第3話 お茶を淹れるだけで褒められる侍女
何か前半はウィルが復讐計画を考えながら「フフフ」となるけどナナシが出てきた途端それどころじゃなくなるってのがこの二人のパターンですね
◇ウィル視点◇
俺は書斎に籠り復讐計画を練っていた。
調査によるとリーガンの一味は現在、この国で活動しているらしい。
それにしても……
「まさか子孫が先祖と同じことをしているとはな。皮肉な事だ」
リーガンは最近パーティーメンバーのひとり、シャンテという魔法使いの少女を『メメント・モリ』で喪ったらしい。
だが俺にはわかる。恐らく子孫達は時を経て先祖と同じ罪を犯している。
即ち、シャンテという少女はあの大迷宮へ突き落とされたのだろう。
彼らに関わる事が無ければ命を落としはしなかったのに運の悪い娘だ。
やはり復讐は正しいのだ。
時を経て子孫が同じ事をする程に奴の血は腐りきっている。
犠牲になったシャンテという少女の為にも復讐を果たさねばなるまい。
「それにしても思い切ったものだな……」
調べによるとシャンテは大賢者アンジェリーナのひ孫だというでは無いか。
大賢者アンジェリーナと言えば教育分野で多大な功績を残し『レム魔導学院』を設立した偉人だ。
逸話も多くありその中には家出した娘を追いかける過程で誤解から独裁国家に単身戦争を仕掛け体制を崩壊させたなど破天荒なものまである。流石にそれは作り話だろう。
シャンテという少女が属する『レム一族』はここ100年で世界中に様々なネットワークを構築していった『チート一族』と呼ばれる連中だ。
その中にはどこかの国の王となった者までいるというのだから恐ろしい。
まあ、どこまで本当かわからないがな。
取り合えず思うにレムの名を持つシャンテを手にかけるとは命知らずにも程がある。
正直、正気の沙汰ではないと思う。
だがこれは使える。
奴らのしたことを証明さえできれば自ら手を下さずともレムに連なる連中の報復が奴らを襲うだろう。
「失礼します、ナナシです」
扉が開き、ワゴンを押したナナシが脚を引きながらゆっくりと入ってきた。
俺はその挙動をじっと見守り心の中で『よしっ』と叫ぶ。
よし、何にも引っかからなかったな。
あらかじめこいつが通るであろうルートにある障害物は片付けておいた。
絨毯のわずかな皴も見逃さずしっかりと伸ばしておいたくらいだ。
我ながらよく頑張ったと言えるだろう。
「若様、お茶とお菓子の準備が出来ました」
「いい匂いだな。楽しみだ」
ナナシに頼んだ『あれ』とは焼き菓子の事だ。
そそっかしくて失敗が多いシャンテだが彼女の作る焼き菓子の味は良く気に入っている。
貝殻型の焼き菓子でシャルールというものだ。
「それではお茶を……」
「自分で淹れる。お前が淹れるとこぼすからな」
「あの……若様はどれだけあたしを信用してないんですか……」
非難の視線が向けられるも俺は怯まず聞き返す。
「……ならば、こぼさないで淹れられるか?」
「……努力します」
そこは自信を持って『大丈夫』と言って欲しかった。
俺はナナシがカップに茶を注ぐ様を息を止めて見守っていた。
そして……紅茶は無事カップに注がれたのだ。
「ほら、どうです?ちゃんと淹れることが出来ましたよ!」
「ああ、よくやった。凄いぞ!!」
「えへへ……って何か、あたし凄く低レベルの褒められ方をしている気がしますけど気のせいでしょうか?」
「何を言うか。これはある種の偉業だ。誇っていい」
まさか一滴もこぼさず注ぐことが出来るとは成長したものだ。
屋敷に来たばかりの頃は1滴以外全てこぼすという離れ業をやってのけたくらいだったからな
………いや、こぼさず注ぐというのはよくよく考えればごく普通の事だ。
普通の事なのだかナナシがすると偉業に見えてくるのだから不思議である。
「ん。ありがとうございます。それではあたしはこれで……ごゆっくり」
「待て、どこへ行く。話し相手くらいしろ。そしてお前も茶を飲め」
「え、でも……」
「丁度もう一つカップが置いてあるからな。よし、俺が淹れてやる」
俺は予備のカップをに紅茶を注ぎ始めた。
「まさか厨房の人からカップを2つ持っていくように言われたのはこういう事?」
厨房担当のあいつは気が利くからな。
俺がこいつを引き留めることを予想していたのだろうな。
「主人にお茶を淹れてもらう使用人って……しかもあたしよりはるかに上手だし……」
どうせ他の仕事はさせてもそそっかしさで失敗ばかりする。
ならば俺の話相手をしていれば良い。
使用人たちも彼女が俺の傍で話を聞いている方が仕事もはかどるというものだろう。
「まあ、そう言うわけだ。ちょっと話に付き合え」