第二章 【都の戦火】 四
うん、誰からも感想こない…
人気はないようだ。
「ところで……何故トーヤさんは魔力を?」
「あァ……なんかあった。案外不便だなァ。もっとこう……火とか出せるモンだと思ってたよ」
焚き火を囲みながらの談話。魔物の肉は食べることが出来ないので、仕方なく持ってきた携帯食料を食べた。
「……それは、使い方を知らないだけでは? 視覚化する程の密度の魔力は今まで見たことがないので何とも言えませんが……魔力を感じることさえ出来れば後は簡単なはずです」
「へェ? 知り合いに聞いた話じゃァ魔法は自分で見つけるしか手がねェってことだったンだがなァ」
シラフィが言っていた事だ。
万人の術では無いが故に、使えるのは一握りだと。
「えぇ、でもそれは魔力を認識するまでの話であって、魔力の出し方さえ分かれば誰でもできますよ。そのためのアカデミーも存在しますから」
「そンなモンがあるのかァ……そこに行ってみるのも手だな。……金がねェから無理か」
刀哉は乾いた笑いを浮かべる。そのアカデミーとやらがどんなシステムかは分からないが、イメージとしてはお金がかかりそうだ。
「まぁ、優秀な人材を育てるための施設ですから、多少はかかりますね……それでも、卒業後は王国特務部隊に配属されますので、かかるお金は教材費や生活費のみです。国の未来を担う人達から授業料を取るような事はしませんから」
さりげなく国に仕えるようアピールしてみる。しかし刀哉は首を振ろうとしない。
「俺ァそーいった堅苦しいのは苦手なンだよなァ……ま、魔法なんて使えなくても問題ねェしな」
目的がある刀哉には国に仕えるなんてことは出来ない。
それに、魔法なんて得体の知れない力よりも、刀という確たる力の方が信頼できる。
(憧れねェ訳じゃねェんだけどな)
一度は使ってみたい。何もないところから火を出してみたい。男特有の憧れだ。
「では私が教えましょうか?」
「いいのかァ? 使えた方が便利だしなァ……頼むわ」
どうやらセルティも魔法を使うことができるようだ。
セルティの説明が始まる。
「基本的には四大精霊と大気に満ちた精霊がいます。四大精霊はこの場では関係ありません。四大精霊はあくまで世界を支える役割を持った精霊であり、魔法そのものには干渉しませんから」
「つーことは魔法を使うためにはその大気に満ちた精霊が必要な訳かァ」
「えぇ。簡略化しますと、魔力をエネルギーとして魔法という物質に変換するわけです。精霊の助け無しには魔法は使えません。つまり精霊を通さないと魔法は発動するどころか変換しようとした魔力さえも無駄になります」
「なるほどねェ」
魔力はただ魔力のまま。精霊を通すことで魔法として形を持つことになるらしい。
普通の魔術師はそうしなければ形造ることができないのだ。
刀哉は圧倒的魔力にものをいわせて無理やり魔力で刀を作っているのだが。
「属性については、火、水、雷、土があります。派生させることでそれは増えますけど、基本はこれだけですね。太古には光と闇があったようですが、使える人はいません。今はですが」
「その属性に精霊を使って変化させる訳だな?」
「はい。それにはどうしても詠唱が必要になります。熟練した魔術師でも低級魔法を発動させるには何かしらワードが必要ですね。ワード自体は自分で決めることが出来ます」
「面倒だなァ……こう、ぼっと出せねェか?」
「今までいろいろな人が挑戦しましたが、できる人は居ませんでしたね……そもそも詠唱とは精霊にお願いするものです。精霊とは人より上位の存在ですから」
「ほォ……つーことは精霊を自分より下位にすればいい訳だ。……やってみるかァ」
「え?」
刀哉は目を閉じる。その瞬間から森が揺れ始めた。
風が猛る。
大気の精霊が騒ぎ出したのだ。
「うるせェよ……黙って俺にひれ伏せばいいんだッ!」
揺れ動く森。
しかしその揺れも段々と収まっていく。
「ハッ……最初からそうすりゃァいいんだよ」
そういって刀哉は手を前に出す。
「来い」
ぼ、と、その手の内で火が燃え盛る。
「ば、馬鹿な……」
「すごいです! トーヤさんはとても優秀なんですね!」
詠唱破棄、そして精霊を屈伏させるだけの力。人間のスペックを越えている。
「セルティ。あとはどんな魔法があるんだァ?」
「後はですね……攻撃魔法、防御魔法、強化魔法、支援魔法があります。攻撃魔法と防御魔法はそのままですね。強化魔法は魔法で身体能力を底上げしたり、属性を身にまとったりできます。支援魔法は生活に密着した魔法ですね。土の肥沃さを増したりとか」
話を聞く限り使うのは攻撃、防御、強化くらいだろう。
強化も使い方によっては強い力になりそうだ。
「まァその辺は追々やってけばいいだろォ。明日も長ェ距離行くからそろそろ寝るかァ?」
風呂が無いのが若干残念ではあるが、こればっかりは仕方ない。
ラディとセルティは刀哉に賛同して寝ることにした。
◇◇◇
(やはりトーヤさんをジュレルに引き込むのは難しそうですね……)
(私としてはその方が良いのですが……)
刀哉が寝たのを見計らって密談を始める二人。物音を立てると気付かれそうなので移動はせずにその場で、出来る限り小さな声で話す。
(まだそんな事を言っているのですか! あなたも見たでしょう? あれほどの群れ……それもファングですよ? それを撃退するとは……A+の実力があります)
(しかし、素姓が知れませんよ? たしかに常識は知らないようでしたが……それが当たり前のような振る舞い、とても記憶喪失には……)
ラディは本能的に相容れない存在と認識しているため、どうしても引き入れたくはないようだ。実力は認めているのだが。
セルティはそれに反して、どうしても引き入れたい様子。上手く誘導して近衛兵士に付けたいとまで思っている。
(それは私も思っていました。しかし、それを考慮しても有り余る戦闘力。圧倒的な魔力。精霊さえもねじ伏せる力量。どれを取っても一流です。こんな人材を引き入れない手は無いのですよ?)
(ですが!)
(どうしても引き入れたくはないようですね……まぁいいでしょう。勝負は王都に着いてからですから。父上に相談すれば応じてもらえます)
既にセルティの頭の中では、あの手この手が展開されている。
色香に惑わせてもいいし、金で釣るもよし。いざとなれば自分が……とさえ考えていた。
(仕方ないので今日は寝ましょう……)
(……私は認めませんからね)
(あなたの意志など父上の前では無いに等しいのですよ)
ラディの意見を一周して、背を向けて横になる。
確かに刀哉の力は驚異的だ。その実力は未知数。しかし、ジュレルに忠誠心を持ってない以上、いつ牙を剥くか分からないのだ。
ラディはそれを心配している。
(何故姫様は分かってくれないのだろうか……国王に掛け合ってみよう)
結局全ての決定権は国王にあるのだった。
「くぁ……朝かァ」
少し肌寒さを感じて起き上がった。太陽はまだ低く、時間で言えば7時くらいだろう。
まだ寝ている二人を起こそうかと思ったが、止めて、まず朝食をどうにかすることが先決だと判断した。
「あんまり携帯食料を減らすわけにもいかねェからなァ」
あまり携帯食料が好きではないという勝手な考えもあるのだが。
「……狩り、だなァ」
愛刀の楓を携えて、森の中へ入る。
雑草の朝露のせいで裾が濡れてしまうのだが、特に気にせず進む。
森の中をしばらく歩き、少し深いところまで来て、立ち止まった。
「ふぅ……さァて、獲物はいるかァ?」
目を瞑り、感覚を研ぎ澄ます。
俗に言う、気配を探るという行為。この世界に来てから、全てのステータスが底上げされていると感じた刀哉は、色々試していたのだ。
その内の一つが気配探索。
覚え立てで範囲はそこまで広くないのだが、鍛えることで範囲も広がることを確認済み。
多用すれば使い勝手のいい力になるだろう。
「そっちかァ」
僅かに、刀哉の探索網に引っかかった気配。刀哉は刀を抜いてそれを追う。
「ーーウサギかァ。朝食には上々ッ!」
刀哉に気付いて逃げ出すウサギ。
しかし刀哉はそれをみすみす逃すような真似はしない。
一瞬のうちに振りかぶって、刀を投擲した。
刀は風を裂き、ウサギに避ける暇さえ与えずに、その身に突き刺さって、地面とウサギを縫い付ける。
「よォし、とりあえず血抜きだけはしとかねェとな」
皮を剥いで、肉が落ちないように身を裂く。楓の血を拭いてから、手に提げて馬車へと戻った。
「お? 起きたかァ。丁度いいなァ。朝飯にすンぞ」
「貴様……それは何だ?」
「ラディよォ、その態度もう少し何とかならねェかァ? あとこれはウサギだ」
昨日の道中でもラディは刀哉の名前を呼んだことはない。
「ふん……」
「ラディ……?」
「ひ、姫様!?」
起き上がってきたセルティが、ラディの肩に、ぽんと手を乗せる。
「あなたは! 何度言ったら! 分かるんですか!」
怒鳴られるラディ。
まったく反抗できない状態だ。
「それとも……解雇されたいのですか?」
ゆらり、とセルティの背後から黒いオーラ。その笑顔にも怒りが滲んでいる。
「そ、それだけは!」
慌てて助けを乞うしかないラディ。いかに近衛兵士といえど、雇われの身なので解雇は困る。
「ラディはセルティに頭が上がらねェんだなァ……まァ、とりあえず朝飯にしよォか。食ったらすぐ出発だ」
セルティは元気良く、ラディはしぶしぶと返事をして、焼けたウサギの肉を口に入れた。
街までは後少し。