みかんのふる日
朝、天気予報で「今日は朝からみかんが降るかもしれません」と言っていたので、円菜いちごは一応傘を持って家を出た。予報通り、学校に着くまえからみかんが降りはじめた。
「うあー、いたいいたいー」
同じクラスの木荷成りんごが、降ってくるみかんに頭をポコポコ叩かれながら、いちごが差している傘に入り込んできた。
「天気予報、みてこなかったの?」
「はぁはぁ。みたけど、空みたら晴れてたやん。ふぅ」
「晴れててもみかんは降るよ。雨じゃないんだから」
「そうやけどさぁ」
この町は、たまに空からみかんが降ってくる。町は全体的に傾いていて、降ってきたみかんは道を転がって町の中心にある工場に集まる。
工場でなにを作っているのかは近隣の住人たちもよく知らない。いちごもりんごも知らなかった。
みかんが降った日は、町のみんなで公園の砂場に埋まって動けなくなったみかんや、庭に落ちてきて外に出られなくなったみかんを道路に転がしてやり、みかん工場に集まるようにしてやる。そうしないとみかんが腐ってしまうからだ。
「今日は午後からみかん集めやろか」
「かもね。今日の体育、マラソンだって言ってたからみかん集めになると良いね」
「いっそ休校にならんかなぁ」
学校に着くころにはみかんも小降りになっていて、これなら授業も通常通り行われるだろうと予感させた。
いちごは校門近くの低木に引っ掛かっていた小さなみかんに気がつき、拾いあげる。鼻先に近づけて青臭い香りをクンと嗅いでから、道にそっと転がした。
朝のチャイムが鳴る。いつもとあまり変わらない朝。