プロローグ:過去
「破界の聖拳使い」エピローグ以降の物語になります。
時代も「破界の聖拳使い」より数十年後で主役であったナナシのひ孫世代です。
今作はお家芸の「ビーム」と「プロレス技」を封印したいと思います。
「ダンテ……残念だけど君とはここまでさ」
「ど、どういうことだ、マクベス?」
ダンテは仲間の言葉に戸惑いを隠せなかった。
ここは危険ダンジョン『メメント・モリ』の奥地。
奈落へとつながる大穴の崖に剣王と呼ばれた男は必死にしがみついていた。
「言葉の通りさ。君はいつも一番、欲しいものを何だって手にして来た。富も名声も、『彼女』の心さえも!!」
マクベスの声は冷たかった。
「マクベス殿、さっさと突き落としてしまった方がいいですぞ」
白いひげを蓄えた老ヒーラー、メンティスが助言する。
「そうだな、こいつなら腕力ひとつで上がってくるかもしれん」
盾役のレノックスも残酷な言葉を投げてくる。
どうやらここにいる皆が敵らしい。
「マクベス!頼む、手を伸ばしてくれ!俺達は、俺達は仲間だろ!?」
「君さえいなければ『彼女』は僕のものになる。だから……さようなら、剣王ダンテ」
ペッと唾を吐きかける。
直後、手が滑りダンテは奈落へと叫びながら消えていった。
「マクベェェェスッ!!」
□
「くそっ、あいつら、何でこんな……」
どうやら落下した時に脚を折ったらしい。
それでも何とか生還しなければ『彼女』が危ない。
彼女には辛い幼少期を送った過去があった。その笑顔を、曇らせたくない。
何としても、生き延びなくては……
暗闇の中、襲い来るモンスターを斬り捨てながら出口を求め彷徨う。
だが……
「何でだ、何で俺がこんな、こんな目に遭わないといけないんだ。俺は……」
本当の仲間だと思っていた。
自分には出来ないことが出来る仲間達。
頼りにするとともに尊敬していた。
それなのに……
思いはやがて反転し、心に黒い炎が宿るのを感じた。
それは憎しみの炎、復讐の心。
「許さない。許さないぞ、マクベス。生まれ変わってでも俺は復讐してやる。お前に、お前達の子孫に至るまで呪ってやる!!」
毎日毎日、呪詛の言葉を吐き続けながら剣王と呼ばれた男は迷宮の中で朽ち果てたのだった。
□□
◇???視点◇
気が付くと自分を抱き上げ愛おしい視線を向ける女性の姿があった。
(何だ、この女は一体……)
「さあ、ウィリアム、ご飯の時間ですよ」
女性の豊満な胸に顔を押し付けられる。
(ま、待ってくれご婦人。俺達は知り合ってまだそんなに経っていないはずだ。それなのにこのような事は!?)
言葉とは裏腹に懸命にむしゃぶりつく自分に戸惑いが隠せなかった。
だが、すぐ気づく。
(あれ、もしかして俺は赤ん坊になっているのか?)
そう、剣王と呼ばれた男の魂は赤ん坊に生まれ変わっていたのだ。
そこから彼は数年にわたりお漏らしなどの羞恥プレイを強いられることになるが割愛させてもらう事にしよう。
□□□
4歳になった。
段々と自分の状況が分かってきた。
転生した先の名はアーサル・ウィリアム。通称ウィル。
エルピス王国アーサル領を治める領主の長男だ。
元々死産になるはずだったが何とか息を吹き返したらしい。
恐らく死産となった赤ん坊の身体に魂が入り込んだのだろう。
自分が生きていた時代からは大分経っていた。
マクベス達は生きていないだろう。
アーサル家の跡取りとなる教育を受けながら胸に秘めるのは復讐の想い。
本人達が居ないならその子孫を探し出すのみ。
許しがたき行いの果てに得たその人生、先祖の罪を子孫に購ってもらおう。
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19歳になった。
長年マクベス達の子孫を探し、見つけ出すことが出来た。
いずれも先祖の功績により成功者としてなりあがっていた。
最近、パーティメンバーをダンジョンで喪ったらしいがそんな情報はどうでもよい。
奴らをどん底に叩き落としてやる!
ある日、俺は日課の散策を行っていった。
そして山中でボロボロになった一人の少女を見つけた。
「お前……こんな所で何をしている。」
「せっかく……生き延びたのに……」
うわ言を繰り返す返す少女を見て俺は舌打ち交じりのため息をつきながら彼女を抱えると家に連れて帰ることにした。
少女は数日間生死の境をさまよった末、目を覚ました。
だが自分の名前や記憶などを失っており途方に暮れていた。
面倒くさい、と思いつつ拾ったのだから仕方が無い。
「名前が無ければ不便だ。お前は今日からナナシと名乗れ」
俺は少女に、そう告げた。