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白黒物語~2人と7人の主人公~  作者: 天然パ~マ
第一章 物語の始まり
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2話 平和な世界②

 朝だと言うのにやけに暗く感じる…


 女の子達の寝室に9人の子供達……

 15年間育ててくれた母親は、最愛の子供達9人に囲まれ、まるで寝ているだけの様な面持ちで死んでいる。


 外傷はどこにもなく、どこか笑顔にも見える表情から、現実を受け入れる事ができない。

 明かりを点けていない部屋は朝に反して暗く、9人の心を現している様にただ、ただ………暗い。

 家に叩きつけられる雨音、一層煩く鳴る雷の音が部屋中に響き渡る。

 静かに沈黙を破ったのは、今にも消え入りそうな声のモモだった。


「……朝、山菜を一緒に取りに行く……約束をしてたの。……起きたら……ママはまだ寝てて………」


 涙と鼻水を袖で拭いながらモモは続ける。

 皆はルーインから目をそらさず、静かにモモの話に耳を傾ける。


「……ママ……いつも早起きだけど……今日は疲れてて少し眠いのかな…………って思ったの……でも30分くらいしても起きないから……」


 モモの言葉が詰まる。

「ママ、起きて……って…………体……を……」


 圧し殺していた感情が一気に押し寄せてきたのか、モモは声をあげながら、ルーインに被さる様に泣き崩れてしまう。


「どれだけ声をかけても、揺すっても、ママが起きないから、変に思ったモモがアタシを起こしたんだ……」


 モモの両肩をそっと抱き締めながらリンが口を開いた。リンは真っ赤になった目を皆の方に向け、話を続ける。


「手を………胸においてみたんだ……」


 リンの顔から、ふと笑みが溢れる……


「だってママ、いつも寝相が悪いのに今日は真っ直ぐ寝てるんだ……。

 しかもさ、両手をお腹の上に組んじゃってさ。ふっ……まるで神様にお祈りしてるみたいに。」


 静かに涙がリンの頬をつたう……


「心臓、動いてなかったんだよ……」


「意味わかんねーーよ。」


 まだ実感がないソラはルーインを見ながら呟く。不思議と涙が出ない……


「ここにいる皆、意味なんて分かってない……」


 強く拳を握り、歯を食い縛りながらシュウが言葉を返した。

 ソラがシュウの方へと目を向けた時、ふと気付く。シュウが立っている、少し後ろに置かれたルーインの机の上。

ソラはゆっくりと机の方へと足を動かす……


 木材で造られた床の軋む音が部屋に響いた。

 ただ呆然としていた8人は、急に歩き出したソラへと目を向ける。

 ソラはシュウの横を通りすぎ、机の前で足を止める。


「………手紙」


 机の上に置かれた封筒を手に取り、ソラはおもむろに呟くと、心臓が強く脈打つの感じた。封筒にはルーインの文字で一言……


 “みんなへ”


 逸る気持ちを抑えながら、ソラは封筒を開けようとするが、手が震えて上手く開ける事ができない。


 床の軋む音が聞こえる……

 スッ……と、ソラの両肩にダイチが手をかける。


「……ソラ。」


 ダイチの方へと顔を向ける……

 ダイチの顔は悲しみと不安に溢れている。

 その表情が不思議と心を落ち着かせた。


「うん。」


 頷くと、ソラはゆっくりと、でも力強く封筒を開いた。

 大好きな母の、死の手がかりがあると信じ……



 “みんなへ”



 予定より、五年早くなってしまったけれど


 皆とお別れの時が来てしまいました。


 本当は、その時が来たら私の口から全てを話すつもりでした。


 でも、時間がなくなってしまったの


 本当にごめんなさい。


 これから先、とても辛い想いをする時もあるかもしれません。


 真実と宿命を知って、苦悩する子もいるかもしれません。


 それでも


 それでも私は最期まで皆が仲良く、これまでみたいに、笑いあって過ごせる事を切に願っています。


 困った時


 辛くなった時


 悩んで決断を下せない時


 どうか、私と共に学んだ事が少しでも皆の役に立つ事を心から願っています。


 皆のお母さんになれて、私は本当に嬉しかった。


 ダイチ


 ソラ


 ユウマ


 シエン


 シュウ


 リン


 モモ


 エレン


 ハル


 愛してる。


 礼拝堂へ行きなさい。



 カサ……

 ソラは震えた声で読み終えると、机の上に手紙を置いた。

 ほとんどの子供達に、手紙の意味なんて分かる由もなかったが、不思議と誰も言葉を発する者はいなかった……


 俯くハルが立ち尽くす皆を一瞥する……


「礼拝堂へ行こう……」


 いつもと違って、ハッキリと声に出す。

 子供達はベットで手を組む母を見ると、各々がその眼に母の姿を納め、礼拝堂へと足を運ばせた。


 黙って部屋を出る者


 ルーインに向かって名を呼び部屋を出る者


「ママ……少しだけ離れるね」と優しく顔を撫で部屋を出ていく者


 動けずいるが手を引かれ部屋を出ていく者


 シュウだけが、ルーインの側から離れれずいると


「……シュウ、行こう。」


 ハルが背中に手を当て促す……

 拳を強く握ったままのシュウは、足取り重く部屋を出る。



「ママ……愛してるよ……」



 最後に部屋を出たハルの声が、静かに部屋に響いた。





 最後に礼拝堂へ入ったハルは、祭壇を囲む皆の中に混ざる。

 皆の不思議がる言葉を聞き、ハルは祭壇へと目を落とす……


 そこには今まで置いてなかった、見た事もない透明な珠が置かれており、それはどこか吸い寄せられる様な異質な存在感があった。


「……なんだよ……これ?」


 皆が思った疑問を一番に口にしたソラに対し、合わせたようにダイチが言葉を続ける。


「分からない。でも……こんな珠見たことないよ……」


 ソラが珠へ手を伸ばしかけたその瞬間……



 ドンッッッ!!!!

 と、大きな爆発音と共に部屋の屋根が激しく倒壊する……

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