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ハーバリウムの棺桶  作者: 雨上鴉
レイン編
4/22

おでかけ

「あら、レイン。招待状が来ているわ。この字は、ハルカおにーさんからね!読む?」

「招待状?」

 今日の分の仕事をしていると、リリーが手紙をいくつか持ってきてくれた。その中に、どうやらハルカからのものがあったらしい。

「なんだろ?あ。お誕生日会だ」

「まぁ、それは素敵ね!そう、もうそんな時期なのね」

 ハルカは、自分の誕生日にゲストを呼んでパーティーをする。なんでも、幼少期からそう決まっているらしい。でも、誕生日の時に幾つになったのか言わないから、みんなハルカが今何歳なのか知らないんだよね。ローシュあたりは、実は知っているのかもしれないけれど。

「今回は、リリーもくる?ぜひきてくれると嬉しい!って書いてあるし」

「あら、いいの?ふふ、今から着ていくものを考えなくちゃね!」

「うん、そうだね。プレゼント、今年は何にしようかな。何か欲しいもの、言ってたかな」

 ハルカは欲しいものをすぐに買ってしまうので、あれ欲しいな!と言った次の瞬間には自分のものになっていることがほとんど。事前に欲しいものを聞いても、渡す頃には既に持っている可能性も高い。うーん、困ったな。

「お困りかしら?ならブーケはどう?レイン、ブーケも作るの得意でしょう?それに、ハルカおにーさんの誕生日なら、カモミールが誕生花だから。ポプリはどうかしら?お茶も素敵ね!」

「ポプリかぁ」

 カモミールの香りには、安眠効果がある。ハルカ、あんまり眠りが深くないって言ってたから、ちょうどいいかも。

「うん、カモミールのポプリにしよう。ありがとう、リリー。そうだ、よかったら一緒に町に出かけない?プレゼントを探すのもだけど、リリーのお洋服もみよう」」

「あら、いいの?ぜひ行きたいわ!レインのお洋服も、せっかくだから新調しちゃいましょう!楽しみだわ!」

「ふふ、よかった。ええと、次の定休日は明後日か。そこでいい?」

「ええ、いいわ!ふふ、久しぶりのお出かけね。楽しみだわ」

 最近は僕が忙しくて、あまりリリーとでかけていなかったなと思い出す。冬は依頼が多い。この寒さが、人を神様のところに近づけるのだろう。メンテナンスも、最近は一人で行ってもらっていたし。ちょっと申し訳なかったかな。リリーが僕よりしっかりしていて、心配なんていらないのはわかっているけれど。それでも、出来ることはしてあげたい。

「そうと決まったら、張り切ってお仕事を終わらせなくちゃね。ふふ、僕も楽しみだな」

 久しぶりに、楽しくなりそうだ。

 

「ねぇ、レイン。こっちの布はどうかしら?綺麗なブルーグレーよ」

「えぇと、あれ?リリーのお洋服じゃなくて?僕?」

「だってレイン、いつも同じ格好なんですもの。たまには違う色もどうかと思って」

「う、うーん?り、リリーがいいならいいんだけど」

 仕立て屋に入って小一時間。何故かリリーは、自分の服ではなく僕の服の話をしている。

「お嬢様、こちらはいかがでしょう?最近人気の柄でして」

「あら、これも素敵ね。光沢も美しいわ!迷ってしまうわね。レイン、ちょっとあててみて」

「う、うん。どうだろう?」

 渡された布を自身の胸元に持ってくる。うーん、ちょっと派手かな?最近の流行りにうといから、このくらいのものなのだろうか?

「レインには、少し印象的すぎるかしら。布は控えめにして、ネクタイやコサージュで華やかにする方が似合いそうね」

 やはりリリーも合わないと思ったらしく、別のものを見始めた。うーん、リリーの服がメインだと思ってたのに。長くなりそうだ。

 僕が途方に暮れていると、入り口のベルが鳴った。どうやら、別の来客のようだ。

「やぁやぁ、ご機嫌麗しゅう!って、あれ?レインとリリーじゃないかい。奇遇だね!」

「あ、ハルカ。それに、スミレも」

 来客は見知った二人だった。いつものトランクはなく、代わりに小さいかばんを手にしたハルカは、にこにことこちらに近づいてきた。

「珍しいね、レインがここにいるなんて。あ、もしかしてリリーの服かい?」

「それも、なんだけど。リリー、自分のより先に僕のを見始めちゃって」

「ああ、なるほど。彼女、よくレインが服を新調しないって嘆いてたから」

「え、そうだったの?うーん、身に覚えがいっぱいあるなぁ」

 元々納品の時以外ででかけないから、服に頓着があまりなく。今着てるものも、何かの折にたまたま仕立てたものだ。

「そういうハルカは?」

「ああ、今日はボクじゃなくて、スミレのドレスをお願いしにきたんだ。ほら、キミにも送ったけど、今度ボクの誕生日パーティーがあるだろう?ボクの一番の助手が、古いドレスなのはいただけないからさ。まぁ、スミレならどんな服でも似合うのだけど。それはそれ、これはこれ。半分はボクの趣味だけどね!」

 そういえば、毎年ハルカの誕生日パーティーに呼ばれているけれど、スミレが同じドレスを着ているのを見たことがない。そういうことだったのか。

「あら、ハルカおにーさん。それにスミレも!会えて嬉しいわ」

 こちらに気づいたリリーが、一旦布を預けてやって来た。

「ご機嫌麗しゅう、リリー。今日も元気そうでなによりさ。ところで、リリー。よければボクもレインの服の話、していいかい?」

「あら、ハルカおにーさんもレインの服が気になるのね?いいわ、一緒に考えましょう?」

 当の本人を置き去りにして、あちらは楽しそうだ。ああなってしまうと長いので、大人しく待つことしかできない。

「あの、レイン。大丈夫かしら?」

 僕が困っていると、スミレが遠慮がちに声をかけてくれた。真っ黒な髪に、すみれ色の瞳の彼女は、その綺麗な顔に似合う柔らかそうな黒のコートをまとっていた。

「うん。ごめんね、スミレ。君の服を見に来たんでしょう?」

「ふふ、いいのよ。元々これは、ハルカの気晴らしも兼ねているの。目的は既に達成されたも同然よ。ああ、でも。そうね」

「なぁに?」

「貴方も暇でしょうし。よければ、今回は貴方が私のドレスを選んでくれないかしら?」

「僕が?うーん、あまり得意ではないけれど、それでもいい?」

「ええ。せっかくだもの、貴方も服を選ぶ楽しさがわかると嬉しいわ」

 スミレはそう言いながら、早速布選びを始めた。うーん、本当に得意じゃないけど、いいのかな。そう思いながら、僕も布を眺め始めた。

 

「これでお誕生日会には間に合いそうね!今日は楽しかったわ、ありがとうレイン」

 すっかり日が暮れる頃、ようやく全ての用事を済ませて帰ってきた。ハルカへのプレゼントも買えたし、当日なんとかなりそうだ。

「今日は、スミレのドレスを選んだのでしょう?可愛いのはあったかしら?」

「うん。スミレに似合いそうなのがあった。きっと素敵なものになるよ」

「ふふ、それは楽しみね。そろそろ、ご飯の時間ね。何か作るわ。リクエストはあるかしら?」

「ありがとう。お腹、いっぱいすいちゃった。いつもより多めに作るってできる?」

「もちろんよ。それじゃあ、お肉をしっかり使ったものにするわ。出来るまで待ってて」

 リリーはそう言うとキッチンへ消えていった。僕も、エレンのところに行こうかな。

 

 鍵を開けて、中に入る。すっかり暗くてよく見えない。照明のスイッチを入れ、エレンの元に向かう。

「遅くなってごめんね、エレン。なんだか、最近遅いねって?うん、そうなんだ。けど、今日はお仕事じゃなくて、町に出かけてて。それで遅くなったの。楽しかったよ。ふふ、エレンの服もそろそろ新しいのにする?」

 今日の花はアイリス。普通は紫の花だけれど、白いものも持ってきた。エレンにはなんとなく、白も似合うなと思っている。ショーケースの蓋を開けて、花を入れ替える。うん、やっぱり白も持ってきてよかった。綺麗。

「ああ、そうそう。もうすぐハルカの誕生日なんだ。今年もパーティーに呼ばれたから、行ってくるね。うん、大丈夫だよ。ハルカのパーティーはいつもご飯が美味しいんだ。それが楽しみ」

 エレンの髪を撫でながら、話をする。金の絹糸のような綺麗な髪。ずっと触っていたいけれど、傷んだら困るので程々にしておく。

 ハルカの誕生日パーティーにエレンといった時は、僕が髪を結っていたな。エレンはどんな髪型でも似合う。お花を編み込んで三つ編みにしたの、楽しかった。もうエレンの髪ではできないけれど、今度リリーに頼んだらやらせてもらえないかな。

「そろそろ戻るね。またくるね、エレン」

 ショーケースの蓋をゆっくり閉じて。今日もおやすみなさい、エレン。

 静かな部屋には、主だけが穏やかな顔で眠っている。


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