父の涙
2007年8月8日
生まれてから4ヶ月が経過した。首がすわり握力が若干増えたので今では、子供用のオーボールでコントロールの練習を始めた。今の能力値はこんな感じ。
名前:五十嵐幸司
性別:男
年齢:0歳4ヶ月
野手能力
弾道 :0
ミート:Z
パワー:Y-
走力 :Z
肩力 :Y-
守備力:Z
捕球 :Z
投手能力
球速:10km
コントロール:X
スタミナ:Z
特殊能力:野球能力鑑定
補足:体の成長やトレーニングによって能力値は上がっていきます。
微妙に能力が上がっていた。道のりは長いだけど千里の道も一歩からだ。めげずに頑張ろう!
お目出度い出来事もあった。母さんが妊娠したのだ。
5月の終わりから体調が悪くなったり良くなったりを繰り返していたので心配だったが、今となっては分かったが、あれはつわりだったのか。
そしてこれから順調にお腹の中で赤ちゃんが育っていけば、3月の中頃くらいに産まれるらしい。
つまり俺とそのまだ見ぬ弟か妹は、同学年になる。
(前世は一人っ子だったからなぁ、目一杯可愛がってあげよ、そしてその時までお母さんの負担にならないように大人しく過ごしておこう)
そんなことを思いながら今日も黙々とコントロールの練習をしていく幸司であった。
その一方で、幸司の母紗子には悩みがあった。
(…コウちゃん、またボールで壁に当てては拾ってを黙々と繰り返して遊んでる。ここ一週間ずっとだわ。それに前までも大人しい子だったけど、最近はより一層大人しい……一度お医者さんに見せにいったほうが良いのかしら…心配だわ)
親の心、子知らずとはよく言ったもので、幸司のとった気遣いが、逆に紗子を心配させるのであった。
2007年10月16日
生まれてから6ヶ月が経過した。日曜日、夕方の6時半、母さんは料理を父さんは新聞を読んでいて、俺は日課の壁当てをしている。
(27…28…29…30….よし!今日のノルマ終わり)
壁当てが終わり暇になった俺は、大人しくテレビに付いていた、某猫とネズミのアニメを見ていると、父さんが、新聞を畳み"ノソッ"ノソッと近づいて俺のところにやってきた。
そして顔を俺に近づけて言ってきた
「……パパだぞ、ぱぁぱぁ、言ってご覧」
(うわぁっ、またこれかよ俺は今アニメ見たいから勘弁してくれよ)
そう俺の父、龍平は俺の最初の言葉にパパと言って欲しくて、ここ一週間毎日欠かさず刷り込もうとしてくるのだ。
(俺だからまだしも、普通の赤子だったら泣いてるぞこれ)
190cmの大男がまだ生後6ヶ月の赤子にしゃがみ込みながら"パパ、と連呼する様はなかなかに迫力がある。
少々、ノイローゼになりながらもなんとか辞めさせる方法がないか考えていると。美味しそうな匂いが漂ってきた。
「ご飯できたわよぉ」
そう言って料理を持ってくる母さん。今日はカレーらしい。
ちなみに母さんは料理がめちゃくちゃうまい。(まだ赤子だから、食ったことはないが)
「さあ手を合わせてください。いただきます。」
「いただきます」
「いああいあう(いただきます)」
母さんの号令で夕食が始まった。(俺は離乳食)
離乳食を食べている最中も、父さんの奇行をどうやって止めるか考える。
(単純にパパって言えば奇行は終わるけど、なんか父さんの思惑に素直になるのも癪だな……)
そう考えていると頭にひらめきが走った
(あっそうだ、大して刷り込もうとしてこない母さんを最初に呼べばそのショックで奇行をやめるかもしれない、早速食後にためしてみよう)
食後、俺の食事エプロンと食器を片付けてくれる。そして食器を片付けたあと俺を母さんが子供用の椅子から下ろそうとしているタイミングで言った。
「まぁま」
「えっいまなんて?」
「!!!!」
うまく聞き取れなかった母さん、そして驚きで口が魚みたいにパクパクしている父さん。
(もう一回言ってあげるか)
聞き取れなかった母さんのために、もう一度言ってあげることにした。
「まぁま、まんま」
「…キャァァ〜ねえ聞いた龍平さん。私のことママって言った♪」
「…あ、ああ聞いてだぞ、ママって言っていたな……」
歓喜する母さんの声、それと反対に動揺するような声をかけて出す父さん。その声を聞いて俺は勝ちを確信する。
父さんがどんな顔をしているのか気になって、父さんの方に顔を向ける。
(ふっ、父さんこの勝負俺の勝ちのよう……え??)
父さんの顔をよく見ると、目から一粒の水玉が滴り落ちていた。
あの日の罪悪感から後日、ちゃんとパパって言ってあげたら号泣した。