さらば我が家よ
どのくらいこの状態が続いていたのかは分からないが、日が落ちて当たりが闇に覆われるほど時間が経っている事から、少なくとも1時間以上は時間が経過していと思う。微かに聞こえていた絶叫はもう聞こえなくなっている。あの化け物は、街全てを火の海に変えた後何処かに消えていった。何処に行ったのかは分からないが、動かないと寒さで凍えてしまう。未だに震える足を動かして、家へと歩き始めた。
時折聞こえる音が、得体の知れない生物が動いているではと思い、時間がかかってしまったが何とか家に着いた。ドアを開けると、出る前の光景のままでまた涙が出てきた。変わり果てた街を見てきたが、ここはまだ何ともない。蛇口を捻ってみると、量は減っているが水はまだ出ている。空のペットボトルに水を入れてから布団に入った。いつもなら寝付けなくて暫く起きているのに、今日は入って直ぐに寝ることが出来た。
チュンチュンと鳥の鳴く声が聞こえる。窓から太陽を探すと、登り切っていた。体を動かしながら、水を飲んでいると昨日の出来事が夢の様に感じる。アニメやゲームのしすぎで、現実と夢の区別が出来ていないだけだと思いたいが、ズボンから匂ってくるアンモニア臭と泥だらけの手が夢じゃないと訴えて来る。テレビをつけようとしても、スマホの電源を入れても何も映らない。ニュースが入って来ない、アプリを開いても更新されない。蛇口を捻ってみるが、昨日まで出ていた水はもう出てこない。
貯めておいた水で顔を洗いながら、今後どうするべきかを考える。出来ることならこのまま家にいたい。だが、食料も水も多く備蓄しているわけではない。切り詰めても二週間分だけ、後は餓死するか山に行って野垂れ死ぬかのどちらかしかない。この辺の山がどうなっているのか分からない中、素人の自分が入っても自殺行為だ。それならば、荷物を持って何処か安全な場所に避難したほうがいい。それに昨日の化け物が、もしもまたこの辺に現れたら逃げ切れる自信はない。映画でも、立て篭もるかその場に残るを選択したキャラは死んでいた。そうと決まれば行動あるのみ。
水や食料は勿論、着替えやタオル救急セット,充電器,携帯ライト,衛生用品,ライターとマッチも持っていく。本当は精神安定用のゲームや漫画も持っていきたいが、持っていける寮は限られているのでお気に入りの物だけ持っていく。リュックサックに詰めて、小物はジャケットのポケットなどに入れておく。
準備が終わって、部屋やトイレを見てまた涙が出てきそうになる。当たり前だと思っていた光景が当たり前ではなくなった。乗り越えれるかは分からないけど、やれることはやろう。
家を出て、最初に向かうは昨日燃えていた街だ。物資に乏しい今、もしかしたらまだ使えるものはないかを探しておかないと後々辛くなる。あの化け物以外にも危ない生物がいるかもしれないので、注意して行動しなければならない。
何か物資があるかと期待していたが望みは薄そうだ。街は原型を留めておらず、溶けてぐちゃぐちゃのモノが固まっていたりと元が何だったのか判断出来ない。幸運だったのは、あまりの高温と衝撃だったのか人の遺体が無い。比較的原型を留めている端っこの建物の中を探索する。ボロボロの建物ではあったが、キャリーケースとペットボトルの水を発見した。コロコロと音は鳴るが、更に物を運べる様にはなった。複数の建物を探索したところで夜になったので、布団に包まって寝る事にした。寝ていると聞こえて来る何かの遠吠えは、きっと犬なのだろうと思う。
そう思わないと気が狂いそうなる。