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プロローグ:現代

本作のヒロインであるシャンテは『破界の聖拳使い』のヒロイン、アンジェラのひ孫にあたる人物です。

「シャンテ……君をパーティーから追放することが決まった」


「え……ど、どういうことですか?」


 シャンテは告げられた言葉の意味を理解することが出来ず戸惑った。

 そもそもこんな所で、危険ダンジョン『メメント・モリ』の奥地で告げられるべき様なセリフではないからだ。


「言葉の通りだよ」


 リーダーであるリーガンは冷たく告げた。


「す、すいません。私が足を引っ張っているのはわかっています。だから、何か問題があるのならすぐに直すのでパーティーからの追放は許してください」


「残念だが決まった事だ。そもそも、君が大賢者アンジェリーナ様のひ孫だからパーティーに迎えたが蓋を開ければどうだ?初級魔法を使える程度だ。しかも武器適性も低いから他の職業も目指せない。はっきり言って邪魔なんだ」


「そ、そうですよね……わかりました。だけどだったらせめてこのダンジョンから出たら追放にしてください」


 いくら何でもダンジョンの奥地で追放などされたらたまったものではない。


「そういうわけにもいかないのよ。無能とはいえ大賢者のひ孫を途中で返却したなんて醜聞、かっこ悪いじゃない。ギルドからも睨まれるかもしれないわ。何せあんたの所のババアはギルドの重鎮よ」


 ヒーラーであるゴネリルが笑いながら言った。


「そこで考えたわけさ。ダンジョンの奥地で命を落としたというのならパーティーの評判にも傷がつかない。適当に涙を流して君の死を悼めば同情も集まるというものさ。そこで、この『メメント・モリ』に連れて来た」


 パーティメンバーからのあまりに残酷な言葉の連続。

 シャンテは混乱していた。


「このダンジョンの奥地には未開の広大な迷宮が広がっている。邪魔なパーティメンバーが出来た時、我が家では代々そいつをここに捨てて始末することになっているんだ」


「ウォールさん!!」


 パーティーで一番大柄なウォールに助けを求める。

 だが……


「済まんな。決まった事だ」


「そんな……!!」


「君の後ろにある大穴は迷宮フロアに繋がっている。選び給え、自ら入るか我々に蹴落とされるか」


「考え直してください!ずっと今まで一緒に戦って来たじゃないですか!旅の仲間じゃないですか!!」


 必死の訴えにゴネリルが顔を歪めそして前に出るとシャンテを抱きしめる。


「そうよね。あなたは私達と苦楽を共にした大事な仲間よね」


「ゴネリルさん……」


 良かった、わかってくれた。

 安堵するシャンテだが数秒後に地獄が訪れた。


「何て言うわけないじゃん、バーカ」


「っ!!」


 次の瞬間、押し出されたシャンテの身体は奈落へと消えていった。


「ごみ捨て完了!ってね」


「さあ、地上へ戻ろう。シャンテは奥地でモンスターに襲撃され命を落とした。彼女の亡骸を家族に返せないのが残念でならないとでも報告しておくとしよう」


 3人はもう一度奈落を覗き、そしてその場を立ち去った。



「そんな……こんな事、こんなの……」


 シャンテは落下の際に折れた脚を引きずりながらダンジョンをさまよっていた。

 偉大な大賢者の血を引きながらも才能には恵まれていなかった。

 それでも一流パーティーである『黄昏の轍』からスカウトされた時は心の底から嬉しかった。

 自分は役に立つ。自分の中に流れる血を必要としてくれる人たちが居るのだ、と。

 冒険者として数々のダンジョンにもぐった。生来のそそっかしさも相まって足は引っ張ったけど楽しい日々だった。

 本当の仲間だと思っていた。思っていたのに……


「死にたくない……帰らないと……お母さん、お祖母ちゃん……」


 彼らを尊敬していた。

 だけど裏切られた。そしてこの暗闇に捨てられた。


「私は……私は……」


 何度も何度も繰り返す。そして……


「私は生きて帰る!お母さんやお祖母ちゃんを悲しませないためにも!!」


 彼女が口にしたのは裏切った仲間への呪詛ではなく家族の元へ戻りたいという願いであった。

 自分はひとり娘だ。だから自分が死ねば母親はたった一人の子を失うことになる。

 どれほど悲しむだろう。

 そして祖母は高齢だ。

 数年前に母親、自分からみて曾祖母にあたる人を亡くしている。

 今更これ以上の悲しみを味合わせたくない。


 暗闇で目は見えない。

 だが……


「あっち……かな?」


 不思議と自分の進む先がわかった。

 勘に従いシャンテは這いながらも動き続けた。


 シャンテは知らない。後数メートルずれたルートでは凶暴な獣が待ち構えていたことを。

 毒の沼が広がるルートを辛うじてよけながら動いていた事を。

 たまたま選んだ休憩場所がミメタイト鉱石という魔物が嫌がる鉱石で覆われた安全地帯であった事を。

 途中で啜った水は体力を大きく回復する効果がある神水であったことを。

 彼女を生かすように、彼女の傍に寄り添う力の塊が居たことを。


 途中、彼女は朽ち果てた骸を見つけた。

 そう言えばリーガンは代々ここにパーティーメンバーを捨てて来たと言っていた。

 この人もそのひとりだろうか?


「安らかに眠ってください……」


 シャンテは祈りをささげると再び動き出す。

 彼女は気づかなかった。その骸が持っていた小さな石がポケットに潜り込んだことを。

 ただただ、生き延びるために彼女は這い続けた。


「光……そ、外……」


 未だかつて誰も抜け出したことのない大迷宮。

 シャンテは1か月かけてそこから生還したのだ。

 だがそこで体力が尽きた。


「出たのに……せっかく生き延びたのに……」


 シャンテの意識は途絶えた。

 そして、そこをたまたま通りかかったアーサル家の長男により、彼女は保護された。

 記憶を失くし、自分の名前も思い出せない状態であった。

 そこで彼女に便宜上つけられた名前はナナシ。

 奇しくも今は亡き彼女の曽祖父と同じ名前であった。


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