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第14話 責務 その1

短いですが、新しい章に入ります。


 屋敷に帰ったとたん、本来の令嬢としての生活が始まる。1か月後には学園に入ることが決まっているので、その準備に紛れてなんとか塾がなくなった悲しみを抑えることができた。そして母はアンナや他の女中たちに命じてリュシェンヌを徹底的に磨き上げようとしていた。


「なんてことなの、リュシー!あなたの髪は傷んでボサボサだし、日焼けしてそばかすはできているし…ああ!この爪!アンナ、学園に入るまでに侯爵家の娘として恥ずかしくないようにしてちょうだい」


 母は嘆き通しだった。2年間リュシェンヌを見て我慢してきたことが一気に口をついて溢れてきてうるさくて仕方がない。リュシェンヌはおとなしく女中たちに身を任せるしかなかった。1か月間はそんな調子であっという間に過ぎ、リュシェンヌはリード侯爵家令嬢として学園に入学した。


 この国で唯一「学園」とよばれるこの学び舎は主に貴族の子弟と裕福な庶民のためのものである。学園の理念では学生は平等であるはずが、残念ながら家格で判断されることもあるようだった。リュシェンヌは侯爵家の娘なので特に侮られることはないが、地方から来た低位貴族の子弟は少し肩身が狭いようだ。


 リュシェンヌはそのような現状に納得していなかった。そもそも学長をはじめとする教師たちは生徒全員を同等に扱っているし、そのような教育もなされているはずなのだ。しかし学園が成立してからかなりの年数が経ち、これだけの学生たちが集まっていればそれなりの上下関係というものはできてしまう。ここは学習の場でありながら社交界を映す小さな鏡でもあった。


 そこでリュシェンヌはなるべく多くの少女たちに声をかけ、友達になれないまでも対等であろうとした。気を使って逆に離れてしまう者もいたが、しばらくすると令嬢たちの中にも何人か気の合う友人ができた。つまりそれは、勉強以外に興味のないリュシェンヌの言動をおもしろがって許してくれるということだが。反対に優秀なリュシェンヌをねたんで陰で何かささやいているような令嬢たちも一定数はいるのだった。


 令嬢たちの中には学園に入った目的が勉強ではなくて条件のいい結婚相手を見つけるためという者もいる。何しろ貴族の子弟、しかも将来有望な若者が複数いるのだから、今のうちに彼らの目に留まれば卒業と同時に婚約、結婚という運びになる。そんな彼女らにとって侯爵家という格式高い家の令嬢でありながら全く男性の噂話には興味を示さず、休み時間には図書室にこもって何か調べ物をしているようなリュシェンヌは煙たい存在ではあった。


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