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第25話 予兆 その4

 数日後サハドは教会を訪れて神官となっているルースに面会を求めた。私室でしばらく待たされた後現れたルースは、以前よりさらに顔色が悪くやせたようでサハドは心配になる。


「ルース様!お気持ちはわかりますが、あまり根を詰められてはお体に障ります」

「私のことは大丈夫だ。サハド…カイルはどうしている」

「今はアガーラの現状とバドと言われる民のことを調べていらっしゃいますが、サーヴ王の残されたものが散逸しておりまして苦労していらっしゃいます。めったな者に手伝わせるわけにもいきませんのですが、どうやら先々代の王のころに何か記録をとろうとして持ち出した資料が別の所に収められたようです。私もこの後手伝うつもりでおります」


「そうか…王史もそうなのか。サハド、他言無用だが教会の教典もその時代のものが極端に少ない。何者かが持ち出したのか、どこか他に収めたのか…私は神官長に許可をとって禁書の書庫を探るつもりだ」

「それは…お許しいただけるでしょうか」

「お許しいただけるよう説得するまでだ。サハド、これはまだはっきりと表面に現れないだけで、サーヴ王の時代以来の国難だと思う。カイルを頼む。兄上は亡くなられ、私はこんな体だ。カイルにとって避けようのない運命が待っている。あまりにも重くつらい運命が…」


 ルースはサハドの手を握って同じ言葉を繰り返す。サハドは言葉もなくしっかりとその手を握り返した。


 サハドが帰るとルースは神官長に面会を求めた。神官長の部屋で二人が向かい合う。

「ルース神官、どうされました。何をそれほどお急ぎか」

「神官長様…若輩の身が失礼なことを申し上げることをお許しください。私は王子として成人した後、アーメド教の神官として迎え入れていただきました。静かに神の下にありたいと願ってはおりましたが、私にとって国の危難も見過ごせないものなのです。今、我が国はサーヴ王の時代以降最大の危機に瀕しております。まだ水面下でうごめいているところですが、何かのきっかけで一気に現れるでしょう。神官長様、お願いいたします。カイルを…私は助けたいのです。あれは今何も持っておりません。その状態で困難に向き合わなくてはならないのです。何らかの示唆を得るためにも、どうか禁書書庫の鍵をお貸しください」


 ザッハード神官長はルースを見つめる。国の危難はすなわち教会の危機でもある。

「禁書の書庫はめったなことでは開くことはない。だが今はそのようなことを言ってもいられまい。よろしい、私も一緒に行きましょう。二人で探せば何か手立てが見つかるかもしれない」

「感謝いたします!神官長様」


 ひと足先に部屋を出たルースが薄暗い廊下の先を見ると、柱の陰にミルヴァート神官長補佐の姿があった。ミルヴァートは5名いる神官長補佐のうちの一人で、それはすなわち次代の神官長候補の一人ということでもある。普段のミルヴァートは少し神経質ではあるものの、自分の感情をあらわにすることなどなかった。しかしルースの目にその時のミルヴァートはたいそう怯えているように見えた。


「ミルヴァート様?どうかされましたか。神官長様なら今こちらにいらっしゃいますが」

「いや、ルース殿。なんでもない。私に構わないでくれたまえ」

ミルヴァートは明らかに動揺しながら無理やりその場を立ち去った。

「ルース、待たせたな。さあ、行こう」

神官長に促され、ルースはミルヴァートのことを気にしながらも教会の最奥へと向かっていった。



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