桃
瑞々しい桃がひとつ、手に入った。
これを手に入れるのは、なかなかに骨が折れた。
伝手を辿り、普段は決して外に出していない桃の産地に直接向かい、あらゆる調査を行った。
日当たりの良さ、土壌の良さ、昨年までの収穫量、今年の気温など、条件を調べて絞りに絞り、ついに収穫の日を迎えた。
選び抜かれたその子を、桃の木からそっと捥ぎ取り、布に包んで持ち帰った。
リビングテーブルの上には、桃。
表面の皮は薄赤く色づき、産毛が立っている。
軽く撫でると、意外と固い感触がした。
お湯に入れた後、すぐに冷水に浸し、ナイフで十字に切れ目を入れる。
少しずつ皮をめくると、白い実が出てきた。
桃の柔肌。
つつう、と舌を這わせ、割れ目の香りを感じた。
陶酔感に浸り、たまらず、かじりつく。
馥郁とした香りが鼻を抜け、舌にはとろみのある優しい甘さが広がり、溢れる果汁と共に、喉に吸い込まれて行く。
ごくん。
飲み下すと、瞬間、清涼な気分になったが、すぐまた欲しくなる。
飢えたような気持ちで、またかぶりつき、気付けば顔中、桃の汁と涎まみれで、べたべたとなった。
桃は綺麗に種だけ残り、面影はどこにもない。
種を口に含み、舌でカラコロと味わい、ティッシュの上に出し、乾かす。
――来年になれば、またあの場所に実をつけるだろうか。
明日は、この種を庭に植えよう。
三年待てば、また同じ子に逢えるかもしれない。
甘い甘い、瑞々しい桃に。