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白黒物語~2人と7人の主人公~  作者: 天然パ~マ
第一章 物語の始まり
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1話 平和な世界

かなり長い作品になりますが気長にお付き合いください。

 どうしてこんな事になったんだろう……


 刺しこんだ刃から滴る血で両の手が赤く染まるのを見ながら、ふと思った


 君を貫いた刃は根本まで深く刺さっている


 剣を握る手が君の体に触れ


 返り血が僕の体を赤く染める


 様々な感情が涙と共に溢れ、君の体温(ぬくもり)、君の血が僕の心と体を熱くする


 微かに聞こえた気がしたんだ


 徐々に死へと近づいていく君の口から


「ごめんな」って……



  ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―



 雲一つない昼下がりの晴天…

 森に覆われた山の奥の奥に一面拓けた場所がある。そこには一面の芝生と、教会に似た少し大きな家がポツンと一軒建っていた。

 家の外にはもうすぐ乾きそうな洗濯物が、気持ち良さそうに風に揺らされている。芝生の上で寝転んでいる少年が二人……

 白髪の少年が退屈そうな顔をしながら、溜め息混じりに呟く…


「平和だ。」


 そう言うと目を閉じ、深く息を吸って追加の溜め息をする。白髪の少年の隣で同じ様に寝転びながら、黒髪の少年が笑いながらツッコミをいれる。


「良い事じゃない。」


 そう言いながら体を起こして胡座をかく。白髪の少年は目を開けると、体を起こして黒髪の少年と背中合わせに胡座をかく。


「ソラ、重いよー!」


 黒髪の少年はまたも笑いながら、自分の背中に体重をかけてくる白髪の少年に体重をかけ返す。ソラと呼ばれた白髪の少年も一緒に笑う。笑いながらも、少しだけ真面目なトーンで話を続ける。


「まぁ‥‥良い事だとは思うよ。でもさ、俺達15年間ずっと森の外の世界に出た事ないんだぜ!!人間なんて、ここにいるやつ以外見た事もないし。母さんが外の世界は危ないからっ!て、山に結界張っちゃってるせいでさー

 ……平和すぎて、逆に退屈で死にそうだよ。ダイチは何も感じないのかよ!?」


 ダイチと呼ばれる黒髪の少年は、キョトンとした顔で


「退屈で死にそうって、ソラ‥‥この前森から迷いこんできた猪に追いかけ回されて、ホントに死にそうな目にあってたじゃない。」


 ダイチはお腹を抱え、笑いながら続けた。


「お風呂でリンの裸見て半殺しにされてたし……僕達の中ではソラが一番死にそうな時が多い気がするんだけど‥‥」


 ソラは眉間にシワを寄せながら怒鳴った。


「だぁかぁらぁー!あれはッ!!わざと覗いた訳じゃねーのにリンが勝手にキレてきたんだよ!!一応謝ったんだぜ?」


 怪訝(けげん)な顔をするソラに対してダイチが笑いながら返す。


「どーせ!適当な謝り方したんでしょ??」


 ウッ!と、つまりながら言い訳を続け、少ししてまた溜め息を吐く。


「ってか、あいつ強すぎだって………」


「ソラが弱すぎるんだよ。武術の時間の時、一番弱いもんねソラ。」


 そう言われると、ソラは後ろからダイチに覆い被さって、くすぐり攻撃を繰り出す。ダイチは爆笑しながらソラに謝ろうとするが、笑いすぎて上手く声が出せない。

 ポカポカと暖かい陽の光の下で、少し伸び始めた芝生が風にそよぐ。辺りはとても静かで、木々の擦れる音、芝生の上を風が走る音、空を飛ぶ鳥の鳴き声、二人の笑い声……まるで二人だけの世界のように、平和な時間が流れる。



 建物内の広間では、静かに怒る少年と静かに怒られる少年二人と少女一人。少し紫がかった黒髪の少年シュウは冷静に、淡々と、呆れた様子で怒っている。


「何回も同じ事を言わせないでくれないかな?そもそも13属性の関係性を理解してない時点で、駄目だよね?何年前に習った事だと思ってるの?」


 切れ長の眼のせいか、笑顔で怒ってるシュウからキツさを感じる。

 涙目で謝るのはフワフワした青髪のユウマ

 開き直るのはツンツンした赤髪のシエン


「ってか属性もなにも神話での話だろ?そもそも現実的じゃない時点で覚える意味ねーって!」


 椅子にふんぞり返っているシエンに対して、金髪エレガントヘアのエレンがもっともらしい事を言っている。


「シエン?その態度は教えられている者の態度ではなくてよ!!

 改めた方が宜しくってよ!!」


 そう言うエレンは子供達の中で一番頭が悪い。恐ろしいほどに……

 当然の様に当の本人はその事実を認識していない。


「なんでお前がそんなに偉そうなんだよ!」


 シエンの怒鳴り声が広間に響く。勉強を教えさせられているシュウの口からは、大きな溜め息がこぼれる。広間の奥から足音と共に、子供達の母ルーインの声が聞こえてくる。



「ごめんなさいねシュウ君。本当は私が3人のお勉強見てあげたいのだけど、いまからお祈りの時間で見てあげれなくて、いつも頼ってばかりでホントにごめんなさい、お母さんホント助かってるの~!その子達が真面目にやらなかったら無理に教えなくてもいいのよ?」


 フワッとした声でそう言いながらシュウの頭を優しく撫でると、慌ただしくパタパタとスリッパをならし礼拝堂への通路へと消えていく。シュウは頬を赤らめながらルーインを見送ると、フゥッと息を吐く。


「……恋だな」

「う、うん。」

「ふふ!そのよう……ねッッ!!」


 シュウは3人を見る。


「はぁ…………。」



 台所では今日の晩御飯担当のリンとモモが、楽しそうにお喋りしながら野菜を切っている。


「モモ、アレ取ってくれる?」


 焦げ茶色で腰まで伸びたサラサラストレートロングヘアのリンは沢山ある調味料を指差す。少し癖ッ毛のユルフワピンクの髪を揺らしながら、モモは調味料の一つを手にとってリンに渡す。


「流石モモ!よくそれって分かったね。じゃあ、あとアレとアレ取ってくれる?」


 今度は指を差さず野菜を切りながら言うと……


「鍋と油だね?火はつけちゃってもいいのかな?」


 ピンクの髪を揺らしながらてきぱきと動くモモを見て、リンは少しニヤッとすると、モモを抱きしめる。


「ホント………モモは可愛いなーー!!」


「わぁーー!!リン!!包丁危ないよーー!!」


 台所はカレーのいい匂いがする。



 森の中に入り山道を少し登った先にある崖で、綺麗な緑色の髪色をした少年が寝ている。そよそよと風が吹き、心地良さそうに寝息を立てている。しばらくすると、シュウの声が少年を起こす。


「……ル………ハル!」


 陽の光で眩しそうに目を開けるハルを覗き込むようにシュウが顔を出す。


「いつもここにいるね!ホント頼むから落ちないでくれよ?」


 ハルは体を起こして目を擦るがボーッとしている。


「……ここが……一番……落ち着くんだ……」


 眠そうに頭を揺らしながらハルはポソポソと喋る。崖からは森が一望できて、緑一色の景色が遠くまで広がっている。ハルはシュウから眼を逸らすと、ボーッとしながら遠くを見つめる。


「まぁ、景色は良いけど……」


 シュウはそう言いながら崖の周りにある壁を見渡す。壁には綺麗な面が一面もなく、傷跡が多く、崩れた岩がそこら中に散らかっていて、お世辞にも落ち着く場所とは言い難かった。ハルがまだ眠そうな声で呟く


「……シュウがここに来るの……珍しい……よね……」


「あーー、うん。ちょっとハルに聞きたい事があって……。」


 シュウは傷だらけの壁を見ながら少し小さな声で呟いた。

 陽がゆっくりと沈み始め、青一色だった空も表情を変える。オレンジの夕焼けと、燃えるような赤色の空はとても綺麗なのに、どこか不吉に見えた。シュウとハルは話が終わったようで、二人で山道を下っている。

 ハルは相変わらず眠たそうな顔をしながら、静かに歩く。シュウの表情はどこか暗く見え、少しだけ俯きながら静かに、でもどこか落ち着きなく、足取りは重い。

 少し前を行くハルの背中に目をやると、まるで合わせた様にハルの声が聞こえてくる……


「大丈夫だよ。……シュウは真面目すぎる……ね。……もっと……肩の力抜いてこーよ……俺みたいに……」


 そう言うハルの肩の力はとても抜けていて、ユラユラと横に揺れながら足を進めていたが、ピタッと足を止める。その直後に、風がハルの綺麗な緑色の髪をなびかせながら通りすぎ、少し後ろにいる、一緒に足を止めたシュウの体を覆う様に通り抜けていく。

 二人を囲む木々は揺れ、サワサワと葉っぱの擦れる音がした。

 ユラッ……とシュウの方に顔を向け、ハルはフワッと笑って見せた。その顔を見て、シュウは少しだけ肩の力が抜けた……


「そう、だよな。」


 シュウは少しだけ無理に笑って見せた。二人が森を抜けると家が見え、いつもと変わらず騒がしい声が聞こえてくる。どうやら、洗濯物を皆で取り込んでいるみたいだ。女の子達の姿は見えず、男子4人が笑いながらいる様子を見て……


「……ほら。あの4人にやらせておくと……陽が落ちきっちゃう……晩御飯……遅くなっちゃうから手伝ってきなよ……。」


 そう言うハルは、手伝う気は微塵もないらしい。肩で溜め息をすると、シュウは皆のところに走って行った。少しして足を止めると、振り返って口を開く。


「……ありがと。」


 夕焼けで赤く染まったシュウの顔は、どこか悲しそうに見えた。



 食堂では、すっかりご飯の支度ができ、温かく、カレーの匂いが食欲をそそる。洗濯物をたたみ終えた5人が騒がしく食堂に入ると、ハルがお腹をならしながらテーブルに顔を伏せていた


「……皆……遅すぎ……だから……」


 顔をあげて項垂れるハルに向かって文句が飛び交う。


「お前はほんっっと!自由な!」


 シエンは怒った様子もなく、笑顔でハルの癖ッ毛を両手でグリグリとする。性格が真逆の二人だが意外にも仲は良いらしい。ルーインを呼びに行った女の子達も食堂に戻り、10人は席につく。

 食事の前に、存在するかも分からない神へいつもしている祈りを捧げると、皆は黙ってお辞儀をして食事を始める。決まった席はない。

 いつも各々が自由に座り、自由に食べる。意外にも好き嫌いがあってもルーインは怒らない……きっと自身も食べれない物が多いからだろう。ソラ、ダイチ、シュウ、リン以外は今日も自由に残す。……もちろんルーインもである。


(神へ祈っといてこれか………)

 と、リンが訝しげな表情を浮かべるのも日課である。好き嫌い組の方が多い割には、食べ物が残される事はないようだ。それと引き換えに、いつも4名満腹で倒れ込んでいる。これも日課のようだ……

 片付けをするのは、いつも好き嫌い組の6名。食事が終わると一時間後程で入浴の時間になる。入浴はいつも、先にルーインを含めた女の子達が入る。


「覗いたら……………殺す。」


 リンはソラに向かってそう言い残しモモにおぶさりながら大浴場へと姿を消した。


「だぁからぁー!この前のは事故だってーーの!!」


 食堂にソラの怒鳴り声が響く………


 ホカホカとした様子で女の子達が戻ってくると、お風呂上がりの女の子をじっくり眺める、ハルを除いた思春期男子一同。この瞬間が男達にとっての一番の平和の象徴と言えるのかもしれない。


「さ、煩悩に満ちた男子達、女体の浸かったお風呂に、感謝しながら入っても、よぉろしくッッてよ!!!」


 騒がしいポーズを決めながら金髪エレガントは叫んだ。


「逆に入る気失せるっつーの……」


 煩悩に満ちた男子達は顔を赤らめながらお風呂場へと向かっていった。衣服を脱ぐソラとダイチを見ながら、シエンが真剣な面持ちで二人に聞く


「…………なぁ?いつも思うんだけどさ、お前達って顔そっくりじゃん?身長も体格も同じだし………」


「まぁ………双子だしねぇ。」


 ダイチは服を脱ぎながらニコニコと答える。


「髪の色はまぁ………いいとして。なんで、そこの大きさそんなに違うわけ??」


 シエンは指差す。


「……俺も……いつも思ってた……なんか……残酷だよね……」


 今にも電池が切れそうになりながら、ハルは二人の下半身をボーーッと見つめる。


「ホントにねぇーー」


 ダイチも自分達の下半身を見比べながら笑う。ソラは顔を真っ赤にしながら怒鳴る


「……余計なお世話だよ!!!」


 雲一つない夜空の下、何処からかフクロウの鳴き声が聞こえてくる。芝生は月の明かりを浴びて、気持ち良さそうに風になびく……

 家の中では9人の子供達は、少し幼さの残った顔で静かに寝息を立てている。

 家から少し離れた場所で、ルーイン?は月夜を見上げている。


「もう……限界ね……愛しい子供達……ごめんなさい。」


 昨日の晴天が嘘のように、空は雲に覆われ、朝にもかかわらず外は暗く、雨が勢いよく芝生に叩きつけられている。雲はゴロゴロと唸りながら、ピシャン!と光っては雷鳴が轟く……


「…………ラ」


 ダイチの声が聞こえる……


「……ソラ!!!」


 ダイチらしくない叫び声が聞こえ、飛び起きる。


「ダイチ?」


 ダイチは見た事もない、クシャクシャな泣き顔でベットの横に立っている。部屋に六つのベットがあるが、寝ているのはソラだけ……


「どうした?」


 なんか嫌な予感がする……


「なんで泣いてんだ?」


 嫌だ聞きたくない……


「ダイチ!」


 お願い……言わないで……


「……お母さんがね……息をしてないんだ。」


 ダイチの声は震えている。


「・・・」


 ソラは口を開きかけるが言葉がでない。ダイチはつまらない冗談を言う奴じゃないのを知っているから……ドアが開いてる。

 向かいの部屋から皆の泣き声が聞こえてくる……

 泣いたところを一度も見たことがない、シエンやリン、エレンの泣き声が聞こえてきて現実味をおびる。

 ハルだけは泣いていない様だが、息が切れた様子で表情は青ざめていた。


 息をしてない?死んでるって事?母さんが?どうして?


 この日………俺の中の退屈だった平和は簡単に崩れていった。

出来るだけ多くの方に読んでいただけると、モチベーションは上がりますw

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