10話 中立都市イースフォード④
見かけによらずラックの丁寧な説明で四人は多少?の理解を示すが……
「あの、ラックさん。スタイルの種類っていうのは上限?……何て言えばいいんだろう。限界数?その、えーっと……」
「つまり、お前はこれ以上の才能は持ち合わせてないから、これ以上努力してもなにも増えません……って事があるのか??って事が聞きたいんだろ?」
表現に困っているユウマに、シエンは呆れ顔で補足する。
「あっ!うん……。」
ユウマの不安そうな問いにラックは明るく答える。
「お!ユーマ君!いい質問だね!!その質問に対しての回答は……イエスだよ。強制開花っていうのがあって、大体が自分の中にある才能が全て出揃った時に発動する。と言われている。死地に立たされてる時に多い理由がそこにもある。
結局、訓練よりも実戦で生きるか死ぬかの時の方が限界を越えやすいしねー!どれだけ訓練しても増えない場合は、あとは実戦あるのみって事も多いのよ……
でも時間がない時、どうしても習得したい時っていうのが人にはある。そんな時にこれを使う!!
じゃじゃーーーん!!<揮昌石>ーー!!」
ラックは懐をゴゾゴソすると、深い碧く輝く石を取り出し天高く突き上げた。
「この石を胸に当てて一言唱えるんだ『アウェイク』
すると選択の時が始まる、さっき説明した様にその時に選んでも良いし、なにも選ばず断る事もできる。
未習得者の子達は、この訓練の始めに必ず揮昌石を使って、スタイル選択項目が増えてないかをチェックするところからスタートしてるよ!」
そこまで良い終えるとラックは……フゥ。と息を吐く。
周りの指導者達も、普段は口数よりも行動の方が多いラックの、珍しく丁寧で長い話に驚いている様だ。
少し前のゼクサスの言葉が刺さっているのだろう……
「まぁ、長々と話したけど、結局は聞くよりも見るが易しってね!後ろのカラフルヘアの四人は見た事ないと思うから……まずは、手っ取り早く俺のスタイルを見てもらおうかな!」
そう言うと、周りの訓練生達が歓喜の声でざわつき始める。
「宿れ……。」
そう一言呟くと、ラックの体の回りを黄色い光が螺旋状に渦巻いた。神々しさを感じる音が響き、足下から黄色い光が強く弾けた瞬間……ラックの格好が一瞬で変わった!
先程までのラフで軽そうな見た目から、白銀に所々、深い黄色が混じった鎧を纏った姿に変わった!
その背には長い槍がかけられており、誰の目から見ても強そうに見える。四人はその光景に目を輝かせる
「「「「か…………かぁっこいいぃーーーー!!!」」」」
男の子なのだから仕方がない。
他の訓練生達も滅多に見る事ができない。“クロスナイツの六騎士”と呼ばれるラックのスタイルを見て、訓練所内はどよめきと歓喜の声で埋め尽くされた!
「これが俺のスタイル【竜騎士】だよ。」
あまりの歓声にラックは少し照れながらも、屈託ない顔でニコッと笑う……
「俺の故郷はここからだいぶ遠くにある<龍の里>って呼ばれてる場所でね。だから、スタイルの種類も龍に携わるものが多かったんだ!」
そう言いながらスタイルを解くラックは自分が習得した時のきっかけを教えてくれた。
「いやー!これが実に恥ずかしい話なんだけどね。俺が10歳の時なんだけど夢を見たんだよね!!
里の守り神とされている龍が夢の中に出てきて『目覚めの時が来た!』って言ってきてさ。
朝起きたら俺は泣いてて、そのまま選択の時が来ちゃって気付いたらスタイルを習得してて【竜騎士】って結構上位種の能力らしくって、当然10歳の未熟な俺は力の強さを制御できなくて……
そのまま暴走しちゃってさ。大量の竜を召喚しては暴れまくって里を半壊させてた時に六騎士のガラハドさんが俺を止める為に里に来てくれて……。まぁ、なんやかんやあって、そのままここに引き取られたんだ!
んー。まぁ何が言いたいかって言うと、力を得たからといって扱いきれないと大変な事になるから、そこんとこ踏まえて日々修練は積んでおいてほしいってことかな!」
ラックは頭をかきながら経緯を説明する。
その言葉はまるで四人に向けて話している様で、その目は確かに四人を見据えていた。
話を終えると皆はラックに誘導され、いよいよ各々が揮昌石を手に取り胸に当てる……当然、四人もその中におり、それぞれが緊張と期待が入り交じったような表情でいた。
しばらく、ラックの周囲が静寂とまばゆい光に包まれる。
それぞれ修練に励んでいる者達も、この時ばかりは皆が手を止め見守っている。
少しすると、次々と目を開け落胆の声が聞こえてくる。かなり少数だが、力を習得し戻った者もいるようだった。
しかし、当の四人は中々目を開けない。
結局残ったのは四人だけになり、基本的に楽観的なラックも少々心配になり額から汗が流れるのを感じる……
次第にその表情から笑顔が消えはじめ、一応の判断で訓練生達を四人から遠ざけ指導者達を呼び集めた。
すると、シエン以外の三人は順番に目を開け、神妙な面持ちで周囲を見渡し三人が目を合わせた……
特に異常がなさそうに感じたラックは胸を撫で下ろす……。が、シエンだけが一向に目を開けない。
唯一光に包まれたままのシエンを見て、ラックは三人にすぐに自分の側に来るよう促す。
「……おかしいな。いくらなんでも長すぎないか?」
すると、ソラが心配しているラックを見ながら……
「まだ、話してんじゃねーの?」
その言葉を聞きラックが目線はシエンから外さず、ソラに問いかける。
「話す?一体誰と?」
「え?内なる自分って奴とじゃないの??」
ソラはキョトンとした顔で答える……
確かに選択の際に聞こえてくる声は自分自身の声。でも……話す?そんな例は聞いた事はない。
声は自分の声でも、あくまで世界の理が働きかけているだけのはず。言ってしまえば、アナウンスの延長線のようなもの………問答はできても、対話なんて出来るはずがない。
ラックが疑問を感じていると、突如シエンの周りの光が強くなる……
「!」
ゴゴ……と、深い地鳴りがし出す。
その瞬間「宿れ!!」ラックが緊張の声を張り上げる!
地鳴りが強くなり、広い範囲で大地が揺れ出す。
いざという時の為、ラックは臨戦態勢に入る。
槍をシエンに向けると、その身に雷を纏い矛先へと集中させる。
バチバチと雷鳴を轟かせながら、鋭い眼光を一瞬足りともシエンから目を離さない。
ズンッッ!
と、上から押さえ付けるような衝撃がくると、地鳴りは止み……
まるで何事もなかった様にシエンが目を開いた……
「いやー!なんか、習得したみたい……スタイル。」
笑いながらそう言うと、ラックは安心した様にスタイルを解いた。




