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白黒物語~2人と7人の主人公~  作者: 天然パ~マ
~中立都市編~
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12話 シエンの物語②

 シエンが目を開けると、三人とラックが心配そうな顔で近づいてくる。周りを見渡すと自分の近くに人がおらず、少し遠い位置で訓練生達がざわつきながらこちらを見ているのが伺えた……


「お!なんだなんだ?」


「なんだじゃないよ!シーちゃん一人だけずっと戻ってこないから、僕達凄く心配したんだからね!!」


 ユウマは涙目でシエンをみる……


「え?いや………俺そんな長かった?」


「うーーん。長いっていうか、長すぎ……かな!とりあえず大丈夫かい?」


 ラックは心配しているが、どこか警戒している様にも見えた。


(明らかに気配が変わってる。……なんだ?圧力感?それに背筋が凍るような気配……やけに禍々しいな。)


 ラックの表情をみてソラが茶化す様に騒ぐ。


「お前………長すぎだよ!そんでもって派手すぎだよ!!

 あまりに派手だったから、ラックさんなんかすげー怖い顔して『宿せ!』からのお前に槍向け……からの雷バチバチ!!でお前のこと殺す気満々だったんだからな!!」


「おいおい……マジかよ……。」


 シエンが若干引き気味に笑っていると、ソラの語弊を生む言い方にラックはかなり焦りながら訂正する……


「ちょ……いやいや!ソラ君!?言い方が悪すぎるよ!

 シエン君!………ほ、ほら!俺の暴走の例があったからさ!ね?

 殺す気だったんじゃなくて、いざという時に止めれる様に……ね!」


「はは………分かってるよラックさん。」


 何故かホッとしたソラと、慌てるラックの後ろからヒョッコリ顔を覗かせるとダイチがキラキラした目で興味津々に聞く。


「ねぇねぇ!それでシエンは何を選んだのさ??」


 シエンは瞬間的に頭を働かせる。


「ん?あーっと。まぁ、内……緒かな……」


(多分、ここで言わない方がいいよな……)


 流石のシエンも情報の整理と状況を把握しなければいけない事が多すぎて、頭の回転が追いつかなかったようで………ニッ!!と、とりあえず満面の笑みをこぼして誤魔化す事にした。


 ソラは黙って見てる……


 ユウマは一瞬不安な顔をする。が、すぐに笑顔で繕う……


 ダイチは悔しそうな顔をしながら駄々をこねている。


「なんだよそれぇー!ズルいよぉ!一人だけ習得しといて内緒なんて、相変わらず格好つけすぎだよー!」


 シエンはダイチを見下した顔をする。満面の皮肉な顔にダイチはますます駄々をこねる。


「見せて見せて見せてーー!」


 ズイズイ来るダイチの頭を押さえつけながら、シエンはソラとユウマを見る。


「で?お前らは?」


 ソラは左上を見ながら口に手を当てがう……


「ん?俺は……まぁまぁかな!」


「まぁまぁ……ってなんだよ!」


 シエンは笑いながら続ける


「お前の事だから強そうなの一個もなかったんだろ!」


 ソラはぐらかしながらユウマに話をふる。


「俺よりもユウマはどうだったんだよ?」


「え………僕?その、僕は……もう少し慎重にいきたいなって。」


 ユウマらしい回答にシエンはホッコリすると、ユウマの頭を両手でクシャクシャと掻き回す。


「はは……お前らしいな。それで良いと思うぜ?今は焦らず、色々とこの世界を見て判断すれば良いよ。

 きっと、ユウマにはそれが一番合ってるよ。」


 ……その言葉は、まるで自分自身に投げかけている様だった。



 ~ ユウマとシエンの部屋にて ~


 一日の訓練が終え、夕陽が部屋を赤く照らす……。

 部屋には、四人が二つのベッドに二人ずつ腰掛けていた。その顔はどこか神妙な面持ちだった。


 何故か気まずい空気の中、シエンが口を開く。


「なぁ?聞いて良いか?ラックさんが言ってたけど、お前ら三人も長かったんだろ?神龍出てきたか?」


「え!………やっぱり皆の所にも出てきたんだね!」


「神龍?」


「は?なんだよそれ!」


 どうやら、神龍と話したのはシエンの他にユウマだけらしい……

 ダイチとソラは意味が分かっていない様だった。


「そうか……」


 シエンは少し顔を曇らせる……


「え!なになに?お前ら神龍と会ったのかよ?」


 ソラがズルい!と言わんばかりの顔で食らいつく。


「まぁ、正確には話した……だな!姿は見えなかった!揮昌石を通じてきたんだとよ……

 俺のとこには炎龍フレイムラッドってヤツが来たよ……。

 そいつ(いわ)く、加護を受けているから通じれたらしいぜ!って事は、ユウマは水属性だから水龍……と話したのか?」


 シエンの問いに少しだけ間を置くユウマ。


「……うん。」


 どこか浮かない顔をするユウマを見て、ダイチとソラに話を切り返す。


「まぁ、ユウマは水龍と話してたから分かるとして……で?

 お前ら双子組はなんで長かったわけ?」


 ダイチが勢いよく話し始めた。


「それがね!聞いてよぉ~!僕、選べるスタイルが100個くらいあってね!気になるの見てたらかなり時間かかっちゃって………

 凄くない?才能の塊だねー!!」


 あまりの数に三人は驚きを隠せず声をあげていた!

 当の本人は飄々(ひょうひょう)と話を続けている………


「あんまり多いから目を通すのに時間かかっちゃったんだよね!

 まぁ、70個くらいは戦闘系じゃなかったんだけど……

【彫刻師】【生物カウンセラー】【飛空艇操縦士】【豆の木開発者】とか面白そうなの沢山あったな~」


 ソラが羨ましそうに聞いているが、シエンは自分の聞きたい事から脱線しかかっていた為、すぐに話を遮る………


「んで?30個くらいは戦闘用のスタイルがあったんだろ?なんで選ばなかったんだ?」


「あーー。それが【ソードマスター】っていうのにしようと思ったんだけどね!止められちゃって……」


「ソードマスター!!」「止められた?」


 ソラとシエンは同時にリアクションをするが、着眼点が全く違っていてダイチは笑っていた。シエンはため息を吐く……


「ソラ、ちょっと静かにしてろ!」


 ソラはブーブーと文句を言っている。

 シエンは気にせず話を戻す。


「誰に止められた?内なる自分か?」


「うーん。なんか、違うと思うんだよね。

 何て言うか、表現しにくいんだけど、僕って感じはしなかった。

 ただ……


『ダイチ、まだ選ばない方がいいよ。とっておきの力が君の中に眠っている。条件が揃うまでは選ばない方がいいよ。

 その時が来たら、今度は俺の方から君に会いに行くから。それまで技と力を磨いておいてほしい。必ず助けになる力だから。』


 そんな感じで言われてね!じゃあしょうがないね!って感じで……」


 シエンは少し考えると、次はソラに聞く……


「ソラは?」


 ギクッ!と反応するとゴニョゴニョしだした。


「…………った。」


 よく聞き取れず、シエンはもう一度聞く……


「悪い!もう一回言ってくれ!」


 ソラは頭を掻きむしるとヤケになったのか、でかい声で叫ぶ。


「だぁかぁら!なかったんだよ!!1個もなかったの!!!」


 三人は固まり、暫くすると腹を抱えて笑いだした。


「ぶっ!ははっ!お前マジかよ!」


「さすがソラだねー!期待を裏切らないなー!!」


「……ふ……ふふ。はぁー。ごめん」


「だから嫌だったんだよ!

 ってかダイチが100個で俺が0って、才能片寄りすぎだろ!ヘタか!!」


「男の大きさも全然違うしな!」


「そこはかんけーねーだろ!!ってか股間見んな!!」






 ソラは嘘をついた。






 本当は0ではなかった、1つだけ……1つはあった。

 でもそれは、非情で、怖くて、意味がわからなくて、考えられないものだった。

 ソレの詳細には一文だけ記されていた。



✕✕✕✕✕✕(✕✕✕✕✕✕✕)


 ・✕✕✕✕✕



「はいはい。俺の事はもういーだろ!で?ユウマは?」


 ユウマは少し間を開けると笑顔で答える


「……僕は10個くらいだったかな。でも……もう少し慎重に考えたかったから。」


「そっか、まぁ0のこいつよりは全然ましだろ?ユウマは慎重に選べばいいよ!

 何せ一生を共にするってラックさんが言ってたしな!それってつまり自分の生き方が固まる様なもんだろ?むしろ、俺は急いで決めすぎたのかもかもねーな!

 って事で!風呂の時間だろ?準備して行こーぜ!」


 シエンに促されダイチとソラは部屋に戻る……

 ダイチはソラの頭を撫でながら慰めていた。


 バタン。と、木で作られた扉は少し重めの音を出し……


「………なぁ?」


 シエンが静かに口を開く。

 ユウマはシエンの方を見るが、窓から射し込む赤く燃える太陽の光でシエンの顔がよく見えない。


「お前。……なんか隠してるよな?」


「……え?」


「誤魔化すなよ?俺はお前の嘘だけは分かる……」


 ユウマは少し戸惑いながら黙る。


「水龍と何話した?」


「い………言えない……」


「どんなスタイルがあった?」


「色々だよ。」


「例えば何かって聞いてんだよ!」


「だ……だから色々だって!」


「なんで隠す!?」


「別に隠してないよ!隠してるのは……隠してるのはシーちゃんでしょ?」


「……何がだよ?」


「僕もシーちゃんの嘘だけは分かるんだよ?シーちゃん……何か悩んでる。」


「……別に何も悩んでねーよ!俺は自分が選んだ力を周りにひけらかしたくねーだけだ。」


「分かった!じゃあ、ひけらかさないで僕に見せてよ!!」


「なんで怒ってんだよ?」


「怒ってるのはシーちゃんでしょ?」


「別に怒ってねーよ!

 俺は……俺はただ……お前は優しいから、お前には何も背負ってほしくないだけだよ!……お前には辛い思いしてほしくないだけだよ!」


「そっか……シーちゃんは何かを背負ってるんだね?それは……とても辛い事かもしれないんだね。」


 シエンは黙る。


 外からは剣術の訓練をしている上級生の声……


 訓練生を猛烈指導しているガラハドの怒号……


 楽しそうに笑って話している女の子達の声が聞こえてくる………


 あっという間に夕陽は沈み、部屋を暗く仕立てる。



「……誰かがやらなきゃいけないんだよ。」


 シエンはか細い声で呟く。

 その言葉を聞き、ユウマの嫌な予感が的中する。


 ユウマの選択の一つ。


最高主教(アークビショップ)


 ・裁く ※断罪者・処刑人・信仰者が咎堕ちしたした時、滅する力を持つ※

 ・赦す

 ・浄化

 ・加護

 ・縛る


 ユウマが水龍と何を話したのかはまだ分からない……

 ユウマの勘はよく当たる。いつも悪い方向に……




 ドアが重苦しい音をたてるとダイチが部屋に入ってくる。


「さっ!準備完了したよ!今日もサッパリしに行こー!!……あれ?まだ準備してないの?」


 シエンは間のいいダイチに少し感謝して黙って部屋から出ていく……



 ~ 浴場にて ~


 城内にある浴場には、疲れた体を癒すべく沢山の訓練生が風呂に入っていた。少し気まずいユウマと、何も考えてないダイチはまだ体を洗っている。


 早々と浴槽に浸かっているソラとシエン……


「なぁ……ソラ。もしこの先俺が死ぬ様な事があったら……そん時は……ユウマの事、頼むな。」


 ソラは少し驚いた顔をするが、シエンの顔を見ると茶化す事はせず、真面目な顔をして了解する。


「あぁ……。分かったよ……」


 ソラは勢いよくお湯からあがると、辛気くさい顔をしているシエンの頭を叩く。


「お前がバカだって事がよく分かったよ!」


 シエンは急に叩かれ、頭を押さえながら文句を言おうとしたが、すぐさま、ソラがシエンに文句を言う。


「人に頼んでまで守りたいんなら、最後まで自分で守ってみせろよ!!……お前らしくないんだよ!今日のお前は!死ぬんなら守りきってから死ね!」


 何も言えなかった……ソラがあまりに真面目な顔して言うから。


「【断罪者(コンビクター)】それが俺のスタイルだ。あいつらには言わないでほしい。心配かけたくない。

 大罪を殺す為に必要な力……大罪全員殺したら俺も死ぬんだと……」



 そう言ったシエンからは、いつもの態度がでかい空気は微塵もなく……。寧ろか細く、繊細で不安な表情をしていた。



「……はぁ。分かったよ。何かあったらユウマの事は俺達が守る。

 とりあえずお前はクロノスのジーちゃんの所に相談しに行けよ!

 なぁ……ユウマはお前が思うほど弱いやつか?

 まずは、自分の心配しろって……お前も………俺も………。」


 そう言うとソラは一人で風呂から上がっていく。


「らしくない……か。」



 シエンは湯気がかかって白くぼやける天井を見つめながら目を閉じた……。

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