不老不死の不老不死
今日の朝は視線を独占するテレビが多かった、そのはずだ。
妻とリビングで朝食を取っているとニュース番組に不老不死の文字が流れてきた。
馴染み深いには程遠い内容、それでも身近に感じるのはコレが実現したという報道だったからだ。
『良い時代ですね』
妻はまだ若い頬を緩ませる。僕もうむと頷く。
「しかし、反対する人が居るとは驚いた」
新しい技術の賛否はいつものことだが、今回はあまりにも否定的な意見が目立つ。
自然の摂理を超えているという意見、ゆえに脳の限界が訪れ認知症にも似た何かを発症すると語る反対的な専門家も多い。
その人達は決まって若者だ。
「本当に存在するんでしょうか?」
若いと言うのに柔軟ではない懐古主義者こそ病的な存在。
「存在したとしても君には美しく居てもらう、そのつもりだ」
「まあ!」
時代が変われば人が変わる、その時には告白も変わるのだろう。
それから不老不死の提供はすぐに始まった。
注射器で簡単に投薬する、いわゆる死に対するワクチン。
最初は多数が望むものだから、抽選で始まった。
当然ながら運が良いわけではない。
もっと運が悪かったのは息子を名乗る詐欺師に出会ったことだ。
『父さん、久しぶり』
ピンポンに答えて出てみたら、初対面の相手にこんなことを言われた。
しかも年寄りの爺さんに。
「そちらの方が父親かと」
爺さんは黙って僕を見る。少し遅れてその人は言う。
「これを使えば、明日から不老不死になれる」
ピラリと出された紙は抽選に当たった珍しい物に見える。
「本物には見えない」
「……もし不老不死になれなかったら、父さんの家に住みたい」
「な、なれなかったら? そんな賭け、断らせてもらう」
僕は紙をその場で破いて爺さんを追い返した。
ドアを閉めて息を深く吸う。チリンと鳴らないドア鈴を見上げた。
それから程なくして、不老不死の繰り越し抽選が始まった。
何らかの理由で無効になった当選の再分配。
どうせ当たらない。そう思ったら当たっていた。
妻の分も当たっている、神の奇跡に違いない。
妻と相談して先に僕が不老不死になることにした。
「僕に問題がなかったら、君も受けるんだ」
「分かってます」
「行ってくるよ」
「行ってらっしゃい」
僕は病院に足を踏み入れた。
当選の証明と長い注意事項を聞かされ、個室で白衣の医者は静かに語ってくれる。
『既にこの物質を摂取していた場合は、投薬は中止ということになります』
そうかそうかと頷いて医者を見る。
「この不老不死を二回も行おうとした人が?」
「端的に言えば、そうなりますね」
「なんて強欲な人達だ」
その確認をする為に血を少し抜かれ、検査に回された。
「二回も摂取すると死ぬとか?」
「それはないですね」
「じゃあどうして、検査なんかを」
「二回目の人が多すぎたんです」
話を切るように女性の方が検査の紙を医者に手渡す。
そして紙の視線は僕に移る。
『例えば、あなたとか。』