7話 中立都市イースフォード
気持ちの良い朝……
静かな小鳥のさえずり……
カンカンと鈍く鳴り響く音……
忙しなく急かすダイチの声で起こされるのが、いつの間にか日課になってしまった……
「……ソラ!ほぉら!いつまでも寝てないで起きて起きて!!」
「……ムリ~!………まだ眠い~!!」
容赦なく布団を剥ぎ取られて床に転がる……。これも、最近では日課になりつつある。
「……いっってーなーーもう!!
毎朝、毎朝、何でこんなに早く起きなきゃいけないんだよ!」
「何で?って、朝の訓練のためでしょ!!ほら!また遅れると僕まで怒られちゃうんだから早く着替えて着替えて!!」
ダイチは雑にソラの服を脱がす。
「ダイチ~!ソラ君~!一緒に行こー!」
ギギ……と、鈍い音を立てながらドアが開くと、訓練着に着替えたユウマが顔を覗かせる。
「……わ!……あ。……な……なんかごめんね…………。」
パンツ姿まで服を脱がせているダイチを見て、ユウマが無駄に顔を赤らめてドアを閉める……
「つまんねー反応してんじゃねーよ!」
ドアの向こうから頭をはたく音と共に、シエンの声が聞こえてくる……。強めに開けられたドアがまたも鈍く鳴る。
「………はぁ。ダイチ、俺たち先行くわ!」
寝ぼけたソラを見て、軽く溜め息を吐くとシエンはスタスタと行ってしまった。
「あ……。じゃあ、僕も先に行ってるね!!」
「くぅっそーー!なんて薄情な家族達だ!!ねぇ~!ソラお願いだから起きてよぉ~!!」
「………グゥ。」
俺達がこの世界に来てから一週間程の時間が流れた。
クロノスのジイさんの話は小難しくてよく分かんなかったけど、どうやら俺達は“特別”で……
しかも神話と言われていた奴らの“神龍の加護”ってのまで受けてるらしい……
世界を混沌?にするつもりの混沌ジジイに命を狙われてるらしいけど、そんなの関係ねーぜ!何故なら俺は“特別”なんだからな……
「オイッッ!ソラ!!ペースが落ちてるぞ!!ニヤニヤしてないでもっとシャキッとやらんか!!」
すかさず、聖騎士ガラハドの怒号がソラに刺さる。
「………ヘイヘイ。……分かりましたよ!」
“神龍の加護”を受けた少年は、訓練所の端で石の塊を頭上に抱えたままスクワットをしている……そんな少年の事情を知らない、同じ訓練生達は指を差し笑っていた。
「チッックショーー!何で特別で選ばれし神の加護を受けた王族の俺がこんな事してんだよーー!!」
クスクス笑われているソラを心配そうに見ている、もう一人の“特別“な少年ダイチはというと……
「ソラ……。だからあれほど言ったのにぃ~。」
ガッッッ!!
余所見をするダイチの握る木刀に、聖騎士ガラハドの木刀が力強く叩きつけられる。
「余所見をするとは余裕だな!!訓練といえどもっと集中せんと、俺の太刀を受けたら大怪我をするぞ!ダイチよ!!」
鈍い音が凄まじい勢いでダイチの木刀に叩き込まれる……
「わっ!わわわぁ~~!!」
受けきれなくなったダイチはガラハドから背を向けて逃げ出す。
「シエ~~ン!助けてぇ~~!!」
ガラハドは深く溜め息を吐くと
「フハハハ!逃がさんぞーー!!」
と、その巨体で大地を揺らす程の凄まじい勢いでズドドド!と追いかけてきた!
他の訓練生と稽古をしていたシエンは呆れた顔をすると、自分の方へ向かってくるダイチに向かって自らの木刀を投げる……
「ほらよっ!」
投げられた木刀は回転しながら、弧を描いてダイチの方へ飛んでいく……
「わ~!ざつぅ~!!でもありがと!!!」
足を止めると、真後ろまで来たガラハドの方を向く……
「ム!諦めたか。さぁ、一本とって終わりだ!!」
振り下ろされる剛剣を左手の木刀で地面へと受け流す……
ズドンッ!とガラハドの木刀は地面に突き刺さる……
ダイチの左後ろから飛んできた木刀を右手でキャッチすると、その勢いのまま突き刺さった木刀めがけて叩きつける。
バギャッ!と鈍い音をたてるとガラハドの木刀は真っ二つになっていた……
驚いた表情のガラハドに、ニコッ!と笑うダイチ……。左手の木刀でガラハドの巨体をちょこん……と小突く。
ニコニコしながら
「一本!!……ですね?」
他の訓練生は稽古の手を止め、呆然としていた……
訓練生のざわつきをかき消す様に、ガラハドが大きな声で笑い始めた。
「あぁ………実に見事な一本だった!!可愛い顔をして、実に恐れ入ったよ!!」
笑いながらも、両手の痺れに常人離れした威力を感じるが、ガラハドは嬉しそうに笑っていた。
訓練所の端で悔しそうにスクワットをする“特別”な少年は、一人目立つダイチを見て叫んでいた……
~中立都市イースフォード~
その名の通り、王族もおらずどこの国にも属さず、基本的には独立した立場にある。
中立しているからこそ、他国とのしがらみが少ない。イースフォードは商いが盛んであり、国でないからこそ外交が盛んな街とされている。
この街を治めているのはクロノス……
戦争を嫌うクロノスだが、他国にモンスターや魔人が攻めてきた際には協力を惜しまず、クロノス率いる“騎士団~クロスナイツ~”はその武力の高さと、困った時はお互い様の精神による、他国の危機的状況回避に一役も二役もかっている為、他国の王達からも容認されている。
しかしながら、その戦闘能力の高さ故に危険視している国も少なくはないという……
~ 一週間程前 ~
「つまり、俺達が八つの国の王様になって、戦争のない世界にしましょう!って事?そんでもって世界を混沌?にしようとしてる奴を倒して下さい!ってこと?」
なんだが、突飛な話に少し笑ってしまうソラは、いまいち信じきれず、少し疑心暗鬼の様子……
「まぁの、簡単に言ってしまうとそういう事になるじゃろうなぁー。じゃが、ケイオスの事は少し切り離して考えてくれて構わんよ……。
お前さん達は確かに神龍の加護を受けておる。しかしながら、現状、お前さん達より強い者達は数えきれん程おる……
一番重要な事は、お前さん達の深い絆の方じゃ!各国が手を取り合い世界を保つのがワシの……いや、神龍達の願いじゃとワシは思っておる。
力でねじ伏せるのは簡単な事じゃ……。しかしながら、それで築き上げられた世界は仮初めのものでしかない。本当の平和というものは心を通わせる事じゃ……
人が人を想い、人と人とが手を取り合い進んでいく事……」
少々説教じみてきたところで、笑いながらラックが話を遮る。
「でもジジ様?結局は鍛えるって方向性なんでしょ?王になる前に死なれても困るし……」
ラックの言い方にすかさずガラハドが注意する。
「言い方が悪いぞラック!!」
「はは……お師匠、すみません。でも、統治する為には多少の実力と華は必要だし……この世界には悪意と敵意が多すぎます!それに驚異的な“7人の大罪“や“20の魔人”の存在……。
結局、国を治めるっていう、王が弱いからこの前みたいな……」
ラックが淡々と話しているとゼクサスが声を荒げる。
「ラック!!!………少し黙っていろ。」
強く睨みをきかせるゼクサスの顔を見て、かなり焦った様子で謝ると少しばかり……やってしまったという顔をして、指でお口チャックの動作をすると黙ってしまった。
ガラハドは呆れた顔をしながらラックの頭に重めの拳骨を落としている……
ラックから視線を外したゼクサスは一瞬、重めの拳骨に苦笑いをしているシエンを見る……
(?)
ソラだけがその様子を見ていた。
ゼクサスの顔が少し悲しそうだったからだろうか……何かが引っ掛かる気がした……。