幼馴染みの欠点がなさ過ぎてどうしようっ
「はい。出来たよ」
そう言って聡は、私の前に焼き立てのホットケーキをお皿に乗せた。蜂蜜たっぷりにバターのいい香り……思わずうっとりと見つめる。
今日は、彼の家でおやつをごちそうになっている。ではなく、私が食べたい!! と要望を出したら彼は「良いよ」と言ってすぐに振るまった。
だらしない姿でも、彼は気にしない上に私を好きだというのだから不思議だ。
むふふっと楽しみにしていたおやつの時間♪
好きと言ってから1カ月は経った。変わりなくお互いの家とを行ったり来たりで、今日は部活がお休みだと聞いている。
だからこその突撃訪問。だというのに、彼は不思議と笑顔で迎えるしちょっと拍子抜けだ。
思ってた反応と違うからかな。
「おいひぃ~~」
「落ち着きなよ。誰も取ったりしないってば」
ハフハフとしながら、夢中で食べる私に水色のエプロンをした聡が言う。料理が壊滅的な私と違い、彼は料理が上手いしお母さんに色々と教わっている。
なんだか、悔しくてその光景を睨んでいると聡のお母さんが「お菓子はどう?」という提案をしてくれた。
それならばと思って挑戦したけど……。結果は惨敗し、泣き崩れる私に聡のお母さんは「次、頑張ろう!!」と言ってくれたんだ。めげずにやっていたのも束の間、聡がお菓子まで作り始めた時には絶望しかなかった。
もう、私は彼には勝てないと分かった瞬間だ。
というか、顔がカッコよくて性格も優しくて、料理も出来るとかズルいでしょ!!!
(ふんっ、やけくそだ!!!)
「ちょっ、星夜。そんなに詰め込んだから」
「むぐっ、むむむ」
「だから言ったのに……」
さっと出された麦茶をゴクゴクと無心で飲み干す。ぷはーーと、喉に詰まり掛けた苦しさを脱出。その後、ガンッと机に頭をぶつける。
はぁ、何やってんだか……。
これでは彼女失格だ。そうでなくても、こんな完璧な彼氏はもう現れまい。そう思うと不思議だ。何で私なんだと思うのは普通ではないか。
「ねぇ……聡」
「ん?」
悩んでいる私と比べて、聡は向かい合わせて座りニコニコと見ている。未だにエプロンを付けており「おかわりいる?」と聞いてくる。今度はフルーツも付けてクリームもという豪華な盛り付けだ。
……聡なしで生きていられない。そんな気もするのが、ぷくっと頬を膨らませた私は聞いたんだ。
どこに惹かれる要素があったのか、って。
「笑顔が可愛いし、元気を貰えるしね。それに、作った料理やお菓子を嬉しそうに食べてくれるのが心地いいんだ。美味しかったでしょ?」
「そ、それはもう……美味しいです」
「ふふ、それは良かった。星夜が笑うの好きだしね。笑顔が見れるんだったらなんだってやるし、苦手な事は任せてくれて良いんだし。じゃあ、次は一緒に作って食べようか」
ぶわっ、と涙腺が緩む。
うぅ、こんなことあっていいのか。イケメンな彼氏が隣人とか、どこまでも優しいとかこんな贅沢していいのかっ……!!!
一直線過ぎてて、私が色々と持たないけども。
「……うん。作る」
「あ、エプロンは」
大丈夫。突撃すると決めた時、一応はエプロンを持ってきている。料理は壊滅的だけど、洗い物は出来るし必要なはずだ。1枚ペロリと食べられるのは、生地の量が少なくて小振りなホットケーキだからだ。
流行りのパンケーキと似せているに過ぎない。
お店に行きたいとは思うが、1人で行くには勇気がいるし……友達であるゆかりを誘おうとは思っている。そう思いながら準備をし、聡の隣へと向かう。
「まだ生地はあるし、味にも変化をつければパンケーキっぽくはなるでしょ? ほら、星夜は行きたがってたし今度行こうよ」
「え、でも……」
「甘いものは好きだよ? 嫌いじゃないし、今まで言ってないもの。部活帰りに、いい感じのお店を見つけたんだ。何度か行って、雰囲気も良いし学生でも手が出せる範囲の値段なんだ。お店の主人も、凄く良い人でね……今度、彼女を連れて来るって言っちゃったんだ。だから、さ……今度、行かない?」
うっ、そんな捨てられた子犬のような目で見て来ないでっ!!!
は、反応に困るし変なドキドキが……。
生地を流して無心で焼いていく。なんだろうか。まだ出来上がってない筈なのに、甘い空気が流れている気も……。
「あ、プツプツって」
「わ、わああっ!!!」
慌ててひっくり返す。今、思ったら何で後ろから支えられてるんだろう。別に隣でも良いよね。
「あともう少しだから、ちょっと待ってて。今の内にフルーツとクリームを用意しておくね」
「う、うん。お願い」
何だかほっぺにキスをされたけど、気のせいに思っておく。
綺麗に焼けた生地をお皿に乗せると、切ったフルーツと蜂蜜にクリームを盛り付ける。
な、なんだか2人で作ったみたいでちょっと嬉しい。
「ただいまぁ~。あ、ホットケーキじゃない」
「お、お邪魔してますっ!!」
その時、買い物から帰って来た聡のお母さんが入ってくる。あれ、何で私のお母さんまで……。
「星夜が急に突撃したからね。お詫びにアイスコーヒーと紅茶持ってきたの。おやつを作っているって話だったから、混ざっても良いでしょ?」
「うん、全然良いよ!!!」
「何でアンタが答えるの」
聡君でしょとコツンと叩かれる。しまった、つい家に戻った感じで……とチラリと聡のことを見る。凄くニコニコしている……こんなに笑うっけ?
「2人で作ったんです。一緒に食べましょうか」
作ったと言っても、生地は焼くだけだしトッピングのフルーツは彼が切ったし……殆どやってないけどね。4人分を焼き、普通サイズよりも小さいから夕食でも入るしね。
私はアイスコーヒーを作り、聡のコップを見ると紅茶が入っている。コーヒーに何も入れないで飲んでいると、ちょっと驚かれた様子で見られた。
「……ブラック、なんだ」
「あれ……飲めないの?」
「そうなのよ、星夜ちゃん。意外に聡って子供っぽくて――」
「ちょっ、そんな事言わないでよ!!!」
珍しく顔が真っ赤で否定している。
ビックリして思わず顔をマジマジとみる。私の視線の耐えきれないと見るやすぐにプイッと、そっぽを向くも耳まで赤いのを目撃した。
「別に嫌いって訳じゃ……ちゃんと慣れるもん」
「ふふ、そうね。星夜ちゃんの好きな物は、同じように好きになりたいんだものねぇ~」
「っ、だから!!! 今日に限って、暴露しないでよ」
同じものを、好きに……?
学校じゃ絶対に見れない貴重な場面だ。それはそうか……。お母さんに逆らうって相当難しいし。
にしても、コーヒーが苦手なんだ。
「……ちょっと、星夜までニヤニヤしないでよ」
「ううん。別に?」
その後も4人で楽しむ。が、いつの間にかお互いの暴露会になり、2人してお母さんの事を叱ったのは良い思い出だ。
大変だったなと聞いてくれた割には、ずっと笑っているお父さん。何だか恥ずかしくなって、1発蹴りをおみまいした。痛がるお父さんを放って私は自室へと逃げ込んだ。そこで、あっとなる。
(返事……しないと)
こ、今度……聡のおススメのパンケーキのお店に行くって。
後日、お店の主人に彼女だと紹介されて凄く恥ずかしかったけど……。でも、出て来たパンケーキが美味し過ぎて最高だった。
その後も密かに通うようになった私と聡。段々とではあるが、コーヒーが飲めるようになってきた彼に驚きを隠せない。いや、確かにこのお店のコーヒーはクセもそんなにないし、ハマるんだけど……。
どんどん弱点を失くしていく彼に、1つくらいないのかと聞くと――。
「星夜が好きなのが弱点だけど、気付かなかった?」
「……!!!」
サラッと言うから、みるみるうちに顔が赤くなっていく。常連客さん達に「若い」だの「青春だぁ」と言われ、思わず主人に助けて欲しいと視線で訴えると無言でアイスコーヒーを出されてしまった。
答えを言わずに、勢いよく飲んだ。……お、おかしい。苦い筈なのに、凄く甘いぞ。さっき食べたパンケーキをも上回るって、どういう事?
原因は分かってる。隣でずっと見ている、聡の所為だ。こ、答えの代わりに、常連さん達にもお店の主人にも見えないように机の下でさっと手を握る。
「っ……」
一瞬だけど、驚いたように固まった。
でも、すぐに柔らかく笑うんだ。……凄く、甘い顔。
じ、自分で自分の首を締めたんだと分かって手を離そうとしても「ダメ」と忠告をされる。暫くはそのままじっとされたから、どんどん耐えられなくなる。
結局、お店を出るまでずっと手を繋ぐハメになった。また来ようねって、言うんだけど。なんだけどもっ。
もう聡に勝てる気がしないよぉ~。良いのかな、このままで!!!