私を選んでよ
帰ってきた、あの人からはいつもと違う匂いがする。私の頭を撫でようとする、その手をかわし、居間に向かう。あの人は風呂に入っている。これまでどれだけあの人のために頑張ってきたのだろう。困った時は私が金を貸し、暇な時はこうして私の家に来る。あの人が偶に私につける痕はあの人が私にしか素顔を見せないからだと思っていた。どれだけ好きだっただろう。会えない時はあの人がよく聞いていた曲を聴いたり、写真を見たりして一緒にいれたと思っていたのに。あの人が風呂から上がると「どういうこと?」と私は外に響くほどの金切り声を上げた。一瞬の沈黙の後、あの人は私に近づいてきて、私の手を握り、私の目を見て
「大丈夫、俺がついているから。君が一番好きだ。世界中の誰かが君を否定しても、俺はそんなことはしない。いつだって君の見方だよ」と言った。途端に私の全てがあの人で満たされているような気がした。そして私を抱きしめた。あの人の温もりを感じるだけで狂ってしまいそうだった。
「今日の薬を取ってくるよ」
あの人が私のために台所へ向かった。私は棚の上のぬいぐるみを取った。
「ねえ、どうしたらいいの」
「あの人は運命の人だよ。思っていればいつか報われるよ」
私は礼を言うと、ぬいぐるみを元の位置に戻した。その時、あの人が居間にやってきた。
「ありがとう、ずっと一緒」