イケメンだな、くらいにしか見ていなかった刀哉である。
「私の名は、ラディーナ・ニコラスと言う。姫様は愛称でラディと呼ぶが……」
「おォ、名前でしっくり来た。でもよォ、何でそンな鎧着てるンだよ?」
確かに立派ではあるがーー刀哉の認識が間違っていなければあの鎧は男ものだ。
「本当は女ものの近衛騎士の鎧があるのですけど……ラディったらこの長身でしょう? サイズが合う鎧が無くて」
「今急ぎで作ってもらっているんだ」
納得。しかし声を聞いても女と気付かないのは不思議だ。生まれてきた性別を間違えたのではなかろうか。
……いや、ただ声が低いだけのようだ。
顔は整っている為、不細工ではない。綺麗と言われる部類に入る筈だ。
しかし短い髪が全てを台無しにしている。まぁ、女と認識した今では、十分美人に見えるのだが。
「そうかァ……それは悪かったなァ。男なンて言っちまって」
「い、いや、構わない……初対面の人は大抵勘違いするから」
それはそれで、またつらい物がありそうだ。
「なら口調直したらどうだァ? そうすりゃいい女になると思うンだけどなァ」
「ば、ばか! いきなり何を言い出すんだ!」
「……何怒ってンだァ?」
怒っているわけではなく、ただの羞恥からなる照れ隠しなのだがーー刀哉は気付かない。
「ふふふ〜♪」
その横で、セルティが微笑ましそうに笑っているのにも、二人は気付かないままであった。
王都までは、まだしばらくかかりそうだ。
馬車は青空の下に伸びる街道に沿って、ゆっくり進んでいく。
ラディはオンナノコでした。
ツンデレでもありました。
男だと思ってた人は何人いるかな?
ふふふ~♪