第7話 最終決戦
◇シャンテ視点◇
あたしのひいお祖母ちゃん、レム・アンジェリーナ。
一緒に長年苦楽を共にしたひいお祖父ちゃん、それと他にふたりいたパートナー。
皆を看取った後、人生を終えようとする彼女の傍にあたしはずっとついていた。
うわ言で大切な人の名前をよく呼んでいた。
眠っていることが多かったが時々目を覚ました。
あたしを見て、色々な話を聞かせてくれた。
あたしにあの言葉をくれた。
最期の時、ひいお祖母ちゃんは言った
『……あたしね、幸せだったよ』
きっと後悔の無い人生だったのだろう。
だからあたしもそんな風になりたい。
そう思って生きて来た。
「あー、でもこれってちょっと後悔かな?」
邪龍の爪を喰らい家の壁に叩きつけられた。
口から血が溢れる。まずい、何処かの臓器をダメにしたかも。
あー。これは時間稼ぎにもならないな。
それほどに邪龍の攻撃力は高い。
後悔したくないから若様に想いを伝えて口づけまでしたけどまだ足りなかったなぁ。
「後悔しない生き方をするんじゃないのか?」
別れを伝えたはずの声がした。
「若様……」
「……お前はそそっかしい奴だな。遂に家屋の壁にめり込む技術まで会得したか」
「ど、どんな技術ですか……」
邪龍が腕を伸ばし爪で斬り裂こうとしてくる。
若様は舌打ちをすると剣を一閃し爪を根元から叩き切った。
「えええっ!?」
「流石は英雄の子孫だな。いい獲物だ」
「え、それマクベスさんの剣……まさか……若様、あたしもついていきますから、自首しましょう」
「借りただけだ。人聞きが悪い」
笑い、彼は邪龍相手に剣を振るう。
「少し見ない内にさらに醜悪になったな邪龍。あの日の続きでもしようか?」
凄い、あんな怪物相手に……だけどあの日の続きって若様ちょっと痛い系に目覚めましたか?
更に駆け寄てくる丈宇江な鎧に身を包んだ大柄な男性の姿があった。
「ウォールさん!?」
ウォールさんは邪龍の攻撃を盾で弾く。
「シャンテ、生きていたんだな……済まなかった!」
「謝って許されるとでも思ったのか?随分と都合のいい男だ」
いやいや、若様喧嘩を売らないで。
「あらゆる罵倒は覚悟している。その上で、俺もこの街を守る為に戦おう」
「……チッ、好きにしろ」
舌打ちすると若様とウォールさんはコンビを組みながら邪龍に立ち向かっていく。
もう、若様ったら素直じゃない。
ってそんな悠長な事は言ってられない。
若様達を援護しないと……でも、身体中が痛くて動けない。
『大丈夫、あなたはまだ立てる。戦う力がある。あなたもまたレムの子だから』
私の隣に立つ女性が居た。
この人は……そう
「ひい……お祖母ちゃん?」
記憶の中にある肖像画に描かれていた女性。
若い頃のひいお祖母ちゃんがそこに立っていた。
『今までは私があなたの力を抑えていたの。私の子ども達は生まれながら持っていた強い力で戦いに身を投じていたから……』
それはつまりお祖母ちゃんたちの事。
『ケイト、つまりあなたのお祖母ちゃんは『普通の女の子』として生きて欲しいと願っていた。だから、私が死ぬ直前にあなたの力を封印した。でも……あなたもまた、あの人の子孫。だから、ここからはあなた達のステージ』
ひいお祖母ちゃんが私の手に触れる身体から力が溢れてくるのを感じた。
そして気づけば私の手には一振りの斧が握られていた。
『それはケイトがかつて使っていた二つの貌を持つ武器……その名は……』
頭の中に浮かんだその名を叫ぶ。
「オートクレール!!」
今までに感じた事の無い力があふれ出し体の痛みが嘘のようにひいて行った。
地を蹴ると邪龍との距離が一瞬で縮まる。
私は二度三度、斧を振り邪龍の顔面を撃ち据えた。
「シャンテ!?お前その斧は……」
「これがあたしの力、オートクレールです」
あたしの身体から魔力の渦が綺麗な螺旋を描きながら若様の剣へ宿る。
「こいつは……お前は本当に、何者なんだ!!」
「レム・シャンテです!さあ、二人で行きますよ」
「わかっているんだ……よっ!!!」
強大な力を宿した剣を若様が力の限り振るい邪龍を貫く。
一方私の方はオートクレールを巨大化させ飛び上がると邪龍の脳天へと振り下ろした。
「「これで、終わりだぁぁぁ」」
爆発の轟音。
そして邪龍の身体が崩壊していった……