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闇夜を行く

作者: なと



秋の夕暮れに、混ざる幽霊。小さな木の実。

夢の中で、やけに大きなお玉杓子が元気に田んぼで泳ぐ。

阿弥陀様の顔が、暗がりで光り、妖し。

祖母の念仏が、響く仏間に、蛇の抜け殻。

ヒトデの堕ちているシンク。

午後五時のチャイムが通りゃんせだったり…不思議な宿場町




行方知らずの、足跡。潮騒の残した、跫。

夕べの月は、朱かったか。

三日月にぶら下がって、虫の音を露枕に訊く、神無月の頃。

もう、だいぶ肌寒い。便りは、届かず。おみくじは大凶ばかり。

鳥居はどこまでも紅くて、千羽鶴が、千代千代と鳴いている。

闇の眼は何処だ。

満月の欠片が、海辺に堕ちていました。



曲がりくねった路を上り、入道雲に足がけ。

腕が取れたまま、空中散歩をするよすが人をただ陽炎に追いかける、夏の残響。

火照りは秋まで続く。

夢のまにまに、縋って見せて。

卵から孵化した雛に、煙を吹きかけて禅問答をする羅漢様の煙草のけむが、綺麗な渦巻き。

君、焉んぞ、謎々の答えの返事を。


夕方頃には、だいぶ涼しくなるでしょう?

夢見の置手紙は、紅い郵便ポストの中。

蛍石が輝いて、涙にくれる瞳に眩しすぎるんです。眩惑。

夕べの君は綺麗だったよ。潮騒。

打ち手は寄せて、寄せては返して。

海は、癒して、微睡む。

揺り籠の嬰児が、おぎゃあおぎゃあと、胎内の聲を轟かせている。



とめどなき。あなたの横顔が、げに夕日に映えるんです。

ともしびは、夕闇の胡蝶。砂浜の桜貝が、打ち寄せる波に洗われて、綺羅と輝いています。

神無月のこと、抽斗の奥から、忘れていた手紙が出てきました。

「金木犀の甘く爽やかな香りが漂いはじめました。秋ですね」亡くした阿羅漢へ当てたもの。


君の掌の、赤蜻蛉、翅に夢見月が映っている

綺麗な、おべべの赤蜻蛉、幽かな羽音でゆっくりと今、

芒の上を舞っている。

おうい、母の聲を、覚えているか、

おうい、父の腕を、覚えているか、

浮世を巡る、命のともしびが、満月のやうに、あかあかと。

夜のテールライト、信号機の赤信号の様に。

月読の照らす裏路地に、小さな赤子が母親の腕の中。

故郷の野原を想い、寝息も穏やかな、繰り返す吐息の中、今。


闇夜を行く、君の横顔は、何処までも凛々しく美しい。

君、死にたもうことなかれ

恩師の、教えてくれた秘密の謎々は、

課外授業の美術室の準備室の開かずの扉の内側で答え合わせ。

此の世の秘密を、此の小匣の中に。

小さな咽仏の欠片が、今、掌の中で輝いています。

鉛筆の鉛が、朱く燃えている。

机の抽斗の中の、懐刀。白い包帯に巻かれて、眠っている。

そう、闘いの時、心の内側に潜む魔魅を、倒すために。

ゆらゆらと揺れる、部屋の中の水槽の水面に、月明かり。

夜の旅に出るのだ。戻れないかも知れない。

おもちゃ箱をひっくりかえして、闘う道具を集めて鬼退治。

荒野を駆ける、創造主。射干玉の疾風。


凡てが眠る丑三つ時に、ただ滂沱の涙。蓮の上の雫のやうに美しく、

此の世の秘密を語るオルゴールの音色は、母の子守歌。

此の腕の中でおやすみなさい。

旅に出ればよいのだ。宿場町を、寝台列車で、電柱警察は夜歩く。

朱い鳥居も呼んでいる。地蔵菩薩も、呼んでいる。

闇を渡り、黄昏を行けば、秘密の秘法を、懐いて眠れる。

終らない物語。ねえ、あなたは、お元気ですか?




螺鈿絵巻には、貝殻の蝶。桜石を、嬰児に握らせてみました。なかなか、石を離さず。

風紋が描く砂丘を、気のままに歩んでいく。旅は楽しい。

海の街を、女の幽霊。

ゆらゆら揺れる日溜まりが、揺り籠のようだ、と、琥珀のような虚ろな眼で見つめている。

秘密の秘法のように、想う。海は癒し、人を呼ぶ。



暗夜行路。白米に混ざる幼い嬰児の乳歯。母の大きなお腹を見ながら牛乳を飲む。

泡沫の揺り籠。鳥籠の赤い鳥。冷蔵庫の中の嬰児殺し。

妖しい黒い影に、鬼やらいの跫。

纏足の娘さんの顔の痣。マントラ模様の瘡蓋。呪い子の祟り。

いつか、いつかとあの世から、呼ぶ懐かしい声。三途の川を、渡りませんか?



鱗雲が、秋深まる。光に群がる薄羽蜉蝣よ。硝子の様な翅。

夢の合間に見る、逆夢に、涙が零れていました。

美しい姉様の頬に、金粉のような埃の煌めき。

くゆる線香香炉に、赤蜻蛉が煙と遊ぶ。

いにしえの呪い札、箱庭で燃やして仕舞った。

呵々と狒々の嗤い声が、先祖を弔う。

黄泉比良坂は、千鳥足で。



廻り燈篭の声だけを頼りに、ボンボン時計の指す深夜十二時半の道端を、裸で踊りまわる。

裸足の足に水晶の欠片が刺さる。さっきまで、金魚を食べていた人魚が首を掴むので、くちづけをしてやった、夜半の月。

月は煌々と輝き、怪は、酔う様に踊る。葬式会場は、此方です。嬰児の吐くあぶくが泡沫となる。



夢のまにまに。黄昏を語る黒マントの男は、夕日を語りすぎて、煙になって消えてしまった。

黄昏は、人を死に誘う。夕べ、豆腐を喰っていたら、懐中時計がグルグル廻りだして、

死んだ父親が還ってきたんです。やけに、空で鴉がぎゃあぎゃあと五月蠅いなと思っていたら。

そうしたら、友達の、ちいちゃんが、亡くなったんですって。妙な訃報が、えにしと重なる。



あの旧校舎の美術室の奥の開かずの扉の中で、昔自殺した生徒。校舎には死体の眠る。

いじめられっ子にしか、花子さんは見られません。

夕暮れ時になると、トイレの後ろから二番目の個室から、綺麗な毬が転げ出てくる。

七不思議を知った子は、神隠しに逢う。凡て、鴉の眼は知っている。



拝啓、先生。蔵の中にあった呪いの藁人形は、燃やしておきました。

先生からの想い出のメモリー。

夢の後先、幽かなともし火。

夕刻の、あの西日に、阿弥陀如来は、潜むと想うのです。

黄昏時の、祖母の背中。

バケツの中の、蛇の抜け殻。宵の灯の中で、

戸棚の中の、白い乳歯が、がたがたと扉を叩くのです。



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