3話 道化師はけたたましく嗤う
子供達はそれが雷によってなのか、それとも別の何かが原因なのかは分からないが、大きな音、大きな衝撃で声をあげながら吹き飛んだ…
どうやら原因は別の何かのようで、それは甲高く……薄気味悪い声で喋りだした。
「いヤぁ~~!もしかしてモシかして、モ、シ、カ、シ、テ!!
ゼッつみョォォ~な、たァァイミングで間に合っちゃッタノかなァ?」
崩れ行く建物が土煙を巻き上げる中で、うっすらと見える異質で大きな存在は腰を曲げ、くねくねと体を揺らしケタケタと嗤う……
その嗤い声が、空気、地面、子供達の体をビリビリと圧迫させる。
倒壊の衝撃で子供達は吹き飛ばされ、床に転がっている。急な衝撃によって体を床に叩きつけられた子供達からは、痛みと驚きの声が漏れている。
屋根がなくなり、すっかり景色の変わった礼拝堂の床に、雨が強く叩きつけられる。雨音と共に土煙が徐々に晴れていくと、薄気味悪い声の持ち主の姿が露になった。
「あれ……?アレあれアレェェ~~??おどろいた?オドろかしちャった??驚いてビックリしちゃッッたよねぇ~~??
ごめんネ、ゴメンね!!
ボォォク凄く急いでたんダ!許しテくれるよネ?……ね、ネ??」
その存在はケタケタと嗤い続ける。
頭から足の先まで覆われたカラフルな服……頭からは長い触覚の様なものが二本伸び、途中で折れ曲がっている。2メートルは余裕で越えている、ピエロの様な格好をした“それ”は、異質としか言いようがなかった。
見て分かる異質さと“それ”から放たれる、禍々しく並々ならぬ威圧感で子供達は声が出ない。そんな様子も気にせず“それ“は陽気に喋り続ける……
「あのババアァ~~スッッゴク!強い結界張っテるからサァ!こノ15年間ずっとズッットずぅぅッット待ってたンダヨ?ボクがここに来れたってコトは、アのババァちゃんと死んだ?ネェネェ死ンダんだよネ?ネ?ネ??
まぁ、本体を直接や殺ったノはボクだから死ってるんだけどネェ~。??。
みンなァァ~?ダマッちゃっテどう死たの?
!!。アッッッ!そっか!ごめんネ!!」
クネクネと動く“それ”は、手からポンッ!ポンッ!と、カラフルなボールを出しジャグリングを始める……すると慌てた様子で急に自己紹介を始めた……
「ボクの名前ダヨね?ネ?改めまして初めましてそしてサヨウナラ!!“希望の子供達”それとも“絶望の子供達“って呼べばいいのかな??ボクの名前はクラウン・デッドへルだよ。
皆はボクのコト“強欲”のクラウンって呼んでるんダ!!
キミタチを……………殺シにキタヨ。」
クラウンはケタケタと嗤う。
状況を飲み込めない子供達は恐怖で戦慄する……
「な、なんだよっ!!急に現れてなんなんだよ!お前!!」
クラウンから一番近い位置にいたシエンが恐怖を超え憤る。
「ン……?オマエ……??いまお前、ボクのことオマエってイッたの??
ボクね、ボクねボクネ、生意気なガキ、ダあァァいッッ嫌いなんだヨねェ~~~!!オマエから死ンじゃえ!!!」
異様なほど目を見開き、甲高い声を響かせると、クラウンはジャグリングしている無数のボールをシエンめがけて勢いよく放った!動けず立ち尽くすシエン……
連続した衝撃音が響き、爆音と共に衝撃波が一体を蹴散らす!
破壊と衝撃で土煙が舞う……するとすぐにクラウンが手応えのなさに気付く。
「……!?……じじぃィィぃィィ!!」
クラウンは目を細めて唸る様に叫び声を上げる。シエンが強く閉じた目をゆっくりと開けると、自分の前に一人の老人が立っており、老人の頭上付近には二つのランタンの様なものが浮いていた。地面は老人と子供達の下を円上に残し、それ以外が跡形もなく消し飛んでいた。老人は高らかに笑いながら口を開く……
「お喋りが過ぎたのぅ……強欲。」
「まァだ生きテたのかよ!コノ死に損ないの老いぼれガぁぁ!!」
「ほれ!お返しじゃ!」
怒号を上げるクラウンを中心にし、地面に大きな魔方陣が光を放ちながら浮かび上がる。すると突如大きな火柱が、空から降り注ぐ雨と、湿った空気を燃やす低い音と共に巻き上がった……
雨で溜まった水分が激しく蒸発し、辺りは水蒸気と熱気で包まれる中、老人が子供達へと声をかける。
「その珠を拾いなさい。」
そう言われ、珠の一番近くにいたダイチは、考える余地もなく言われるがままに珠を拾う。ダイチが珠を拾った瞬間、珠から九色の光がほとばしり、子供達を優しく包み込む。
「ざぁぜルかァァあぁァ!!!」
水蒸気で姿の見えないクラウンの叫びが場を包み、その刹那、ダイチが立つ地面を割って、禍々しいオーラを纏った無数の黒いボールが光る珠めがけて勢いよく飛び出した。珠の割れる音と共に光が消える。
光が消えると、その場には怒号を上げるクラウンを残し、老人と子供達の姿は消えていた。
「ヤりやがったなァ~~ジジィィ!!」
クラウンは目を細めたまま唸るが、暫くするとケロッとした表情に変わり、静かな声で呟く……
「まぁ…………向こうで殺せばいっか。」
不気味な表情を浮かべながら、ピエロはけたたましく嗤った。