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後編






アンセルとは婚約期間1年を経て結婚した。


彼は何度か俺と結婚しても君を幸せに出来る自信がないなどの弱音を吐いたが、その度に貴方が私を幸せにするのではなく、私が貴方を幸せにしたいのだと説得した。


そうしてようやく辿り着いた結婚式は、とても……それはもう眼福だった。


まず、最推しであるアンセルの白いタキシード姿。ちょっぴり騎士っぽいデザインは言葉に出来ないほど似合っていて鼻血が出るかと思った。


それからミュゼットをはじめとした原作の登場人物たち。

学園やパーティーなどで何度か見かけたが、ガッツリと会話をしたのはこの結婚式が初めてだった。アンセルがミュゼットを避けていたので、私も進んで交流を持たなかったのだ。

だからといって険悪な関係というわけではないので、ほんのちょっと気まずい関係という感じだろうか。


ミュゼットだけは、私という存在がいるから女である自分と仲良くしないようにしてるのだろうと考えていたようだが。


彼女は周りが教えなかったこともあり、結局最後までアンセルの気持ちに気がつかなかったのだ。

アンセルはそんなミュゼットを眩しいものでも見るかのように目を細めて見つめていた。



だけど勘違いしないでほしい。

アンセルはこの日を境にちゃんとけじめをつけてくれたし、そもそもある程度はとっくに吹っ切れていたのだ。

初恋の女性を忘れるのは難しいだろうし、最近はミュゼットを思い出すような素振りもなかったのでマリッジブルーにでもなったのだろう。


私?

私はマリッジブルーなんてならなかった。

むしろ今日という日が楽しみ過ぎて眠れなかったのでかなり寝不足だ。




初夜はアンセルの気持ちの整理が出来るまで無しにしようとあらかじめ2人で決めていたためその日は結婚式が終わってからすぐにベッドに入った。


さすがに体裁があるので同じベッドだが、私は疲れていたこともあり横になってすぐに寝た。

翌朝アンセルが目の下に隈をつくっていたのは不覚にも嬉しいと思った。なんだかんだ私のことを意識してくれているのだと。


それから結婚生活は和やかに進んだ。

情熱のある恋愛関係でこそないが、アンセルと私は夫婦としての絆を深めた。

周りからすればアンセルの歩みは遅いのかもしれない。だけど彼は誠実に私という存在に向き合ってくれた。




そうして結婚してから季節が一巡した頃、彼は真っ赤な顔で100本の薔薇を私に差し出しプロポーズをしてくれた。

このシチュエーションは前に私が憧れると言っていたものだ。




「俺は今までずっと、君に愛を注いでもらっているだけだった。

不甲斐ない男だったと思う。ずっと叶わなかった恋なんかを引きずって。


だけど、俺はいつの間にか太陽のような君を……ルルアを愛していた。


ずっと待っていてくれてありがとう。

これからは俺が幸せにしてもらうんじゃない、2人で幸せになろう」




それからアンセルは恥ずかしそうに指輪を取り出した。

私の薬指に嵌まっているのは公爵家に代々伝わる指輪(この世界の貴族は結婚指輪を代々受け継ぐのが一般的)で、アンセルはわざわざ私のためだけの指輪を用意してくれたのだ。

私が覚えてないような私の話を彼は覚えていてくれたのだろう。




「わ、わたくしのことを愛しているの?」


「ああ。ずっと君の笑顔に癒されていた」




私は、この世界にきてから初めて泣いた。


夢だと思っていた世界は1年経っても覚めず、気がつけば現実の記憶は薄れ私はこの世界に順応していった。


それが本当はずっと怖かったのだ。


だからアンセルという存在に依存し、不安を紛らわせていた。

アンセルを幸せにしたいなんて建前で、本当はずっと…ーー




「っ、ほんとうは、わがままで自分勝手なのよ」


「俺は君に振り回されるのが好きだよ」




私の涙をアンセルが優しく拭う。

彼の体温が私の不安を和らげてくれる。




「本当は嫉妬も、するの」


「俺も君が誰かに笑顔を向けるのが嫌だと思ったことがある」


「アンセルが傷心していたとき、チャンスだと思ったわ」


「ありがとう、俺を選んでくれて」




ああ、やっぱり彼には敵わない。

大好きだった推しは、いつの間にか愛する人になっていたのだ。










※※※









「ママ、パパは~?」




アンセルに似た娘がパレードの中心にいる集団を指差し父親の姿を探している。


今日は建国記念日のパレードが行われていて、第2騎士団の団長であるアンセルもあの中にいるのだ。




「パパはね、あそこよ。ほら、王様の左側の……」


「ええ~、わかんない。

何でママはわかるの?」


「当たり前じゃない、パパはママの推しなんだから」


「おし? おしってなぁに?」


「推しっていうのはね、その人が特別ってことよ」


「あ! わかった!」




娘が父親の姿を探すのをやめて振り返る。

そして自信満々に笑顔を見せた。




「ママそれはね、おしじゃなくて好きっていうのよ」



























推しの存在っていいですよね。

個人的に推しには幸せ過ぎて戸惑うぐらいでいてほしいです。

皆さんには推しがいますか?





最後までお読み下さりありがとうございました。




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