8話 中立都市イースフォード②
今回もほとんど説明パートですが、チュートリアルだと思って読んで下さいませ。
少々気まずい空気の中、シエンはラックの言う事も一理あると感じたのか助け船を出す様にゼクサスに話しかける。
「でもよー!ラックの兄さんの言う事は正しいんじゃねーの?
もし本当に俺達にそんだけ大きな使命があるんなら、弱いと……
いつか、どこかで、誰かに殺されんじゃねーの?狙われてんなら尚更……。
そもそも俺達が死んだら、神龍?って奴らの思惑も上手くいかねーわけだろ?だったら、各々強さは磨いた方がいいだろ!って思うんだけど……」
シエンの問いにソラも深く頷いている……
“強さ”という点に関して強く同調している様にも見える。
「私も強くなる………という点に関しては同感ではある。」
そう言いながらも、ゼクサスの鋭い眼光はラックに刺さったままだ……。
ガラハドはまたラックを少し強めに小突くと、部屋の大きさに合わない大きな声で笑いながら話を元に戻す。
「つまりだ!!分かりやすく言えば、我々が鍛えてやる!ということだ!!」
「ガラハド、雑に話を進めるな……。鍛えるのは確かだがそこに至る経緯もある。……クロノス様。」
いつものガラハドのラック甘やかしに少々溜め息を吐くと、冷静な口調に戻しクロノスに言葉をふる。
クロノスは聖騎士三人から子供達四人に視線を戻すと、仕切り直すように再び語り始めた。
「……うむ!先ほどワシが話した中でいくつか重要事があるんじゃ……。
一つ、各王が認識しておるのは20年後にお前さん達をこちらの世界に戻すという事
一つ、各王は現状を知っておらん………それは“大罪“が隔離世界に押し入ってきた事もじゃ。
一つ、ワシはまだ各国にお前さん達の現状を伝えるつもりはない……
一つ、15年前より状況が悪化しておる。と言ったが実のところ3つの国と連絡がとれん状況にあり、無事かどうかも定かではない。……という事じゃ。」
少々混乱気味のダイチが少し心配そうにしている……当然だろう。
連絡のとれない国のうちのどれかは、もしかしたら自分とソラの母国かもしれないのだから……
「そ、その……僕たちの事を伝えるつもりがない……って言うのはどうしてですか?」
「……残りの五人の安否がとれておらんからじゃよ。分かりやすく説明すると、権力と権限を持った王子が三国しかない場合、残りの五つの国は、当然疑いにかかる。もともと全ての国同士の仲が良いものではない……。
愛子を渋々差し出しているにも拘わらず、自分達の子だけ帰ってこぬ場合の結末は………。あまり平和的な結末にはならんじゃろうな……。まあ………もう一つ理由はあるんじゃが。」
そこまで言うと、クロノスは少々口を重くする……。
クロノスの心中を察したのか、ゼクサスが静かなトーンで口を開く……
「安全ではないからだ!どこの国も、この世界自体も……。
ケイオスが増長しているせいもあるが、さっきラックが軽口を叩いた様に……。“大罪”の連中や“20の魔人”の存在、ケイオスが力を与えた王達の存在……
いずれも【平和そのもの】を望んでいない連中は多い。
その中心にいる大体の奴等は、神龍の常軌を逸した力を目の当たりにしているだろう……
それに加えて“加護”を受けているお前達の存在は、混沌を望む連中からすると驚異なんだろう。
今は未だ、神龍という驚異を牽制して息を殺して様子を伺っている連中が多いだけだ……言ってしまえば、現状はまだ始まりに過ぎない。神龍達がこのまま静観を続ける様だったら、今後より厄介な奴等が好き勝手し出すかもしれん。
簡単に言うと、平和を望んでいない側に見つかれば……。十中八九お前らを殺しに来るだろうな。だからこそ”弱い希望の存在”など今は知られるべきではない!……分かるか?」
ダイチは淡々と話終えるゼクサスを見つめながら、ギュッ!と目を瞑ると、唸りながら顔を上下に動かし出す。
「うーーん。………分かりはしましたけど。」
急に理解したように、パァッ!!と明るい表情になると
「ゼクサスさんって……。口悪いですね!!」
想像していた回答とは斜め上からの発言にガラハド、ラック、クロノスまでもが吹き出す。お口チャックも思わず外れ高笑いしながらラックが涙をこする。
「着眼点そこかぁー!はぁー。お腹いたいなぁ……腹筋つりそうだよ。」
ダイチの唐突な突っ込みに、ゼクサスは舌打ちしながら眉間にシワをよせると、両腕を組みながら後ろを向いてしまった。流石のソラとシエンも苦い顔をしている……
「お前なぁ……」
ダイチはハッ!とした顔をして焦りながら訂正する。
「あっ!間違えました!!………いや、その、何でわざと口悪く言うのかなって思って。………まるで突き放したいみたいに。心配してくれてるなら、そう言えばいいのに……って」
「ま、まぁ、なにわともあれじゃ……。今はこの世界に慣れ、学び、備えることじゃ……。今回、クラウンのみがお前さん達の所に来た事を考えても、ケイオスも今は未だ動けん状態であるとみていい……。
強くなる事も、決意を抱く事も大事じゃが、お前さん達にとって多くの事がいっぺんに起こりすぎておる。少しゆっくりとして、心を落ち着かせ整理するとよい……」
離れ離れになってしまった五人は、髪の色と名前とおおよその背格好………
そしてユウマが書いた個性と特徴を上手く捉えた可愛い2頭身似顔絵という、他の3人も
「……似てる!」
と笑い転げるほどの力作を頼りに“クロスナイツ”の部隊で捜す事になった。四人のおおよその暮し方は、クロノスから生活に必要なお金や物資を援助してもらうという形になり、とりあえず2年は騎士団で、生きぬく強さを身につけるという事になった。
~ 魔導の演習場にて ~
ズドンッッ!!!
という轟音と共に大地が揺れ、周りの訓練生と上級生……。また、指導者達はその轟音の原因となる青髪の少年を見つめ唖然とする。訓練を取り仕切るゼクサスもその光景を見ながら、額に一筋の汗が流れる。
「……凄まじいな。」
当の青髪の少年はというと……。
「うわぁぁ!!ご……ごめんなさい!!ホントにごめんなさい!!また……ゴーレム壊しちゃった。」
とにかくテンパっていた……。先程大破された訓練用ゴーレムの後ろには既に10体以上華々しく散った後がある……
「……おい!あれ、強度マックスのゴーレムだろ?あれで何体目だ??どうなってんだよ……あいつの魔力。」
周囲は少々引き気味にざわつく。
「いや、そもそも水属性って威力重視型じゃねーだろ……」
その声に反して上級生お姉様達は、可愛い顔に反したユウマの乱暴魔力にキュンキュンしていたとか……
シエンは普段人前で見せない優しい笑顔でそんなユウマを見ながら、自身も炎属性コントロールの鍛練に励んでいた。
この世界に来て二週間程経過しているにも拘わらず、未だ属性開花の兆しがないダイチは、体の内側で眠っている魔力を練り上げ外側に出す訓練をしながら、何故かニコニコしていた……。
一方“特別で神龍の加護を受けた王族で双子”のもう一人の少年はというと、今日も順調に演習場の片隅で寝坊の罰による正座をさせられていた……
当然、属性開花はしていない様子である。
この世界には13の属性が存在する……
世界はその13の属性によって構築されており、またこの世界で生きる生物はその属性のどれか、ないし基盤となる属性から稀に派生した属性に附随した魔力を固有しているとされている。
1…炎
2…水
3…土
4…雷
5…風
6…木
7…氣
8…毒
9…重
10…光
11…闇
12…聖
13…無
<派生属性>
氷……金……冥……etc
また1人に1つの属性しか宿っていなく、宿される属性は遺伝子や環境などが強く関わるとされているが、明確な要因は解き明かされてはいない。複数の属性が宿される事は、まず無いとされており……その様な例もない。




