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5話

「僕はルア。妖精だよ。アインスさんは何を困ってるの?」

「妖精⋯⋯って、今じゃほとんどいないって⋯⋯」

「そう。自分で言うのもアレだけど、僕らは見た目もいいし、何より羽が貴重な素材らしくてね。視える他種族に乱獲されたから、僕も今まで片手で数えられるくらいしか、会ってないんだ」

「そう、なんだ」

「で? 何か困ってるなら、手伝うよ。手遅れになる前に、はやくしたほうがいいんじゃない?」


 チラリとルアが視線で示した先では、剣士が腰をおとし、ツタが先端を低くしているところだった。


 やばい⋯⋯! もう戦い始めちゃう⋯⋯!


「あのね、ツタが守ってくれるのは嬉しいんだけど、あの人たちも私を助けようとしてくれてるみたいだから、ツタに落ちついてほしいんだ」

「なんだ、それならアインスさんもできるよ。今回は僕が話すから、見ててね」


 ルアは手のひらを上に向け、応えて、と小さくつぶやく。


 すると、ルアの手のひらがホワァと淡い緑色に発光し、指先くらいの大きさの人が現れた。

 人、といっても、私やルアのような色形ではなく、全身が緑で、細長い胴体に頭と先のとがった四本の棒が、四肢としてついている感じだ。


「イートウィップさん、大丈夫だそうだから、落ちついて。あの人間を攻撃しちゃダメだよ」


 じっとルアと見つめあったあと、パチリとまばたきをして、その子は淡い光とともに消えた。


「ねぇルア。今のは⋯⋯」

「うおおぉぉおおぉ!」


 奮い立たせるようなおたけびに、私はサッと青ざめた。


 空高くとび上がった剣士が、隙だらけの身体で剣を振り上げている。


 ⋯⋯あれじゃ、ツタに腹を貫かれたら、どうしようもなくない? それも作戦?


 って、そうじゃない!

 あのままだと、ツタが切られちゃう!


 出どころの分からない罪悪感に、ギュッと目をつむる。


「うぉああぁぁ⋯⋯!?」


 間のぬけた声が森中にこだまし、私はけげんに思いながら、ゆっくりと目を開ける。


「はっ⋯⋯?」


 剣士がツタとの攻防をくり広げ、少なくともどちらかが傷ついている場面を想像していた私は、困惑に染まりきった声をもらす。


 そこにあったのは、剣を空振って顔から地面につっこんだであろう剣士と、慌てて抱き起こす僧侶の姿だった。


 太くどっしりとうねっていた緑の鞭は、跡形もなく消滅していた。


「ね? こうやってやるんだよ」

「え? 何が起きたの⋯⋯?」

「だから、話したい精霊さんに、魔力をのせた声を届けるの。今は分かりやすいように呼び出したけど、実際は具現化してもらわなくても聞いてもらえるから、アインスさんも⋯⋯」

「ねえ、それって精霊使い? 今じゃ使い手は珍しいって聞いたんだけど、なんで私?」

「なんでって、アインスさんは植物の精霊使いでしょ? あーそっか。知らなかったのかぁ」


 ルアはハァッと息を吐き、そっかそっかとつぶやく。 

 脱力した目が、遠くを見ている。


 私が、精霊使いだなんて⋯⋯あるわけないよ。


 この星が誕生して数万年後、生命体は大きく二種類に分けられていた。

 一方は、大地や空、海などの自然から生まれ、その本体がなくなるまで、存在し続ける精霊。

 もう一方は、人類や半獣、妖精などの、幼体から成体に成長し、自分の身体以外に生命媒体を持たない生き物。


  だけど、その境界線はあいまいで、かつては誰もが精霊と話せたため、精霊使い、なんて称号は存在しなかった。


 時が過ぎていく中で、世界の開発が進み、汚水やら森林伐採やらで、精霊たちの数は半分以下になり、その状況に精霊王が激怒して、特定の者以外には姿を視せなくなったらしい。

 それにともない、数少ない精霊と意思疎通できる者たちを精霊使いと呼ぶようになった。


 精霊が姿を視せる条件は、今でも解明していない。


 精霊使いの名家が没落して以来、一度も名のり出る者がいないから、とうとう精霊王に見限られたっていう噂が流れてるって、師匠から聞いたことがあるくらいだ。


 私は劣等生。

 アイツらには、同じ師匠の教え子として恥ずかしい、なんて思ったけどさ。


 魔力もろくに練れない、最弱の魔物すら倒せない、師匠の弟子の中で、過去最低辺なのは、間違いない。


 何が、恥ずかしい、だ。

 何が、うらやましい、だ。


 どこの目線から言ってるんだよ。逃げてばっかりだったくせに。


 ⋯⋯そんな私が、希少な精霊使いだなんて、ありえるわけがないんだ。

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