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思い付き短編

作者: 黒イ卵

 瑞々しい桃がひとつ、手に入った。

 これを手に入れるのは、なかなかに骨が折れた。


 伝手を辿り、普段は決して外に出していない桃の産地に直接向かい、あらゆる調査を行った。

 日当たりの良さ、土壌の良さ、昨年までの収穫量、今年の気温など、条件を調べて絞りに絞り、ついに収穫の日を迎えた。

 選び抜かれたその子を、桃の木からそっと捥ぎ取り、布に包んで持ち帰った。


 リビングテーブルの上には、桃。

 表面の皮は薄赤く色づき、産毛が立っている。

 軽く撫でると、意外と固い感触がした。

 お湯に入れた後、すぐに冷水に浸し、ナイフで十字に切れ目を入れる。


 少しずつ皮をめくると、白い実が出てきた。


 桃の柔肌。


 つつう、と舌を這わせ、割れ目の香りを感じた。


 陶酔感に浸り、たまらず、かじりつく。


 馥郁とした香りが鼻を抜け、舌にはとろみのある優しい甘さが広がり、溢れる果汁と共に、喉に吸い込まれて行く。


 ごくん。


 飲み下すと、瞬間、清涼な気分になったが、すぐまた欲しくなる。


 飢えたような気持ちで、またかぶりつき、気付けば顔中、桃の汁と涎まみれで、べたべたとなった。


 桃は綺麗に種だけ残り、面影はどこにもない。


 種を口に含み、舌でカラコロと味わい、ティッシュの上に出し、乾かす。


 ――来年になれば、またあの場所に実をつけるだろうか。


 明日は、この種を庭に植えよう。

 三年待てば、また同じ子に逢えるかもしれない。


 甘い甘い、瑞々しい桃に。

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― 新着の感想 ―
[良い点] わたし個人の考えなのですが、良い作家さんは食べ物の描写や料理の描写、そしてそれを食べるときの描写がすごく上手いと思っています(上橋菜穂子さんのお話とかがまさにそれで、お話もあれだけ骨太なの…
[一言] うふふ。桃は美味しいですよね。夏場になると買いに行きたくなります。 作中の桃のイメージは。 白桃 (だめよ!何を書いてるの!瑞々しい白桃がいいなんて♡)
[良い点] 私も桃とかプラムとかネクタリンとか大好きです。梨も好きですが。 桃はお高めで当たり外れも大きい。でも美味しい桃を口にできた時は感無量。夏だなって感じがします。こんな甘いものを口にしていいの…
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