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第2話 邂逅 その1

**登場人物紹介**


 リュシェンヌ・リード…リード侯爵家令嬢

 カーライル・リード…リード侯爵。リュシェンヌの父

 エレーナ…リュシェンヌの母

 アルフォンス…リュシェンヌの長兄。武官

 サハド…リュシェンヌの次兄。文官


 マリク…ガイヤード王国王太子

 ルース…ガイヤード王国第二王子

 カイル…ガイヤード王国第三王子

 アーチボルト・ダガード…ダガード伯爵家嫡男。カイルの側近


 バルト…私塾の塾頭

 フェリクス…私塾の生徒。リュシェンヌの同窓生

 ハンス…同上

 トマス…同上

 ルキ…同上

 マリ…同上

 ローザ…同上


 ザッハード…第一の宗教アーメド教の神官長

 ミルヴァート…アーメド教の神官。神官長補佐の一人


 ウィンダム・マクラレン…海賊男爵


 サーヴ・ガイヤード…ガイヤード王国第17代国王。王国の中興の祖

      *************** 


 天と地と神の世界、魔の領域…それらすべてが混沌とする世界。


 いくつかの大陸が青い海に浮かぶ。その中でも一番の大きさを誇るゴーダ大陸。さらにその南半分を占めるのがこの世界最大にして最強と呼ばれるガイヤード王国である。

 

隆盛を極める首都ハマーショルドの片隅にひっそりとその小さな私塾はあった。


 ガイヤード王国はゴーダ大陸で最も古くから存在し、何十人もの王たちが脈々とその血筋をつないできた。もちろん国の始まりから最大であったわけではなく、正史にも残らないほどの昔は地方の豪族程度の存在であったと思われる。それが徐々に他の豪族や部族を従え、あるいは力に任せて併合してきた。


 なぜ王家はそれほどの力を持つことができたのか。


 それは一人の若者から始まった。彼はその一生をかけて、人の心の闇を操る部族と戦ったとされている。強大な力を持った敵を追い詰めて行った彼に報いるように、比類なき一振りの剣が完成した。それは類ない刀工によって鍛えられ、神の祝福である光に満ちた剣だった。その剣の力を借りて、彼は敵に暗黒の力を与えていた存在を抑えることができた。彼はガイヤード初代国王を名のり、その剣は彼の子孫に遺され、その血を受け継ぐものだけが剣を手にすることができるとされている。


 王国の10代目ごろになると周辺にも力を持った国々が現れる。それらも同じように戦い、講和、消滅を繰り返し、いつしかゴーダ大陸はガイヤード王国を含む6つの国に分かれて安定した。そして力の上でも領土の広さでも最大なのがガイヤード王国である。


 しかし最大、最強の国であっても何の問題もないわけではない。特に国の始まりから様々な民族、部族と合わさることを繰り返してきた内部には多くの不満もたまるものだ。

 

そしてある時、王国最大の危機が訪れる。きっかけは天変地異だった。今はひと筋の噴煙もあげないバルア火山が、突然大規模な噴火を起こしたのだ。その時の溶岩流によって麓の村がいくつも飲み込まれ、さらに天高く上がった噴煙は空を覆いつくし何か月も太陽の光を遮った。当然人々の暮らしは困窮する。農作物が全くと言っていいほど育たず、舞い上がる塵によって健康は害される。少しでも火山から離れようと避難する大勢の民、しかし逃れた先もそれだけの民を食わせる余裕はない。


 もともと違う民族、部族からなる王国は内紛の危険性も多く持つ。それが国の危機に一気に噴出しそうになった。あちこちで不満分子による小競り合いが内紛を招き、さしもの大国も分裂するかと思われた時、病弱な父からその地位を受け継いだ王が、のちに中興の祖とも稀代の王とも呼ばれることになる第17代国王サーヴ・ガイヤードであった。


 彼の治世の始まりは国中に繰り返し起きる反乱への対処に明け暮れた。ひとつひとつは大きなものではなかったが、人々の弱った心にうまく忍び込んでそそのかし、国を脅かそうとする何者かの力が働いていた。ひとつの乱を抑えてもまたすぐ別の場所で逆賊が現れる。サーヴ王はそれに気づくと戦法を変えた。


彼はそれまで戦のたびに地方地主などから借り受けていた兵士たちを国の直属とした。さらに兵を募ると国軍として再編成し、一気に元凶を叩き潰しに向かったのだ。その時彼の手には初代国王から受け継がれた、他の者には絶対に扱えない無二の剣が握られていた。


乱を鎮圧し、最低限の助けを施し少し国が落ち着いた後、彼はそれまで単に前例を踏襲していた政策、制度、経済などあらゆる分野の改革を行う。国力の衰えている間に危うくなった他国との関係も持ち直さなければならない。


 いくら王が優秀でも一人でできるものではない。この時サーヴ王を助け、改革の素案を打ち出したのは、今も続く貴族家の始祖たちであった。当初は同じく部族の長あるいは郷長程度であった彼らは、武力が優先されたころの名残を残しつつも新しい時代に次第に馴染み、王と王族を守る貴族として変化する。間近にサーヴ王に仕え、その新しさと苛烈さに触れた彼らは王の盾であり剣でもあった。


 サーヴの治世後半から王国は王の専制からゆるやかに、貴族たちの合議と国第一の宗教であるアーメド教の教えを含めた政治体制に変化する。もちろん王家の力はまったくと言っていいほど衰えてはいない。しかしながら時代の流れに合わせて表立ってその力をふるうことが少なくなったのは確かであった。


サーヴ王はその死に際してある重要な予言を残した。それはいつかまた国に危機が訪れたとき、それに対峙するにふさわしい王が必ず現れるというものだった。そしてあの王家に伝わる剣をその王が受け継ぐのだと。それまで単に「王家の剣」もしくは「王の剣」と呼ばれていたそれは、国を救った彼の名をとって「サーヴ王の剣」と呼ばれている。


彼の治世を支えた貴族たちがその言葉を書きとめ、最後の祈りを捧げたアーメド教の神官たちもまた後世にその予言を残した。


アーメド教の聖典と王国の正史には明記されている。国を救う王…それは必ず現れると。




読んでいただきありがとうございます。

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